
(1957/吉野美恵子訳、創元推理文庫、1995.6.16)
『狙った獣』に続いて発表された
マーガレット・ミラーの長編です。
こちらも最初は
ハヤカワ・ミステリの一冊として
1958年に訳されたあと
1978年に同じ訳者によるものが
ハヤカワ・ミステリ文庫に入り
1995年に創元推理文庫から
新訳が刊行された
という履歴を持っています。
『狙った獣』を読み終えた
余勢を駆って
今回、初めて読み終えました。
これは一言でいえば
ミステリ版・男女7人夏物語
という感じで
(イメージ。ドラマの方は
観たことありません【^^ゞ)
カナダのある地方に住む
友人同士の付き合いがある夫婦間で
不倫騒動が持ち上がり
その顛末が330ページにわたって
書かれた後
残り30ページほどで
ドンデン返しがある
という構成になってます。
ミステリだと思って読む読者には
300ページぐらい読んだ時点で
だいたいの真相の見当が
ついてしまうのではないでしょうか。
だって、この展開でこう来たら
これしかないよなあ
という真相ですから。
だから何も考えずに
まっさらな気持ちで読むのが
正しい。
ミステリだと思ってもいけません。
……無理ですけど(笑)
ただ、では、だから
つまらないかといえば
そうでもない。
ミラーという人は
ものすごく小説が上手い人なんだなあ
ということが、よく分かります。
単なる不倫騒動なのに、
キャラクターが強烈なのと
(特にセルマ・ブルームの
はた迷惑さ? が印象的)
不倫の結果
子どもができたことを知って
失踪する妻子持ちの男性が
発見されるまでの展開が
妙にサスペンスフルにできているのとで
よくある話のはずなのに
ページを繰る手が止まりませんでした。
それでいて最後が
悲哀あふれるものになっていて
ちゃんとその悲哀の
よってきたるところの
伏線も張られています。
いわゆるミステリの伏線とは
性格が違うとは思いますが
実に見事としかいいようがありません。
それと本作品には
『狙った獣』のような
作ったエキセントリックさ
ためにするエキセントリックさが
ないと思うわけで
明らかに語り口や作風が異なっています。
そういう語り口や作風は
現代のミステリに
通じるようなものがある気がして
(それとも現代ミステリの方が
過剰にエキセントリックかな? w)
前回の『狙った獣』の感想で
『殺す風』の方が
「より自然な秀作」だと
書いた次第です。
前に、読み時・読みごろ
ということを書きましたが
本作品なんかは
やはりある程度
年齢を経ないと
面白さが分からないような気がします。
だから
この年になってから初めて読んで
それはそれで良かったかな、と。
こちらの本も
ハヤカワ・ミステリ文庫版
創元推理文庫版ともに
品切れかと思いますが
こちらは見つけたら買うことを
おススメしたいですね。

(小笠原豊樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、78.4.15)
『狙った獣』同様
ハヤカワ・ミステリ文庫版は
初版のテキストに基づき
創元推理文庫版は
ペンギン・ブックス版に基づいており
ペンギン版は改訂されているようです。
読み比べないと分かりませんが
創元版の方が
読みやすいかもしれませんね。
(二、三、気になる表現はありましたが)
ただ、小笠原豊樹の訳文は
当方の乏しい経験(読書量)に照らしても
名文であることが多いので
(なんてったって詩人ですから)
古風さを厭わないなら
むしろそちらで読んだ方が
いいかもしれません。
ところで
手許の創元推理文庫版を見たら
最終ページに鉛筆で
「260」と書いてありました。
何と古本で買ったのであったか!
と今さらながら気づいて
びっくりしてるという(苦笑)
