スコアボードを見ると、CSの最終戦って、延長戦ではタイブレークを採用してたっけ?と誤解しそうなスコアだ。
今回はマリーンズを応援しているぼく。そんなぼくの10回表の心境は、
1点目 まだまだ1点なら行ける
2点目 2点ならなんとか……。
3点目 ……。
と心を打ち砕かれる、ツーアウトからの3連続タイムリーだった。
しかし今年のドラマチックパ・リーグはこれでは終わらない。ここからがドラマの始まりだった。
マウンド上には津森投手が上がった。絶対的守護神のオスナ投手は9回裏のマウンドに上がり、無失点に抑えている。津森投手もレギュラーシーズンでは22ホールドをあげており、重要な場面での登板が多いピッチャーだ。この交代は頷ける。
ロッテのバッターは仕事人とも言える角中選手が代打に起用された。ファイターズファンのぼくとしては、終盤に代打で出て来られると実に嫌なバッターだ。それがこの日は、実に頼れるバッターとして映った。
やはり角中選手は簡単には打ち取られなかった。10球目をセンター前にはじき返した。
続くバッターは先頭に返って荻野選手だ。ベテランであるが、歳をとるごとにまだまだ進化をしているようにも見える、敵としては非常に嫌な選手だ。それがこの日はとても頼もしい。
しかし荻野選手の当たりはボテボテのサードゴロ。一瞬打ち取られたかと思ったが、詰まったことが幸いして内野安打となってしまう。
ノーアウト一、二塁。こうなると千葉マリンスタジアムは大きな熱気に包まれる。ただでさえ熱狂的な応援で知られるマリーンズ。その応援が、塊となってマウンド上の津森投手に襲いかかる。
ホームランが出たらふりだしに戻る。ここでバッターは藤岡選手だ。この藤岡選手にも、ファイターズは痛いところでよく打たれた。打たれた印象しかない。ただレギュラーシーズンでは1本しかホームランは打っていない。一気に同点ホームランというより、うまくつないでチャンスを広げてくれないか。そう思って見ていた。
しかし予想はよく外れる。藤岡選手は思い切り振りぬくと、走り出すと同時に右手を突き上げた。そして白球は、右中間スタンドに飛び込んだ。同点スリーラン。数分前には絶望の淵に立たされていたのに、こうなると押せ押せムードに変わってしまう。これが野球の面白さであり恐ろしさだ。
マウンド上の津森投手は放心状態のように見え、大津投手への交代が告げられた。無理もない。球がどうこうより、とても投球を続けられるような心理状態ではないだろう。
替わってマウンドに上がったのはルーキーの大津投手だ。ルーキーとはいえ、レギュラーシーズンでは46試合に投げ、防御率は2点台だ。簡単に打てる投手ではない。3番藤原、4番ポランコを相手に変化球が冴えわたり、ツーアウトを取った。
ここで打席に立ったのは岡大海選手だ。岡選手はかつてファイターズに在籍していて、2016年の優勝の時には神がかり的な活躍をしてくれた。マリーンズに移籍してからは、大事な場面でよく打たれている。一昨年などは、9回ツーアウトから、逆転サヨナラホームランや同点ホームランを打たれている。まだまだ何かを起こしてくれることを期待できるバッターだ。
その岡選手は、三遊間を破るヒットで出塁した。やはり簡単には終わらない。
続くバッターは安田選手だ。一昨日の試合で、送りバントを2度失敗した後、右中間を破るタイムリーツーベースを放ち貴重な追加点をたたき出した選手だ。そのときベンチの吉井監督が、両手を合わせて安田選手に詫びている姿がとても微笑ましかった。
ツーアウト一塁でランナーは俊足の岡選手。外野の間を破られると、一気にサヨナラのホームを突かれるということで、ライトはフェンス手前のウォーニングゾーンまで下がって守っている。そこで安田選手が放った打球は、一昨日とまったく同じような打球だった。
しかしホークスの守備陣形が功を奏し、ライトの谷川原選手が右中間を破られることなく追いついた。だが俊足の岡選手はスピードを緩めることなく三塁を回った。中継からバックホームされた送球はわずかに一塁側にそれた。その間にヘッドスライディングをした岡選手の左手がホームベースを掃いた。
劇的な、あまりに劇的な逆転サヨナラ勝ちに、マリーンズの選手たちは狂喜している。そんな中、サヨナラ打を打たれた大津投手はホーム付近でうずくまったまま動けずにいた。
そんな大津投手を見て、ぼくはあるシーンを思い出した。それは2006年のパ・リーグプレーオフ第2戦。ファイターズ対ホークスの試合だ。ファイターズが優勝(当時はプレーオフの勝者が優勝)に王手をかけて迎えたこの試合。ファイターズの八木投手とホークスの斉藤和巳投手の投げ合いとなり、9回表を終えても0対0のままだった。
9回裏、ファイターズはツーアウト一、二塁とサヨナラのチャンスを迎える。ここで稲葉選手の当たりはセンター前に抜けようかという当たりだった。しかしこれをセカンドがダイビングキャッチをして、セカンドベースカバーに入ったショートにトスをした。でも判定はセーフ。そのときセカンドランナーだった森本選手はスピードを緩めることなく三塁ベースを回っていて、サヨナラのホームに滑り込んだ。
ホームベース周辺はファイターズの選手たちが歓喜の輪を作っていたが、一方の斉藤和巳投手はマウンド上にうずくまったまま動けなかった。大津投手の姿は、そのときの斉藤和巳投手と重なった。
そんな大津投手の元に歩み寄ったのは、斉藤和巳コーチだった。誰よりも大津投手の心境がわかるであろう斉藤和巳コーチほど、大津投手に寄り添うのにふさわしい人はいないだろう。
ドラマチックなCSファーストステージを締めくくるにふさわしいシーンだった。