ギンナンというのがイチョウの実であることは皆さんもご存知だろう。ちょっと雰囲気を出そうと思ってギンナンを漢字で書くと、銀杏となる。ところが銀杏と書いてしまうとこれはイチョウとも読めるのでややこしい。銀杏(ギンナン)と銀杏(イチョウ)のことを書いてると、この銀杏はギンナンなのか?イチョウなのか?と紛らわしくなってしまう。だからといってすべてにルビを振るのも煩わしい。だからどちらもカタカナで書くこととする。
さてこのギンナンだが、イチョウの実であり食用にもなるということくらいはぼくも知っていた。でもどのように生るか、どのような性質を持っているといったことは、何も知らなかった。わずかに知っていることといえば、ギンナンは臭い、ということだけだ(笑)。
ぼくの通勤路にもイチョウの木がある。鏡池のほとりに植えられているイチョウ並木は、まだまだ小さいものの、最近は黄色く色づいて目を楽しませてくれる。
その中の1本だけが実をつけている。もちろん、ギンナンだ。ギンナンがイチョウの木についているのを、ぼくは初めて見た。これまで地上に落ちているギンナンを見たことはあるが、そのとき見上げたりはしなかった。
ところが十数本あるイチョウの中で、実をつけているのはこの1本だけなのだ。ぼくは不思議でならなかった。
うろ覚えの記憶を探ると、雌雄が別になっている植物もあると聞いたような気がする。もしかしたらイチョウもそうなのかもしれないと思って調べてみた。するとやはりそうだった。そういえば、「らんまん」の中で、野宮さんがイチョウの精子を発見していたなあ。突然、そんなことも思い出した。
調べる過程で驚いたのが、実はイチョウって生きた化石といえる木なのだということだ。すでに野生のイチョウは中国にわずかに残っているだけの絶滅危惧種であるとか。ぼくたちにとってはそこにあって当たり前の木なので、そんなことまったく考えたこともなかった。
それにしても、十数本もあるイチョウの中で、雌が1本だけというのはとても不思議なことだ。イチョウという木は雄ばかりで雌は貴重な存在なのか?それでは子孫を残すうえでとても不利な条件のように思えるのだが……。
しかしこれもまた、調べてみると解決できた。その理由は、ギンナンの臭いにあったようだ。
イチョウ並木を作るとき、その中の半分が雌でそれらがギンナンを路上に落としたとすると、その並木道はとんでもない悪臭に包まれてしまう。それを避けるため、イチョウ並木は雄だけで作るというのだ。
そう言われると、その理由に納得がいく。たしかに道路上にギンナンが散乱していたとしたら……臭いを想像するだけで震えが来てしまう。ということは、通勤路のイチョウ並木にギンナンの生えた木が1本あるということは、雌雄を判別し損ねた結果、ということなのか。しかしこうして1本の雌が紛れ込んでくれたおかげで、ギンナンが生っているところを見ることができた。これはとてもありがたいことだ。
このギンナンの様子を確認して歩くのが、通勤時の楽しみの一つとなっている。このギンナンが風で落ちて地面で臭気を発するようになったら……ああ、ギンナンってこういう臭いだったな、と思い出して楽しむこととしよう。