
(1960/榊 優子訳、創元推理文庫、1988.5.27)
『耳をすます壁』に続く長編です。
90年代前半のミラー翻訳ラッシュの
(90年から95年にかけて
新訳2冊を含め6冊も出たのですから
翻訳ラッシュといっていいでしょう)
呼び水となった本邦初訳作品ですが
例によって
読むのは今回が初めてです。f^_^;
以下、感想を記しますが
今回、あまり褒めてません。念のため。
不動産業を営む夫と
平凡ながら充実した生活を送っていた
デイジーは奇妙な夢を見ます。
自分の家の墓がある墓地に
立派な墓碑が建っていて
自分の名前が刻まれており
没年は4年前の12月2日と
なっていました。
その夢には自分にとって意味がある
と考えたデイジーは
その4年前の一日に何が起きたのかを
調べようとする……
というお話です。
夢で見た墓標に
自分の没年が刻まれていたので
その理由を探ろうというのは
魅力的な出だしだと思います。
ただ、その調査行を中心に
一気呵成に物語が進行する
という感じではなく
デイジー自身が探偵の調査に
協力的なのかどうか
曖昧な感じだし
調査自体もサクサクと手順よく
進められている感じがしません。
たとえば4年前の12月2日には
ある流れ者が自殺したという事件を
新聞記事から見つけ出した後
夢で見たのと同じような墓碑が
あるかどうかを確認するために
現実の墓地に向かったら
似たような墓碑があっただけでなく
その流れ者の名前が
現実に刻まれていたという
まことに魅力的な
合理的な説明を求めたくなるような謎が
第1部の最後で示されます。
でも、第2部に入ってすぐさま
その自殺事件を再調査したり
葬られた男の身元を調査する
という風には進行しない。
そこが読んでて
何とも歯がゆい感じなんですね。
特に第2部に入ってからは
デイジーの
浮き草暮らしの実父の視点が混ざり
それに多産なカフェの女給が絡んで
物語の進行が
ややスローになってしまっています。
つまりサスペンスが
著しく欠けていると思うわけです。
本書には
デイジーの夢に絡んで
最終的に暴かれることになる秘密が
メインとサブと
ふたつあると思うんですが
メインの秘密のためのプロットが
サブの秘密を要請したように読めます。
そのために
ややプロットがごたついている
というか、謎の(秘密の)説明が
ごたついているような
印象を受けたのですが……。
上に書いたサブの秘密も
優に長編一本を成立させるくらいの
アイデアだと思うだけに
余計そう感じるのかもしれません。
あと、本作品も『耳をすます壁』と同様
最後の一句
フィニッシング・ストロークに
すべてを賭けたようなところがありますが
『耳をすます壁』ほど
それが上手く決まっていない。
全21章中の第20章で
だいたいそのラストの見当が
読み手にはついてしまっているのに
えんえん先延ばしにしている
ような感じがされて
この第20章の
良くいえば悠然とした書きっぷりは
本作品全体の性格を
象徴しているような気がします。
私立探偵のピニャータが
いつの間にかデイジーを愛していて
デイジーもいつの間にか
それを受け入れているんですが
読んでてそれが分かった時はほんと
「いつの間にか」という印象でした。
こちらが伏線を
見逃しているだけかもしれませんが
唐突の感はありましたね。
なぜピニャータとデイジーが
そういう関係になるのかについては
いろいろと物語上の必然性はありますが
プロットが要請したというより
読後感を良くするために
求められた設定なのではないか
という気がしないでもない。
それってメロドラマのための
御都合主義といえなくも
ないじゃないですか。ねえ。
御都合主義といえば
家族と友人付き合いのある弁護士が
夫の秘密(の一端)を
当人に確認することなく
妻であるデイジーに話す
という場面があって(pp.359-366)
これもストーリーを進めるための方便
という感じを強く受けました。
普通、弁護士って
いくら依頼人の妻から
聞かれたからといって
依頼人である夫の方の秘密を
簡単に喋らないんじゃないでしょうか。
なんか文句ばかりで申し訳ありません。
ブログで取り上げる本は
なるべく、いいところをあげて
褒めたいと思ってるんですが……( ´(ェ)`)
先に述べたメインの秘密に関して
例によって伏線が
きちんと張られています。
そのメインの秘密の真相は
松本清張や森村誠一が書いても
違和感がないようなネタでしたけど
それと同時にその秘密を抱える
あるキャラクターが
ロス・マクドナルドの某作品を
彷彿させるような気がして
興味深かったです。
といっても、それほど
ロス・マクを読んでいるわけでは
ありませんが(^^ゞ
各章のエピグラフは
ちょっと小ワザを利かせた感じで
そういうケレン味は
ミラーには珍しい気がしました。
もっとも
フィニッシング・ストロークなんて
ケレンの最たるもの
かもしれませんけどね(苦笑)
「ミラーの作品の中でも
一、二を争うといわれるこの傑作」
と解説で柿沼瑛子が書いてますけど
誰が言っているんだろう?
個人的には『殺す風』や
『耳をすます壁』の方に
軍配を上げたいところです。
本書も品切れ中。
そして『耳をすます壁』同様
後に表紙を変えて
刊行されたようです。
amazon のストアには
新しい方の表紙で
アップされていますので
参考までに以下に貼り付けておきます。
見知らぬ者の墓 (創元推理文庫)/マーガレット・ミラー

¥819
Amazon.co.jp
値段が表示されてますが
これは新刊として在庫があった場合の
想定される値段だと思います。
amazon のトップから検索かけても
現時点では
中古品しか引っ掛からなかったこと、
念のため、書き添えておきます。
