東村山問題まとめ 主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その1 | C.I.L.

東村山問題まとめ 主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その1

ここでは主な裁判の判決文を、その論点に対する各裁判所の判断が比較できるような形で掲載しています。

初心者用まとめ
主要裁判の経緯・論点・判決結果
これらと併せてお読み下さい。

また文字数制限の関係から判決文のすべてを掲載することができず、一部抜粋の形であっても限度を超えてしまったため、いくつかに分けて掲載します。

主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その1
主要判決文とその論点と各裁判所の判断 その2
※協力者が時系列ごとに個別URLを作ってくださいました(外部ブログ)

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『週刊現代』裁判 東京地裁(平成11年7月19日)

<論点=転落死について>
(朝木直子・大統のした「明代は創価学会に殺された」とする発言の真実性に対する判断)判決文59頁

一般の読者から見て公正中立性を維持していないと判断される報道については、報道機関自身が間接的に紛争当事者の一方の主張する事実そのものを主張しているものと解されるのであって、当該報道機関は、報道した紛争当事者の主張の存在についてはもとより、その主張内容それ自体がその重要な部分について真実であることまたは真実であると信じたことに相当性があることを証明しない限り、報道された紛争内容について名誉毀損行為としての不法行為責任を免れ得ないというべきところ、本件では本件発言部分における朝木らの主張内容それ自体についての真実性ないし相当性の立証がなされていないことは明らかである。


『週刊現代』裁判 東京高裁(平成13年5月15日)

<論点=転落死について>

(朝木直子・大統のした「明代は創価学会に殺された」とする発言の真実性に対する判断)判決文5頁
一般の読者から見て公正中立性を維持していないと判断される報道については、報道機関自身が間接的に紛争当事者の一方の主張する事実そのものを主張しているものと解されるのであって、当該報道機関は、報道した紛争当事者の主張の存在についてはもとより、その主張内容それ自体がその重要な部分について真実であることまたは真実であると信じたことに相当性があることを証明しない限り、報道された紛争内容について名誉毀損行為としての不法行為責任を免れ得ないというべきところ、本件では本件発言部分における朝木らの主張内容それ自体についての真実性ないし相当性の立証がなされていないことは明らかである。


(発言があったとしても、関与の疑いを指摘したにすぎず、したがって立証の対象は「明代が創価学会に殺されたとする事実」ではなく、「そのような疑いを抱かせるに足りる事実が存在したという事実」であるとした朝木らの主張に対する判断)判決文8頁
一審被告朝木らは、当審で、同一審被告らの行為(「明代は創価学会に殺された」と発言した行為)は事実の摘示ではなく、朝木市議死亡時に一審原告関係者が関与した疑いを指摘したという論評であるから、その疑いを基礎づける事実の真実性等が違法性阻却事由の立証対象と解されるところ、これを疑わせる事実が存する旨主張する。しかしながら、一審被告大統、同直子がそれぞれ久保山記者、野田記者に対して述べた内容及びこれに基づいて掲載された本件記事に照らして、同一審被告らの述べたところは、一審原告関係者が朝木市議殺害に関与したと断ずるものではないにしても、その旨の事実を指摘するものであることは明らかである。また、仮に同一審被告らが疑いを指摘したものとしても、その場合の違法性阻却事由の立証対象は、単に疑いの存在を立証したことでは足りず、原則としてその疑わしいとされた事実の真実性を立証することを要すると解すべきであるから、いずれにしても同主張を採用することはできない。



『聖教新聞』裁判 東京地裁(平成12年6月26日)

<論点=万引き・アリバイ工作・転落死について>
(戸塚証言について――万引きについてのみ)判決文140頁

被告戸塚の本件窃盗被疑事件の認識についても、被告戸塚がA女は亡明代ではないと知りながら、被告創価学会と意思を通じて本件届け出をしたり、本件戸塚発言をしたことをうかがわせるような証拠は何ら存在しない。

(千葉副署長の広報行為について)判決文163頁
本件各事件につき実施された捜査の内容、広報時点で把握できていた状況証拠等の客観的状況からみても、本件窃盗広報及び本件死亡広報は、千葉副署長の当然の職務行為として適法かつ妥当なものであって、千葉副署長に故意又は過失を認めることはできない。

(矢野・朝木の主張について)判決文115頁~122頁
(一)……原告らは、次のような事実の存在(ただし、本件証拠上、その存在を確定できない事実も多い。)や本件死亡事件についての原告らの考え方を根拠に被告創価学会に亡明代が殺された等の発言をしたことが窺われる。

⑴高知市の市民団体「ヤイロ鳥」が主催する被告創価学会を批判するシンポジウムが平成7年9月3日に高知で開催され、亡明代と原告矢野もパネリストとして出席する予定であったが、右シンポジウムが近づいた同年6月以降に、①本件窃盗被疑事件が発生(原告らは、亡明代にアリバイがあり、右事件は捏造されたものであると主張していた。)、②同年7月16日、原告矢野が、帰宅途中に暴漢から襲われ、頭や顔を殴られて、全治2週間の怪我を負わされた、③同月17日、草の根事務所周辺に、「こんな議員をトップ当選させたバカな東村山市民よ、早く目を覚ませ。市の恥『草の根』をこの街から排除しない限り、東村山は全国の笑い物になる。議会の進行を妨害するだけで、何の建設的意見を持たず能力もない『草の根』を即刻、追放しよう」とのビラが貼られていた、④同月19日、亡明代の自転車のブレーキが何者かによって壊されていた、⑤同年8月2日、原告矢野が、帰宅途中に横合いの路地から発進してきたトラック2台に挟まれて、轢き殺されそうになったが、そのトラックの所有者は被告創価学会員であった、⑥同月6日から、原告直子のポケベルに「1-02-03-04……」というカウントアップの数字が連日打ち込まれ、同月19日には死を意味する「4-4-4-4」という数字や、逆から読むと「焼け死に」を意味するポケベル文字の「2234218」とうい数字が打ち込まれた、⑦同月20日、亡明代宅の門柱の上に、コンビニエンスストアのビニール袋に詰め込まれた東京新聞等の古新聞の束に油を染み込ませ、放火された、⑧同月26日、ビニール袋に詰められた金属粉末状のものが同封されて、チラシの裏に「ばく死」と書かれた脅迫状が東村山市民新聞社宛に送られてきた、⑨同年7月ころから、被告創価学会関係者が「講師の命は保証できない。」とか「講師の身に危険が起きる。シンポジウムは中止せよ。」とヤイロ鳥を継続的に脅迫した、⑩同年8月28日には、「シンポジウムは中止しろ。このままやったら、ただじゃ済まないぞ。」とか「五体満足で、講師が高知の地を踏めると思ったら大間違いよ。」という脅迫電話がヤイロ鳥事務局にかかってきた、⑪同月21日には、高知県内各地の被告創価学会の文化会館で右被告の地区部長会が行われ、「シンポジウムを断固粉砕する。」との指示や申し合わせがなされていた、等の事件が続発していた。

⑵原告らは、本件死亡事件について、①亡明代が履いていたはずの靴が発見されていない、②原告やのが草の根事務所に戻った際、事務所には鍵がかけられていた(鍵を持っていたのは原告矢野と亡明代のみであった。)のに死亡した亡明代が草の根事務所の鍵を所持していなかった、③原告矢野が草の根事務所に戻ってきた際の事務所内の状況は、電気が付けっぱなしになっていたほか、亡明代のワープロも原稿が打ちかけのままになっており、亡明代の靴や財布等も全て置いたままになっていた、④本件マンションの住人が、事件当日夜、「キャー」という悲鳴を聞いていた、⑤亡明代は、背中を下にして身体を横にしたほぼ水平状態で落下したものであり、両足を下にして落下するとか、頭から落下するという姿勢ではなかった、⑥亡明代が死亡する直前に亡明代から原告矢野に電話がかかってきたが、その電話での亡明代の声に生彩がなく、どこかの部屋の中からかけられていたようなものだった、⑦事件発生後、第一発見者が亡明代に「飛び降りたんですか。」と問いかけたのに対し、亡明代が「いいえ。」と答えていた、⑧亡明代は本件窃盗被疑事件を行っておらず、亡明代が自殺をする動機は全くなかった、という事実が存在し、亡明代は自殺したのではなく、他殺であったと考えていた。

(二)しかしながら、右⑴の事実及び原告らが本件死亡事件について存在したとする右⑵の事実が全て真実であったとしても、それは被告創価学会と対立していた原告らにとって、本件各事件への被告創価学会の関与について疑いを抱かせるものではあったとしても、客観的に見れば、被告創価学会と本件各事件とを結びつける根拠としては極めて薄弱というべきである。亡明代が被告創価学会を批判、攻撃する活動を行っていたことはこれまで認定してきたとおりであり、これに対し、被告創価学会が亡明代を快く思っていなかったことは考えられるとしても、そのことからただちに、被告創価学会が亡明代を陥れるために本件窃盗被疑事件を捏造したり、ついには亡明代を殺害したということができないことはいうまでもない。

したがって、原告らは、被告創価学会が本件各事件に関与したと認められるような客観的な根拠もなく、被告創価学会に対し、さきに判示したとおりの名誉毀損行為をしたものである。



『聖教新聞』裁判東京高裁(平成13年9月11日)

<論点=万引き・アリバイ工作・転落死について>
(戸塚証言について――万引きについてのみ)判決文10頁

被控訴人戸塚が夕刊フジの記者の取材を受け、同記者に本件窃盗被疑事件の目撃状況を話した経緯及びその内容は前記2で認定したとおりであり、要するに、平成7年6月19日に被控訴人戸塚が経営するスティルでTシャツの万引きがあり、その犯人は亡明代に間違いないということに尽きる。……被控訴人戸塚としては自らが認識していることをそのまま夕刊フジの記者に話したものと認められ、特段認識する事実を歪曲したり、誇張して話したことを窺わせる証拠はない。

被控訴人戸塚が本件窃盗被疑事件について上記のとおり認識したこと、殊に『A女』が亡明代であることについては、被控訴人戸塚が亡明代の人相、容貌を知っていたという以外に根拠はないのであるが、このような認識に至ったことについては、……被控訴人戸塚の本件届け出を端緒として東村山署において捜査が進められ、他の目撃者等からの事情聴取の結果等を含めて、東村山署においても本件窃盗被疑事件は亡明代によるものと認めて東京地方検察庁八王子支部の検察官に事件を送致したことに照らすと、被控訴人戸塚に勝手な思い込みや不注意といった過失があったとは認められない。

(千葉副署長の広報行為について)判決文11頁
本件各事件につき実施された捜査の内容、広報時点で把握できていた状況証拠等の客観的状況から見ても、広報をすべき時期の選定を含め、千葉副署長のした本件窃盗広報及び本件死亡広報には、その職務を執行するについての注意義務に違反したと認めるべき事由は存せず、したがって、千葉副署長が本件窃盗広報及び本件死亡広報をしたことをもって違法ということはできない。



戸塚裁判東京地裁八王子支部(平成12年11月29日)

<論点=万引き・アリバイ工作について>
判決文61頁~65頁

1 被告らは、当裁判所からの度重なる求釈明にもかかわらず、「真実性の立証対象は、『原告が本件万引き事件をねつ造した事実』ではなく、『本件記事1ないし3に記載され摘示された具体的な事実の主要部分や論評の基礎となる前提事実の主要部分』である。」との見解のもとに、「被告らとしては『原告が本件万引き事件をねつ造した事実』が真実であること及び被告らが右事実を真実と信じるについて相当の理由があったことについては主張立証しない。」旨言明し、現実に、右の点については立証を行わなかった。

2 しかし、本件における被告らの抗弁としての真実性等の立証対象は、本件名誉毀損行為において摘示され又はその前提とされた「原告が、創価学会や公明党と共謀の上、本件万引き事件をねつ造して故明代を罪に陥れようとしている」との事実であり、被告らとしては、右事実が真実であること又は右事実を真実と信じるについて相当の理由があることを抗弁として主張立証しない限り、本件名誉毀損行為によって生じる不法行為責任を免れることはできないというべきである。

すなわち、被告らは、本件各記事における摘示事実や論評の基礎となる前提事実についての第四の一2(被告らの主張)記載の被告らの主張を前提にして、抗弁としての真実性等の立証対象は本件記事1ないし3に記載され摘示された具体的事実の主要部分や論評の基礎となる前提事実の主要部分であると主張しているところ、右主張は、本件記事1ないし3の記載内容について、その前後の文脈やそれまでに一般読者が有していた知識等を捨象し、そこに記載されている具体的な語のみを通常の意味にしたがって理解することを前提として、各記載文言それぞれにつき、それによって摘示された事実やその基礎となる前提事実の各主要部分の真実性等を検討すべきとの主張であると解される。

しかし、……本件記事1ないし3は、原告が、創価学会や公明党と共謀の上、本件万引き事件をねつ造して故明代を罪に陥れようとしていると主張し右事実を摘示したものないしはそれとともに同事実を前提に原告の行為の悪質さを強調する意見ないし論評を公表したものと解釈するのが相当であるから、被告らの抗弁たる真実性等の立証対象は、そこにおいて摘示された事実ないしは起訴とされた前提事実たる「原告が、創価学会や公明党と共謀の上、本件万引き事件をねつ造して故明代を罪に陥れようとしている」との事実であると解すべきなのである。

……これが真実であること及び被告らがこれを事実であると信ずるについて相当な理由があったことを認めるに足りる的確な証拠はないのであるから、本件名誉毀損行為が違法性を阻却され若しくは故意又は過失が否定されるとする被告らの抗弁は、その余について判断するまでもなく理由がない。


戸塚裁判東京高裁(平成15年7月31日)

<論点=万引き・アリバイ工作について>
(矢野・朝木が『東村山市民新聞』に掲載した記事の趣旨)判決文3頁

本件新聞の平成7年7月19日号から平成8年6月19日号まで6回にわたって掲載された記事は一連の記事であり、その内容は要するに、洋品店の女店主(被控訴人)が確たる証拠もなく故明代を万引きの犯人扱いしたという趣旨のものである……。

(矢野・朝木の主張に対する判断)判決文3頁~6頁
控訴人らは、本件各記事、すなわち被控訴人が確たる証拠もなく故明代を万引きの犯人扱いしたということは、主要な点において真実であると主張する。
そこで検討すると、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

ア 被控訴人は、西武新宿線東村山駅近くのブティック「スティル」(以下「本件店舗」という。)を経営する者であるが、平成7年6月19日午後3時20分ころ、故明代が本件店舗前の陳列ハンガーからTシャツ1枚(時価1900円)をはずし、着用していたジャケットの内側に挟み込んで立ち去るのを目撃したとして、警視庁東村山警察署(以下「東村山署」という。)東村山駅前交番に万引きの被害申告をした。

イ 東村山署刑事課捜査係長は直ちに現場に赴き、被控訴人から事情を聴取したが、被控訴人の供述内容は次のようなものであった。
(ア)平成7年6月19日午後3時15分ころ、本件店舗のレジで店番をしながらショーウインドー越しに外の人通りを見ていたところ、東村山駅の方向から歩いてきた故明代が店先においてあるハンガーの展示コーナーに向かうのを見た。
(イ)前から故明代の顔を知っていたが、平成6年夏ころにも商品を万引きされたことがあったので防犯ミラーを通して同人の動きを注意深く監視していた。
(ウ)故明代は、ハンガーから黒色の衣服を取り出し、小さく折りたたんだかと思うと、すぐさま脇の下に隠し、足早にイトーヨーカ堂の方向へ立ち去ろうとした。
(エ)本件店舗を飛び出して故明代を呼び止め、万引きの事実について追及したが、同人は「盗んでいない」と犯行を否認した。
(オ)脇の下に隠された商品を確認するため、故明代に両手を挙げさせたところ、脇の下から商品の黒色の衣服が足下に落ちた。
(カ)その商品を示して故明代を追及したところ、同人は「知らないわ、盗まないわ」と言って、イトーヨーカ堂の店内に逃げ込んだ。
(キ)本件店舗にいた客と通りすがりの人に店番を頼み、東村山駅前交番に万引きの被害申告をした。

ウ 被控訴人の供述から目撃者が3名いることが判明した。それらの目撃者は「客として本件店舗にいて被控訴人と故明代のやりとりの始終を見ていた」「通りすがりに被控訴人と故明代のやりとりを見ていた」と証言した。

エ 東村山署は、故明代が窃盗を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると判断し、同年6月30日、同年7月4日及び同月12日の3回にわたり、同署において故明代の取調べをした。

オ 故明代は第2回目及び第3回目の取調べにおいて犯行を全面的に否認し、犯行のあったとされる時間には、「びっくりドンキー東村山店(以下「びっくりドンキー」という。)において控訴人矢野と一緒に食事をしていた」旨のアリバイを申し立て、その裏付けとして、同店から受け取ったというレジジャーナルの写し及び北海道拓殖銀行東村山支店のキャッシュサービス明細書を提出した上、次のとおり供述した。
(ア)犯行のあったとされる日は、午前11時7分まで市議会建設水道委員会に出席し、午後零時過ぎまで総務委員会を傍聴し、午後2時ころまで控訴人矢野と共に東村山市役所内の草の根市民クラブの議員控え室において次回本会議の一般質問の準備をした。
(イ)その後、食事のため控訴人矢野と共に「びっくりドンキー」に向かったが、その途中、東村山駅前にある北海道拓殖銀行東村山支店に立ち寄り、東村山市民新聞の折り込み料を振り込んだ。その時に受け取ったキャッシュサービス明細書には、午後2時12分と記載されている。
(ウ)午後2時30分ころ「びっくりドンキー」に着き、当日のランチのセットを注文した。同店にはその後コーヒーを飲みながら1時間近くいて、控訴人矢野と別々に代金を支払った。レジジャーナルの写しには、時間が「15:21」と印字されているから、店を出たのは午後3時21分過ぎになる。

カ 東村山署は、故明代のアリバイについて裏付け捜査を行ったところ、故明代の供述のとおり、平成7年6月19日午前10時28分から午前11時7分まで市議会建設水道委員会が開催され、午前10時56分から午後零時1分まで総務委員会が開催されたこと、北海道拓殖銀行東村山市店のキャッシュコーナーに設置されている監視カメラの映像を調べた結果、同日午後2時9分19秒から午後2時12分57秒までの間に、キャッシュディスペンサーを利用している故明代の姿が映っていることを確認した。この時の故明代の服装は、パンツスーツに襟がチャイナカラーのブラウスで、黒っぽい手提げバッグを肩からかけており、被控訴人から聴取していた被疑者の特徴と一致していた。

キ 東村山署が「びっくりドンキー」の店長から事情を聴取したところ、次の事実が判明した。
(ア)同年6月30日の夜、年配の女性から電話で「6月19日午後3時ころ、同店でランチとコーヒーを2人分注文したが、レシートの写しが欲しい」と依頼され、翌日札幌の本社からファクシミリでレジジャーナルを取り寄せ、同年7月2日の深夜に来店した男女4人連れのうちの年齢40歳から50歳位の女性に渡した。
(イ)上記電話の際、年配の女性に当日のランチの種類と座ったテーブルについて尋ねたが、ランチについては「たぶん日替わりです」などと曖昧に答え、座ったテーブルの位置については何も答えず、「とにかくレシートの写しが欲しい」と言っていた。
(ウ)レジジャーナルと伝票の記載内容を確認したところ、当該客の座った場所は17番テーブルで、平成7年6月19日午後1時29分に日替わりランチを注文し、もう一人の客が同席した後、日替わりランチの注文が取り消され、レギュラーランチ2つとコーヒーが注文されている。
(エ)接客したアルバイト店員の記憶によると、17番テーブルには最初に45歳から50歳の女性が座り、日替わりランチの注文を受けたが品切れであることが分かり、すぐにその旨を伝えに行った。同テーブルにはもう一人の同年配の女性が座っていたので、2人に対し日替わりランチが終わった旨伝えると、2人ともレギュラーランチとコーヒーを注文した。
(オ)2人連れの女性客は、同日午後1時29分ころから午後3時21分ころまでの間、同店にいた。

ク 東村山署は平成7年7月12日、故明代の提出した上記レジジャーナルの写しは、同年6月19日午後2時30分ころから午後3時21分ころまでの間、「びっくりドンキー」において控訴人矢野と一緒に食事をしていた旨のアリバイを証明するものではないと判断し、故明代を窃盗罪の被疑者として東京地方検察庁八王子支部に送検した。

ケ 故明代は同年9月2日死亡した。

上記認定事実によれば、被控訴人が被害を申告した本件万引き事件においては、目撃者が3名おり、被控訴人の供述が裏付けられていること、東村山署の捜査の結果、故明代の主張するアリバイが証明されなかったことが認められる上、被控訴人の供述(陳述書の記載を含む。)によれば、故明代を犯人と確信する理由として、被控訴人は、①故明代が市議を務めていた東村山市内に住んでおり、本件店舗に通勤する途中、故明代の事務所前でしばしばその姿を見かけている、②故明代の選挙ポスターの写真を頻繁に目にしているところ、故明代は東村山市民にとっていわゆる「有名人」であり、その顔もよく知っている、③数分間も万引き犯人と対面しており、その際はっきりと犯人の顔を見ている、④東村山署における事情聴取の際、事件当日の故明代の写真(北海道拓殖銀行東村山支店のキャッシュコーナーに設置されている監視カメラで撮影された白黒写真)を見せられ、同人が着ていたパンツスーツは犯人の着ていたグリーングレーのパンツスーツと同じ形であり、同人の襟は犯人の着ていたチャイナ風の黒のブラウスとそっくりで、同人が持っていたバッグも犯人の持っていたバッグとそっくりであったというのであるから、被控訴人が確たる証拠もなしに本件万引き事件の被害を申告したということはできず、被控訴人が確たる証拠もなく故明代を万引き犯人扱いしたという事実の主要な点が真実であると認めることはできない。

控訴人らは本件万引き事件の犯人の服装は故明代の服装と異なっていること、本件万引き犯人の指紋が付いているTシャツのビニールカバーの提出がないことなどから、故明代が本件万引き事件の犯人でないことは明らかであると主張し、乙第42号証(控訴人朝木作成の陳述書)には、故明代が本件万引き事件があったとされる日に着ていたスーツの色はベージュであり、上着の下に着ていたブラウスもチャイナカラーではない旨の記載があるが(当日着用していた服装を再現したものとする乙32の1ないし3の写真を提出)、これを裏付けるに足りる証拠はない。また、証拠(甲17、乙37、被控訴人の原審供述)によれば、被控訴人はTシャツのビニールカバーを提出しなかったが、これを提出させるかどうかは捜査の手法の問題というべきであるから、その提出がなかったことから直ちに故明代が本件万引き事件の犯人でないことが明らかであるとはいえない。

控訴人らは、被控訴人が確たる証拠もなく故明代を万引きの犯人扱いした旨の記事を掲載したことについて、被控訴人が控訴人らの取材を一切拒否したことなどを挙げて、控訴人らがこれを真実と信ずるについては相当の理由があった旨主張する。しかしながら、証拠(甲14、15乙234、36、被控訴人の原審供述)によれば、被控訴人は、東村山署における事情聴取等において、犯人を目撃していたこと、犯人の服装はグリーングレーのパンツスーツに、チャイナカラーの黒のブラウスで、黒っぽいバッグを所持していたことなどを一貫して供述しているのであって、その供述が曖昧であるということはできず、被控訴人が控訴人らの取材に応じないなどの事実があったからといって、控訴人らが上記記事内容を真実と信ずるについて相当の理由があったということはできない。



『東村山市民新聞』裁判 東京地裁(平成13年2月27日)

<論点=万引き・転落死について>
(被告矢野・朝木の主張について)判決文30頁

(二)真実性及び相当性の根拠について
被告らは、原告(創価学会)関与事実(亡明代に対する予告殺人事件と窃盗被疑事件の捏造への関与)に関する真実性及び相当性の具体的根拠について明確に主張しないが、被告らの主張の趣旨からすれば、本件記事を掲載した当時、次の事実を根拠として、原告関与事実を真実であると信じ、かつ、そう信じるについて相当の理由があった旨主張していると窺われる。

(被告矢野・朝木が真実性・相当性の根拠とした「事実」)判決文31頁~40頁
⑴本件転落死亡事件について
亡明代は、議員活動の一環として、原告信者らによる人権侵害を批判し、原告を奪回した者を支援する活動を行い、また、宗教法人法の抜本改正を求める活動を行っていたことから、平成7年当初から、原告及び原告信者らとの間で緊張関係が続いていた。

亡明代及び被告矢野は、平成7年9月3日に高知で開催される「創価学会問題シンポジウム」に講師として出席する予定であったが、右シンポジウムが近づくと、次のような様々な嫌がらせや事件が亡明代や被告らの周辺で続発した。
(ア)亡明代は、被告朝木に関する「市議の当選辞退を考える会」において、テープレコーダーを持参して録音していたところ、原告信者である人物が同テープレコーダーを床に投げつけて損壊させた。
(イ)原告幹部信者が、被告らの事務所の 近所の住民に対し「朝木と矢野には何が起こるかわからないよ」との発言をして立ち去った。
(ウ)被告矢野は平成7年7月16日、帰宅途中に襲われたが、この暴漢は原告信者であることが判明した。
(エ)その翌日、被告らの事務所周辺に被告らを町から排除するよう呼びかけるビラがまかれた。
(オ)同19日、亡明代の自転車のブレーキが壊され、明代はブロック塀に衝突してけがをした。
(カ)同22日、7月17日にまかれたビラが再びまかれた。
(キ)同年8日2日、被告矢野は帰宅途中、トラック2台に挟まれひき殺されそうになった。このうちの1台の所有者は原告信者であることが判明した。
(ク)同8月6日から、被告朝木のポケベルに「4・4・4・4」など嫌がらせの数字が打ち込まれた。
(ケ)同年7月末、亡明代らは高知で開催される「創価学会問題シンポジウム」に出席を予定していたが、主催者に対して「講師の命の保証はできない。シンポジウムを中止せよ」などの脅迫が継続的に行われた。
同年8月21日には、高知県内各地の原告の文化会館で「シンポジウムを断固粉砕する」との指示や申し合わせがなされた。
同28日、主催者事務局の携帯電話に「シンポジウムは中止しろ。このままやったら、ただじゃすまないぞ」との電話があった。
(コ)同年8月26日、東村山市民新聞社 宛に「ばく死」と書かれた脅迫文と火薬のような粉末状のものが送りつけられ、のちにこの粉末は黒色火薬と判明した。
(サ)同年9月2日、亡明代の自宅前路上において不審なワゴン車が停車しており、この車の所有者の妻が原告会員であった。
(シ)同月4日、亡明代の葬儀場前路上において、2,30人の原告会員がたむろしていた。
(ス)同月5日、「9月1日、私見ました」との匿名電話が入り、教えられた住所を調査したところ、右住所には匿名電話で教えられた者と同名の元公明党市議が居住していた。
(セ)同年9月6日、亡明代の長男が乗った自動車が、被告矢野を同被告の自宅まで送って帰宅する途中、車3台で追尾された。このうち1台の車は、被告矢野を襲った原告信者が所有するトラックであった。
(ソ)本件転落死亡事件を担当した検察官及びその上司が原告会員であった。
(タ)原告幹部信者である検察官の指揮の下、亡明代を被疑者とする本件窃盗被疑事件が捏造された。
 本件転落死亡事件に関して、次の事実があり、自殺でないことは明らかである。
(ア)亡明代は、第一発見者の「飛び下りたんですか」との問いかけに対し、「いいえ」と答えた。
(イ)亡明代が墜落する際、「キャーッ」という悲鳴を近所の住人が聞いている。
(ウ)亡明代が当日履いていた靴が未だに発見されていない。
(エ)亡明代が当日所有していた事務所の鍵束は、靴と同様に初動捜査では発見されなかったにもかかわらず、平成7年9月2日、発見された。
(オ)亡明代は、頭から落下したのでも、足から落下したのでもなく、横倒しの状態で落下した。
(カ)亡明代が死亡する直前に、亡明代から被告矢野に電話がかかってきたが、電話口での明代の声は、危機状況の恐怖から発せられたものであった。
(キ)亡明代は、本件窃盗被疑事件には関与しておらず、自殺する動機は全くない。

⑵本件窃盗被疑事件について
(ア)亡明代は、本件窃盗被疑事件が発生したとされる時刻に、被告矢野と食事をしていたのであり、亡明代にはアリバイが存在する。
(イ)本件窃盗被疑事件と亡明代とを結びつける客観的な物証は何一つなく、両者を結びつける証拠は、目撃者とされる戸塚及び客らの証言であるが、これらはいずれもその内容があいまいかつ変遷しているのであって、信用できないものである。
(ウ)本件窃盗被疑事件につての警察及び検察の捜査は極めて杜撰なものであり、その捜査を担当した検察官は原告会員であった。
(エ)本件窃盗被疑事件が警察から発表される二日も前に、「東村山在住・健全な社会を願う一市民」との名義で、「東村山市議会議員の朝木明代氏が、市内の女性服販売店で万引きをしたとの事実を確認しました。(中略)ぜひとも、取材の上、事実の正否を市民に投げかけて下さい」との文書が、マスコミ各社にファックス送信された。
(オ)本件窃盗被疑事件が検察庁に送致された平成7年7月12日の直後には、「朝木市議万引きで書類送検」、「『議席の私物化』の後は『商品の私物化(ブラウスの万引き)』?!」というビラが事務所及びその周辺に貼られた。
(カ)さらに、同年8月8日付で、「朝木議員と矢野氏は万引き事件の翌日、被害のあった店を訪ね、“万引きをしたのは自分達ではないぞ”と脅かしている」、「これは万引き事件をもみ消すための行動ではないのか?」というビラが東村山市役所内外で配布された。

(被告矢野・朝木が真実性・相当性の根拠としてあげた上記事実に対する判断)判決文40頁~41頁
被告らの主張する右⑴及び⑵の各事実のうち、本件証拠上、その存在自体を確定することができない事実が多く、また仮にそのような事実が存在したとしても、原告ないしその信者などの関係者の関与を確定することができない事実が多い。この点をひとまず措いて、仮に被告らの右主張事実を真実と仮定したとしても、客観的に見れば、原告が本件事件に関与していると認めることはできず、かつそう信じたことについて相当の事由があるということはできない。すなわち、亡明代が原告を批判する活動を行い、これに対し、原告が快く思っておらず、被告らが嫌がらせを受け、これに原告ないしその信者などの関与が窺われるという事情があったとしても、そのことから直ちに、原告が亡明代を陥れるために本件窃盗被疑事件を捏造したり、亡明代を殺害したりしたと認めるには足りず、原告と対立関係にあった被告らが原告の関与によるものと思い込んだとしても、そう信じたことが客観的に見て相当ということはできない。


『東村山市民新聞』裁判東京高裁(平成13年12月26日)

<論点=万引き・転落死について>
(真実性・相当性についての控訴人矢野・朝木の主張――追加事実のみ)

ア 本件転落死亡事件について
(ア)被控訴人は、平成7年9月12日、同月11日発売の「週刊現代」9月23日号に掲載された「東村山女性市議『変死』の謎に迫る/夫と娘が激白!『明代は創価学会に殺された』」と題する記事が被控訴人の名誉を毀損するものであるとして、同誌の編集長、明代の夫大統及び控訴人直子を警視庁に告訴したが、東京地方検察庁八王子支部は、平成10年7月15日付で不起訴処分とした。不起訴処分の理由は、被控訴人側が本件転落死亡事件に関与した疑いは否定できないというものであった。

(ウ)明代の司法解剖に係る鑑定書によれば、明代の上腕内側部に皮膚変色部が存在していたが、これは明代が何者かによって殺害されたことの決め手となるものである。また、明代は、身体を横にしたほぼ水平状態で落下しているが、これは自殺ではなく、意に反して何者かに落とされたことを示している。
明代の遺留品からは、同人が履いていたはずの靴が発見されていないが、このことは、明代が現場まで自ら歩いていったのではなく、何者かに連れ去られたことを強く推認させるものである。
また、明代が転落した現場のビルの居住者が、事件当日夜に「キャー」という悲鳴を聞いているが、自殺を企図している者がそのような悲鳴を上げるというのは不自然であり、むしろ意に反して落下した者の反応として考えるのが自然である。しかし、東村山警察署及び指揮した東京地方検察庁八王子支部は、この悲鳴に特段の考慮を全くせずに捜査を終了させているが、これは極めて不自然な捜査方針である。
本件転落死亡事件の当日夜に、現場から約100m離れた場所にある「草の根共同事務所」の出入口の鍵をかけたのは明代以外に考えられないが、瀕死の状態で発見された明代は上記の鍵を所持しておらず、この鍵は17時間以上も経過した平成7年9月2日午後5時半ころになって現場ビル2階踊り場付近で当該ビル内の焼肉店店主によって発見され、それから2日経過した同月4日午前0時45分になって同店女性マネージャーが東村山駅前交番に届け出たとされている。しかし、その経過は極めて不自然であり、また、届出に係る焼肉店関係者は出頭を拒否したままであり、同店主は約1年後に急死するなど、事件の解明のための補充捜査は全く行われていない。
本件転落死亡事件発生当時、事務所内は電気がつけっぱなしになっていたばかりか、明代のワープロも原稿が打ちかけのままになっており、さらには、明代の鞄や財布等までもがすべて置かれたままになっていた。明代が市議会議員であり、また、盲目の夫を持ち、3人の子を持つ母親としての立場も有していたことを考え併せるならば、これほど何の身辺の整理もしないままに自殺に至るということは到底考えられない。また、明代の遺書も残されていない。
第1発見者のモスバーガーの店長が転落した明代に対して「飛び降りたんですか。」と問いかけたのに対して、明代は、「いいえ。」と明確にこれを否定している。
明代は、本件窃盗被疑事件の犯人ではなく、嫌疑をかけられたこと自体について悩んでいた事実もなく、むしろ、全く身に覚えのない嫌疑をかけられ、かつ、東村山警察署の突然の書類送検という措置に抗議して闘っていく姿勢を見せていたものであり、明代が自殺に及ぶ動機は全く存在しない。
さらに、明代は、本件転落死亡事件当日の午後9時19分に、自宅の電話から、事務所にいた控訴人矢野に電話をかけ、数秒間会話をしているが、その会話に係る音声の周波数を分析した結果、生命の危機に直面した極度の緊張状態を示す周波数変化であることが判明した。

(エ)被控訴人は、平成6年ころから、組織ぐるみで、本件新聞の配布を妨害した。
(オ)被控訴人の関係者は、明代らの活動を放置できないものと認識し、平成7年1月29日に明代らが行った「創価問題講演会」の終了後、明代らを尾行した。
(カ)公明党の副委員長であった大久保直彦参議院議員は、明代らが同年3月18日に開催した「草の根市民の集い」に出席を予定していた田英夫参議院議員に対して、上記集会に出席しないように干渉し、上記集会を妨害した。
(タ)本件転落死亡事件が発生した前日の同年8月31日付の「聖教新聞」紙上には、「“今こそ、勇敢に前進する時”ととらえ、旺盛な意欲を燃やして挑戦の行動を展開しよう」、「一部の政治家、マスコミ等と結託し、その陰で暗躍する反逆者の悪の謀略を鋭く見破り、断固糾弾していきたい」、「信教の自由を侵す策謀は、絶対に許してはならない」との被控訴人の秋谷栄之助会長の「檄」が掲載された。当時、明代らは、宗教法人法の抜本改正を求める市民運動を全国的に展開しており、被控訴人は、明代らの活動について、信教の自由を侵すものとして、危機感を募らせていたが、上記の「檄」は、被控訴人がその信者らに明代らを断固糾弾するよう煽動するものである。そして、同日午後2時30分、元被控訴人の幹部でその後脱会し、被控訴人の批判を展開している龍年光元公明党都議会議員の事務所に、被控訴人の信者高野武仁が日本刀とモンキーレンチを携えて乱入した。
(テ)同年9月4日に放送された文化放送のラジオ番組「梶原しげるの本気でDONDON」において、被控訴人の西口広報室長が、被控訴人が言論出版妨害事件や共産党委員長宅盗聴事件を過去に引き起こしたという謀略体質のある点について、事実を認め、謝罪したものの、被控訴人が組織全体として行ったものではなく、一部の行き過ぎである旨の虚偽の発言をした。
(ニ)同年9月8日、何者かが、控訴人矢野の自宅に、同控訴人を追いつめて飛び降り自殺にみせかけ殺すと脅迫する電話をかけた。
(ヌ)同年9月21日付で、草の根共同事務所に、「矢野を殺そう」、「死ね、矢野」と記載されたファクシミリが送信された。
(ネ)被控訴人の秋谷栄之助会長は、平成9年8月29日付の「聖教新聞」紙上において、名指しで、控訴人ら及び新潮社には、反人権体質、反社会性があるので、裁判で「週刊新潮」や控訴人らのウソを暴き、悪に鉄槌を下したいと述べ、被控訴人の信者らが徹底的に戦う相手は、特に「週刊新潮」や控訴人らであることを公然と主張して被控訴人の信者らを煽動した。
(ノ)被控訴人の教祖的人物で実質的支配者の池田大作は、平成11年9月14日付「聖教新聞」紙上において、被控訴人の信者らに対し、「卑劣なる仏敵を、永遠に許すな!」、「広宣流布を破壊せんとする、策略の言論の暴力には『断固たる大反撃』を合言葉に、戦い抜いて頂きたい」と、被控訴人に対する批判者に対して徹底的に戦うよう「檄」を飛ばし、煽動した。
(ハ)平成6年12月1日付の日蓮正宗関係機関誌上において、池田大作が被控訴人の信者に対し、被控訴人への批判者に対して、暴行や殺人を教唆している事実のあることが報道された。また、平成9年9月10日付の被控訴人の「日顕宗対策」と称するビラには、被控訴人が謀略により、その敵視する日蓮正宗の情報を入手して、日蓮正宗信徒の組織である「法華講」を切り崩し、脱退させる工作を指示しているとの記述がある。さらに、被控訴人は、日蓮正宗本山代表者の人格攻撃を目的として、その機関紙創価新報に、背景や人物を消すなどし、写真を変造するなどの謀略を用いたが、このように被控訴人が組織的に反社会的謀略を行った事実は、裁判所における判決においても認定されている。

イ 本件窃盗被疑事件について
(ア)明代は、本件窃盗被疑事件には無関係である。戸塚が供述する同事件の犯人の服装は、明代が当日着用していた服装と明らかに異なっている。明代が犯人であるとの戸塚の証言には変遷があって信用性がない。また、同事件があったとされる当時、明代は、控訴人矢野とレストランで食事をしていた。
(ウ)東村山警察署が明代を窃盗容疑で書類送検した当日、東村山市議会副議長を務める公明党の木村芳彦議員が同署を訪れ、署長室で本件窃盗被疑事件について同署長及び副署長と面談した。

(判断の前提となる裁判所の基本的な考え方)判決文14頁
本件記事において提示された事実は、本件転落死亡事件が自殺ではなく殺人事件であって、これに被控訴人が関与しているとの事実及び明代を被疑者とする本件窃盗被疑事件が捏造されたものであり、これに被控訴人が関与しているとの事実であるから、真実性の証明の対象となる事実は、本件転落死亡事件が起きるまでの間に明代や控訴人らの周辺で発生した一連の事件や同人らに対する嫌がらせ等に被控訴人の関係者が何らかの関与をしているのではないかとの疑いを裏付ける事実(嫌がらせ関与裏付け事実)ではなく、明代を被疑者とする本件窃盗被疑事件が捏造されたものであって、被控訴人がこれに関与しているとの事実及び本件転落死亡事件が殺人事件であって、被控訴人がこれに関与している事実(被控訴人関与事実)であるというべきである。

(矢野・朝木の主張に対する判断)判決文17頁
⑴本件転落死亡事件が殺人事件であり、これに控訴人が関与していること、あるいはそのように控訴人が信じたことについて正当の理由があることの根拠として控訴人らが挙げる事実(前記アの各事実)についての検討

本件事件当時、明代や控訴人らが脅迫等の嫌がらせ等を種々受けていたと控訴人らが主張する点については、確かに、被控訴人の信者又は客観的にみて信者あるいは関係者と疑われる者が関与していると認められるもの(信者が明代のカセットレコーダーを損壊した事実、関根所有のトラックを含むトラック2台が控訴人矢野に危害を加えようとした事実、ビラ配布の事実。ただし、ビラは、前記「草の根グルーブの議席の私物化を許さない会」の名称で配布されている。)もあるが、むしろ、被控訴人の信者が関与していることの客観的な裏付けを欠くものや、控訴人らの主張によってさえ被控訴人の信者が関与しているか明らかではないものも多く含まれている。

被控訴人自身が関与しているものと認められるもの(聖教新聞における各記事の掲載の事実)についても、これが明代の殺害を教唆したり、煽動するような内容のものとはいえない(そもそも、上記(ネ)及び(ノ)の聖教新聞の各記事は、いずれも本件転落死亡事件の後のものである。)。

また、本件転落死亡事件を担当した東京地方検察庁八王子支部の信田昌男検事及び吉村弘支部長検事は、いずれも被控訴人の信者であることが認められるが、このことから同事件の捜査が公正を欠くものであったとは証拠上認められないし、まして、このことが同事件に被控訴人が関与していることの根拠となるものではない。

さらに、前記(ア)のとおり、週刊現代記事に係る告訴に対しては不起訴処分がされているが、このことがただちに本件転落死亡事件に被控訴人が関与していることの合理的な根拠となるものではない(なお、控訴人矢野は、上記告訴事件を担当した検事が、本件転落死亡事件に被控訴人が関与した疑いは否定できないと不起訴処分の理由を述べていた旨陳述するが、上記判断を左右するものではない。)。

確かに、当時、明代が被控訴人を批判する言動をしていたことから、被控訴人やその信者の多くがこれを快く思っていなかったものと考えられるが、このことから本件転落死亡事件に被控訴人が関与していると推測するのは短絡的にすぎる(なお、「草の根グループ」に対しては、被控訴人やその信者以外にも批判的な立場の者は少なくなかった。)のであって、結局、控訴人らの主張を検討しても、いずれも本件転落死亡事件との関連性に乏しく、客観的に見て、同事件に被控訴人あるいは被控訴人の信者が関与していることの根拠としては甚だ薄弱であるといわざるを得ない。

⑵窃盗被疑事件についての検討

東村山警察署が明代を窃盗容疑で書類送致した当日、東村山市議会副議長を務める公明党の市議会議員木村芳彦が同署を訪れ、署長室で本件窃盗被疑事件について同署長及び副署長と面談したことがあったことや、本件窃盗事件の担当検事も信田検事であることが認められるが、これらを含め、上記と同様、前記イにおける控訴人らの主張を検討しても、同事件が捏造されたものであって、これに被控訴人が関与していることは客観的根拠に乏しく、被控訴人が明代と対立関係にあることに基づく憶測の域をいまだ出ない。

以上によれば、被控訴人関与事実はいずれも真実であると認めることはできず、また、控訴人らにおいて、これを真実と信じたことについて相当の理由があったということもできない。