
(2010/七搦理美子訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2011.7.15)
サイモン・ジール刑事と
大学教授のアリステア・シンクレアが
コンビで事件に当たるシリーズの第2作目です。
シリーズ第1作の『邪悪』(2009)は
今年の1月に訳されていて、
こちらでも感想を書きました。
1906年のニューヨークを舞台に
ブロードウェイの劇場で
コーラスを担当する女優が
主役の衣裳をまとった死体の姿で
発見されます。
今は分署の署長となった
かつての同僚に呼ばれ
捜査への協力を要請されたジールは、
これが連続殺人の
二番目の被害者であると告げられます。
死体の脇に残されていた犯人のメッセージでは
自分をピグマリオンになぞらえており、
女性の美しさを永遠に残すために
演出しているのだといわんばかりでした。
ジールは、アリステアの紹介で
筆跡鑑定学者などの助けを借りながら
真相に迫っていく……というお話です。
歴史ミステリ、というより
時代ミステリですかね、やっぱ。
演劇界を背景としているので
演劇ミステリでもあります。
黎明期の犯罪学を援用しつつ
ストーリーが進められていきますが、
作者は慎重なのか臆病なのか、
犯罪学によって事件の真相や犯罪の様相が
あざやかに浮かび上がり
解決の決め手となる、
というような書き方をしていません。
勘に基づく地道な捜査が幸運にも
真相を明らかにするという
警察捜査小説っぽい書き方をしているので、
意外な犯人を提示されても驚きがなく、
ふーん、としか思えないのです。
エンターテインメントとしては
危なげがなく上々かもしれませんが、
プロット上の企みで
あっといわせられることもなかったので、
『邪悪』に比べると
ミステリとしての面白さは
一歩譲る感じがします。
ところで作中には偽造指紋の話が出てきて、
『シャーロック・ホームズの冒険』に
言及されているのですが(p.321)
ホームズもので偽造指紋が出てくる短編は
『シャーロック・ホームズの生還』の方に
収録されているんじゃないかと思うんですけど。
もっとも作者は書名をあげたつもりではなく、
いわゆるホームズの冒険譚というニュアンスで
書いているのかもしれませんが。
(翻訳だと明らかに署名扱い【苦笑】)
あるいは作中人物の記憶違い(藁
ちなみに偽造指紋をテーマにした
R・オースチン・フリーマンの
『赤い拇指紋』が刊行されたのは、
作中のピグマリオン事件の翌年、
1907年のことでした。
惜しいなあ(なにがやねんw)