今回は蓮さんサイド。
ですが、どこまでもヘタレです……
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事務所の廊下を社さんと歩いていると前から社長が歩いてきた。
思わずそこで回れ右をして逃げようとした。
「いい情報をやろうと思ったんだけどなぁ・・・・彼女の」
その一言に社さんは「俳優部に行ってくるから、ラブミー部で待ち合わせ!」と逃げてしまい、結局社長室まで着いていく俺は、どこまでも社長に遊ばれる運命なのだろう。
「それでわざわざここまで呼んで何の用ですか?」
「ああ、実はな、最上君がドラマの主役に選ばれた」
「そうなんですか。彼女もCMにドラマにとどんどん活躍の場を広げてますから当然の事でしょう」
にっこりと微笑みながら社長に言葉を返すが、本当はどんどん綺麗になっていく最上さんが遠くなるようで、先輩として喜んであげたいのに喜び切れない自分が情けない。
「まあ、そうだな。それに今回は3ヶ月間、みっちり指導付きだ。ドラマに出演するよりそちらの方が何倍も逞しく成長するだろう」
「なっ!?」
みっちり指導付き?
いったい誰の、どんな指導を・・・・
俺の表情が変わったのを見てにやりと笑う社長が憎たらしい。
「そんなにカリカリすんな。俺の飲み仲間に彼女を預けた。相手はじじいだから安心だろう」
「それだって危ないじゃないですか!」
「お前の方がよっぽど危ないだろうが・・・・飢えた狼みてぇだ」
図星に思わず机を叩いて立ち上がってしまった。
「まあ、そんなに熱くなるな。ドラマは琴南君と一緒だし、今回のドラマの舞台は女子高校だ。だからお前の出番はないからな」
もしできるならそこら辺中の置物を片っ端から壊しまくりたかった。
*****
社は俳優部から出ると担当俳優がいるはずのラブミー部に向かったが、その担当俳優が見あたらない。
しかし、ここを待ち合わせ場所にしてしまったので、一人待っているとノックの音がして琴南さんが入ってきた。
「やあ、琴南さん。お邪魔させて貰ってるよ」
「こんにちは、社さん。ええ、確かに邪魔ですね。今日はあの子も来ませんし」
「え、そうなの? さっき松島さんにキョーコちゃんと一緒にドラマに出演するって聞いたけど」
「そうですけど私はあの子ほど生活全て、社長に遊ばれるのはごめんです」
深~いため息を吐いた琴南さんをみると、キョーコちゃんがまたとんでもなく社長に遊ばれてるらしい事がわかった。
「まあ、でもあの子にとって悪い事じゃないと思いますけど」
「え? どういう事なの?」
「3ヶ月間、別の学校に編入する事になったんです。それと今度の役はボディガードなので、武術や殺陣、アクションを付属の短大で習うので大変ですけど」
「え、さ、3ヶ月? その間の仕事は?」
「CM等の単発だけです。そのために一人暮らしを始めたんですから」
「ええっ!?」
キョーコちゃんがいきなり一人暮らし? そんなの危ないじゃないか!
だいたいそんなの蓮に知れたら、どんな闇の国の蓮さんが出てくることやら。
今でさえなかなか会えない中、今日はキョーコちゃんが事務所に来るはずだと聞いてやってきたのに、どんな意地悪ですかっ!
琴南さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、少し痛みの和らいだ胃を押さえて一人社長に悪態をついていると、ノックの音がして扉が開いた。
ゆらぁ~~~
「「ぎゃ~~~~!!」」
「何ですか。酷いですね、二人とも」
真っ青な顔で震える琴南さんには悪いが、俺は知っている。
闇の国を通り越してBJのおなりとは何をしてくれてんです、社長!!!
「ひ、酷いはお前のその雰囲気だろうがっ!」
「そ、そうですよ! そうだ、キョーコからちゃんとご飯食べてるか、聞いてくるように言われたんですけど、そんな顔色してどんだけ食べないんですかっ?」
キョーコちゃんの名前にふと雰囲気が和らぐ。が、部屋を見回していないことを見るとがっくりと凹んでしまった。
「キョーコの修行の話を聞いたんですか? 私も役者として武者修行は歓迎ですけど、あの子程無茶な運動神経してませんので」
「ああ、社長に聞いたよ。でもなんで運動神経が関係あるの?」
「今回のキョーコの役は私のボディガードですから。武道や殺陣、アクション等一通り習う予定なんです」
キョーコちゃんと言えば所作は綺麗だが、それより今回はあのびっくりする様な運動神経を買われたのだろうか。
「でも運動神経だけじゃ主役に抜擢される事にはならないんじゃないのかな?」
「ええ、ナツのカリスマ性も抜擢の要因らしいです」
「へぇ、キョーコちゃん、ちゃくちゃくと成長してるなぁ」
「そうですね・・・・」
「先程社さんには言いましたけど、あの子学校に専念するために引っ越したので、ラブミー部の活動は受けられません。宜しくお願い致します」
れぇぇん! 勘弁してくれぇ、これから仕事なんだぞっ!!!
すると俺の前にすっと琴南さんから紙が渡された。
「では敦賀さん、社さん。今日は失礼します。ごきげんよう」
「ああ、わかったよ。ドラマ頑張ってね」
「・・・・ドラマはいつから?」
「撮影は1ヶ月後からです。楽しみにしてて下さいね」
笑顔で去った琴南さんを見送ると、俺は部屋の中のヘタレ俳優を復活させる事にした。
「蓮、仕事だ」
「3ヶ月・・・・会えないなんて・・・・」
「ほら、これ」
目の前にさっき貰った紙を見せてやる。ぼーっと見ていた目に光が戻ってくる。
芸能界一良い男は初恋真っ最中。普段は笑顔に綺麗に隠すが裏では感情の浮き沈みがわかる。
「キョーコちゃん、個人用の携帯持つようになったんだな」
じーっと紙を見つめる男の背中を叩いて一日の仕事を始めたのだった。
でも・・・・3ヶ月なんて無理だぁっ!
***** つづく
うふふ、ぶっ壊れヘタ蓮さんですが、ちゃんと救い出す……予定。
次はキョコさんのターン!