
(1941/長島良三訳、『EQ』1983年7月号
6巻4号、通巻34号)
かつて光文社から
Ellery Queen's Mystery Magazine 特約の
隔月刊の雑誌で
『EQ』というのが
出てました。
「メグレと謎のピクピュス」は
その『EQ』に一挙掲載されただけで
今日まで単行本化されていません。
先日こちらのブログで紹介した
『フィルム・ノワール ベスト・コレクション
フランス映画篇 DVD-BOX』vol.1 に
本作品を原作とした
『署名ピクピュス』(1943)が
収録されているので
「読んでから観る」人間としては
まずは原作を読んでみた次第です。
本作品は
メグレ警視が
殺人事件の通報を待っている場面から
始まります。
不動産会社に勤める男が
カフェで手紙を書こうとして
便箋と吸取り紙を頼んだところ
その吸取り紙に
明日の午後五時、女占い師を殺す
という文字を見つけます。
その最後に
「署名、ピクピュス」
とありました。
原作の題名
そして映画の邦題は
ここから来ています。
通報を受けたメグレは
パリ市内の女占い師全員に
監視を付けたはずでしたが
看板を出して営業していないため
リストから漏れていた
マドモワゼル・ジャンヌが殺された
という通報が入ります。
現場に着いて、しばらくしてから
台所に閉じ込められていた
身なりのいい老人を発見しますが
精神に遅滞を来しているのか
事件に関することは何も証言できない。
その一方で
老人を家に送っていく際
メグレは老人が
何かを恐れていることに気づきます。
このあと、
当の老人とその家族に監視を付けたり
ピクピュスの署名を見つけた男に
監視を付けたりするのですが
捜査は一向に進展しない。
週末の休暇と称して
被害者を発見した女将の旅館に
夫人と共に滞在してみると
そこで新たな人物が登場します。
『EQ』の表紙に
鉤針と魚のオブジェがあるのは
この休暇の際に出会った男と
関係しています。
最初、表紙を見たときは
ピクピュスという魚でもいるのかと
思っていましたが
とんだ勘違いだったわけで(苦笑)
身なりのいい老人の秘密が
明らかになったところで
畳み掛けるようにして
謎が解かれていきますが
それまで待ちの態勢だっただけに
あれよあれよという感じで解決していくのは
ちょっとした爽快感がありますね。
雷鳴轟く中
関係者を集めての謎とき
というシーンも
珍しい感じで。
最後のちょっとしたオチも
ユーモアと可笑し味が感じられて
面白かったです。
ユーモアといえば
物語の途中で
ピクピュスという署名の謎というか
その正体が明かされる場面にも
珍しくユーモアが感じられました。
メグレものというのは
パイプを加えたメグレが
むっつりしてイライラしながら
事件ないし捜査が動き出すのを待つ
というパターンのものが多いので
(少なくとも自分が読んだ範囲では)
ユーモアが感じられるのと
ついつい
珍しいと思ってしまうのでした。
映画では
ピクピュスの扱いは原作と異なりますが
ユーモアはものすごく盛り込まれてます。
ミステリとしてのキモのひとつは
予告殺人のパターンを
ひねった物語であるところだと思いますが
なぜ予告するのかという理由づけも
そこそこ納得できるように書かれています。
身なりのいい老人と
その夫人をめぐる謎も
珍しくトリッキーなもので
英米のミステリっぽいところがあります。
もっとも小説としてのポイントは
身なりのいい老人の人生と
老人の妻の性格の方に
あるんでしょうけれど。
一読後、印象に残るのは
老人の妻は
強烈なキャラクターだと思います。
その他、印象に残るのは
事件が起きたのは夏場で
メグレが事あるごとに
ジョッキ・ビールを飲むシーンが
出てくるところ。
ガンガン飲んでる(笑)
あとで観た映画の方には
そんなシーンは
ひとつも出てきませんでした。( ̄▽ ̄)
ルーブリックで訳者が
佳作だと書いていますが
その評価に否やはなく
文庫化されても
良かったような気がします。
