【信州新そば巡り2008】 山形村唐沢そば集落 【そば食いのエデン・約束の地・アルカディア】 | C.I.L.

【信州新そば巡り2008】 山形村唐沢そば集落 【そば食いのエデン・約束の地・アルカディア】

新蕎麦が出回りだした時期に、長野県の穂高に住んでいる両親に 「そろそろ新蕎麦出てる?」 と聞いてみた。

だが電話口で

「ちょw新蕎麦出てすぐは去年の粉と混ぜて使ったりする店が多いからwww通は新蕎麦オンリーになる11月くらいになってから食べ歩くもんだからwwwニワカ乙www」

と嘲笑され、11月になるのを今か今かと待ち望んでいた。



勢い余って車を走らせるボクら。口では紅葉がキレイねえと言いながらも、頭の中は蕎麦一色なボクら。マジで蕎麦の事しか考えられない。



田舎来たぜ田舎!パブロフの犬状態なのか、こういう風景見ると何故かお腹が空くぜ!



で、今回の目的地は松本市からほど近い、山形村の唐沢そば集落。本来は清水寺という由緒正しいお寺さんを回りつつ蕎麦を楽しむべきらしいんだが、オレはもう脳内そばオンリー。とくにかく蕎麦。いいから蕎麦。

ちなみにここに来た理由はウチの両親に 「穂高辺りの蕎麦屋は大体行っちゃったでしょ?だったら山形村にでも行ってみたら?」 と薦められたからなんだが、結果的に 「地元の人間の情報は素直に聞いておこう」 と思い知った。当然の事ながら地元民情報すげー。



この唐沢そば集落の人達は、元々は唐沢川の水流を利用した水車を使って製粉業を営んで暮らしてたらしい。それで毎年新蕎麦の季節に採れたての地粉で蕎麦を打ち、その辺の小鳥なんかを焼いて客に振舞っていたところ、それが評判になって蕎麦の名所として知られるようになったそうだ。

ここがなんでまた "そば集落" と呼ばれているのかというと、写真のような農道チックな道路に沿って、蕎麦屋ばかり10軒以上密集しているからである。(徒歩でも回れるほどの広さ)

話によるとその全てのお店が独自の蕎麦を提供していて、店が違えば出てくる蕎麦も全く違うんだそうな。それに高級志向の店からドカ盛りの大衆向けまで経営方針も人それぞれという自由さ。言ってみれば "リアル蕎麦テーマパーク" みたいなもんらしい。

そりゃ店で使う素材の殆どを隣の畑から持って来れるような立地なんだもんなあ。客にとっても店にとってもいい話だよなあ。



あまりに蕎麦屋ばかりあってどこに入ればいいのかさっぱりわからなかったんだが、とりあえず集落の一番奥にあったお店に突撃してみた。

ここは弁天荘という旅館の中にある "水舎" というおそば屋さんで、このお店の経営者は集落で他にもお店を持っているらしい。(狭い集落に2軒も店を持つくらいだから美味いんだろうという適当な判断)



ええと……。ここは蕎麦屋っすよね?

きっと旅館の中にあったスナックかなんかを改装して使っているんだと思うんだけど、明らかに蕎麦屋の雰囲気じゃねえな。キスチョコと焼きうどんくらいしか出て来なさそうだ。




しかしメニューにはこのように心躍る文字が!ちくしょう!ニジマスとかトロ馬刺しとか気になるなあ。何軒も回る前提だからあんまり余計な物は食べられないというのに!

あと化学調味料不使用とか、無農薬栽培の野菜とか、お値段お高めだけあって色々と拘ってるんだねえ。(高いと言っても都内のコジャレ店よりは安いけどね)



前にも書いたと思うが、この辺一帯では客が来た時に大量の漬物とお茶でもてなすという風習(というか流儀) がある。これを怠ると 「あの家は客が来たのに漬物も出さない!」 と悪評が高まり、回覧板が回って来なくなるそうだ。

そんな土地だからなのか、注文する前から漬物どん!しかもちゃんとマジメに漬けてあって美味い。お茶ではなく米が欲しくなる。




まずやって来たのは粗挽き蕎麦。さすが知る人ぞ知る蕎麦の名所と言われているだけあって、香りも歯ざわりものど越しも良い。蕎麦の実の欠片のような黒い粒が残っているあたりがきっと粗挽き。ボキャブラリーないから 「おいひい」 としか言えん。さすがインチキグルメブロガー(略してIGB)。




続いて十割蕎麦。こちらは粗挽きと比べると少し粉っぽさがあって、インパクトが強めという感じ。これもこれで香りが良くて、濃い目に取ってあるカツオ出汁のつゆに負けてない。

あとふと思ったんだが、量が思ったよりも多い。これだけしっかりと量を出してくれるなら、この店の価格帯は高くないと思う。

蕎麦の産地にあるお店って、観光地価格でバカみたいに高くて、しかもチョコっとしか出て来ない自称高級店が多いじゃん。そういう店に限って雑誌やTVなんかで褒めちぎられてたりするじゃん。

お前ら山形村来て精神修行しろ。



ちなみに唐沢集落の辺りは長芋も採れるそうで、食べてみると確かに新鮮で美味い。自然薯なんかの山芋と比べるとドロっとした強さはないけれども、サラっとしてて、ちゃんと芋の風味があって、これはこれで食べやすくていいんじゃないかと。つゆが濃い目なのも長芋と合わせるの前提だからかね?


■水舎
住所:長野県東筑摩郡山形村7466-10
TEL:0263-98-3002
営業時間:10時~蕎麦切れまで?
定休日:不定休

評価:他のお店と比較してみての感想になるが、基本的にお上品にまとまっているスタンダードなお蕎麦屋さんだと思う。素材への気配りがされているため、その辺りの安心度も高い。




1軒目が美味しかったので、気を良くしたボクらは近くにあったお店に突入。どっからどう見ても民家っぽいんだが、暖簾は出てるし、きっと蕎麦屋なんだろう。



玄関を空けたら誰も居ない。ていうかさらに民家疑惑が高まった。必死に 「すいませーん」 と声をかけると、やっとオバちゃんが出て来て 「こちらどうぞー」 と声をかけてくれた。



そして通された部屋がここっていう。

え?いいの?縁側で日向ぼっことかしてていいの?寝るよ?親戚の家かなんかだっけここ?



だが壁にはメニューが貼ってあるし、間違いなく蕎麦屋なんだろう。多分。



そしてここでも当然のように注文する前からお茶と漬物が出て来る。しかも店ごとに出て来る漬物の種類が違うらしい。



程なくして注文した蕎麦(並) が登場。やっぱり量が良心的で、この地域で何軒も食べ歩くのは無理なんじゃないのかと危険メーターがグングン上昇。

だが目の前に出された蕎麦を、つゆをつけずに一口食べてみたところ、そのあまりの香りの良さに理性が吹っ飛ぶ。1軒目も間違いなく美味しかったが、この店の蕎麦はそういう次元じゃない気がする。美味いっていうか、完成形っていうか、仕上がってるというか、イっちゃってるというか。

まず爽やかかつ甘味のある香りがふわーんと来て、噛んでみると程よい抵抗感があって、うわ、うわー!



少し冷静になりまして、おつゆと薬味の紹介なぞ。

1軒目もそうだったけど、この店のつゆもお出汁をしっかり取ってて、それでいて塩辛さは控えめになっている。薬味にはネギと山葵の他に紫色の辛味大根が付いてくるんだけど、この大根がすげー美味いの。マジ美味いの。辛さもしっかりあるんだけど、それ以上に爽やかな香りの方が立ってる感じ。この大根を蕎麦に乗せて、つゆにちょいとつけて頂くともうヒデキ感激ネコまっしぐら。

美味い、これは美味いよ。



そんでもってここでもとろろ蕎麦を頼んでみた。お皿に乗せられた蕎麦の上にとろろがデロ~んとかけられている。お蕎麦もとろろも美味しいんだから、これが不味いわけもなく。

気付けばあっという間に食べ切って 「3軒目行こうぜ!」 と盛り上がっているボクらがいたわけで。



とその前に、野菜の天ぷらもオススメ。これだけ品数が多くて400円という謎のサービス価格。どれも田舎臭い天ぷらなんだけど凄く美味い。カボチャ・紫蘇・さつまいも・ピーマン・茄子・舞茸と、後は柔らかくてジューシーで蓮根なんだかカブなんだか微妙にわからなかった物などもあり、素朴なんだけどいいわー。塩でも蕎麦つゆでもどう食べても美味いわー。



茹で湯もドロ~っとしてて濃くて美味いわー。

この店は驚くほど当たりだわー。


■山法師
住所:長野県東筑摩郡山形村7550-97
TEL:0263-98-2418
営業時間:11:00~蕎麦切れまで(夜営業は予約のみ)
定休日:第1第3火曜日

評価:トンデモ美味い。むしろドン引きする。唐沢集落に限った話ではなく、長野県全体で見てみたって頭ひとつ飛び抜けて美味い。この店を 「大した事ない」 と言うようなヤツとは味覚が合わない。




2軒目の山法師さんでクリティカルを喰らったボクら。wizだったらマスターニンジャの群れに前列全員首をはねられて終了みたいな状態のボクら。

そんなボクらはいい加減にお腹も膨れて来てるというのに3軒目に突撃。すでにお昼時になっていたので、歩きで来てる地元の人や、松本ナンバーの車が目立つようになっていた。

このお店もそれなりに席数が多いのに、何とか1~2席だけ空いているという状態であり、何でもない平日であってもピーク時は避けないとダメなんだなと。

しっかしこの店構えは何というか、庄屋さんのお屋敷をそのまま店に改装しちゃった感じで凄く馴染む。お店の人の応対も田舎の親類みたいでとにかく馴染む。



お約束のごとく漬物からスタート。無駄に豪勢な盛りだなおい。都内の飲み屋ならこれで300円くらい取っても 「良心的だね♪」 なんて言われるぞ。しかもどれも美味いから残せなくて困る。



本当は次にもう1軒くらい行きたかったんだが、緊急会議の結果ここで燃え尽きようという流れになり、結果的に馬刺し。ガマンならず馬刺し。本当はモツ(これも馬モツ) を食べたかったんだが、お腹と相談して諸事情により馬刺しだけでガマン。さっき "ガマンならず馬刺し" と書いたが、正確にはガマンした結果として馬刺し。しかもこれが400円くらいで妙に安かったのよ。天ぷら盛りが700円くらいだから、半分程度のお値段で馬肉が食える謎の価格設定なのよ。

しかも馬刺し・馬煮・馬すじ・馬モツと、馬シリーズだけで色々とあって、どれも300円~400円程度なんだぜ?さらには鳥の唐揚げとか岩魚だのかじかだの嗚呼!

おいおい酒だよ酒!この店は夕方過ぎに飲みに来るべき店なんじゃないの?この店で酒をガマンするのは辛すぎる!っていうか、蕎麦だけで腹が膨れた3軒目なんてシチュエーションじゃ楽しめない!

この集落は近くに泊まって最低でも2日かけて楽しむべきなんじゃないだろうか!?


で、話は長くなりましたが、馬刺しがとっても美味しいです。臭みなんて殆どなくて、多少すじばって見えるものの、食べてみると肉の赤身の美味さが凝縮されてて、噛めば噛むほど深い味わいが襲ってくるという。

個人的にトロ肉やサシが苦手で赤身好きなので、こういうお肉がツボなんだよなあ。酒飲みたいなあ。これで400円とかなら、ここで仕入れて東京に戻って倍の値段で売っても喜ばれそうだなあ。



折角なので温かいお蕎麦を頼んでみた!

山菜が美味すぎて笑った!

ちょいと太めの黒っぽいお蕎麦で、少しボソっとした正しい田舎蕎麦って感じ。おつゆはここまでの2軒と違って甘味が強く、それが田舎っぽさを加速させている。イメージ的に東北の寒い地域の味付けってな印象。

もう少しお腹に余裕があればさらに楽しめたはずなのに……。

量多いなぁ……。



だがしかし!満腹なはずなのにざる蕎麦を目の前にするとスルスル食べちゃうから人体って不思議!温かいお蕎麦と同様にざる蕎麦のおつゆも甘味が強めで、素朴で落ち着くお味である。

この普通の蕎麦の実を普通に製粉して普通に打ってるだけという、普通の正しさを改めて思い知らせてくれるお店だ。(てかここは夜にお酒を飲みに行きたい)

1軒目はお上品、2軒目は神がかってて、3軒目のここは無骨な田舎蕎麦っていう見事なカテゴリー分けの妙。


■そば幸
住所:長野県東筑摩郡山形村下竹田7259
TEL:0263-98-2075
営業時間:11:00~15:00 17:00~21:00
定休日:木曜

評価:お蕎麦も純朴な美味しさなんだが、サイドメニューの豊富さに心奪われる。近くまた唐沢集落には行く事になると思うので、その時は夜営業の時間帯にお酒を飲みに行こうと固く決意。馬刺しと山菜の美味さと安さには笑うしかなかった。



■唐沢そば集落総評
この集落は店ごとに味が違う。蕎麦も違えばつゆも違うし、サイドメニューも店構えも何もかも統一感がない。価格帯で言うと、こだわりの高級志向のお店がざる蕎麦1枚800円くらいで、盛りの良い大衆向けのお店だと500~600円程度と、値段にも多少のばらつきがある。

だが大衆向けだから味はそれなりかと言うとさにあらず。基本的にどの店に入ってもそこらの観光地の 「雑誌とかにはよく出てるよね~」 ってな妙な蕎麦屋で食うより美味い。

強いて共通点を挙げるなら、どの店に入っても美味い蕎麦が食えるって点だけじゃなかろうか?

従って日帰りで行って2~3軒回る程度じゃ勿体無いので、どこか近くの温泉宿にでも泊まり、2日くらいかけてあれこれ回ってみるという行程をオススメしたい。(幸いなことに唐沢集落は松本市街~上高地の中間に位置しているため、車があれば小一時間で移動できる範囲に良質の温泉があれこれ揃っている)

今回訪れた3軒はどこもキャラが違っててバリエーション的に良かったと思うんだが、10軒以上ある内の3軒だからなあ。じゃあ他のお店はどうなのよ?と気になって仕方ない。もしかしたら山法師クラスの "爆弾" が隠れているかもしれんし。

というわけで、今まで新蕎麦の季節になるとあちこち飛び回ってたオレ様ですが、来年からはまず唐沢集落に来ようかなと。その後で穂高に行って両親の顔を見つつ中房温泉にでも泊まるかなと。あ~夢ひろがりんぐ。


※蛇足
この唐沢集落は蕎麦を売りにした観光地というより、地元の人が地粉を使って好意で蕎麦を振舞ってる的な印象を受けた。よって "いわゆる観光地" といった整備は殆どされておらず、逆に言うとだからこそどこも良心的で満足度が高いんじゃないかと。変な事せずこのままの形で後世に残したい土地だなあ。

※さらに蛇足
全てのお店でまずお茶と漬物が出されるんだけど、それはこの土地の流儀でそうしているだけであって、チャージ料金とかは取られません。お客さんに対するもてなしって意味の物です。


■参考リンク
・唐沢そば集落
・水舎
・山法師
・そば幸


※後編はこちら(温泉満喫編)