引き出した 感動貯金 5年分~第27回サロマ湖100kmウルトラマラソン完走記12 | 神社仏閣旅歩き そして時には食べ歩き

神社仏閣旅歩き そして時には食べ歩き

還暦を過ぎて体にトラブルが出始めて、ランニングを楽しめなくなりました。近ごろはウォーキングに軸足を移して道内の神社仏閣を巡り、御朱印を拝受したり霊場巡礼を楽しんでいます。いつかは四国八十八ヶ所巡礼や熊野詣をすることが夢です。by おがまん@小笠原章仁

(12)絶体絶命


 7分45秒・・・。時計に記されたラップタイムにショックを受けます。


 この完走記の中では、50km以降も5kmラップと10kmラップを書いています。でも走っている最中は、50km以降の5kmラップと10kmラップはわかっていませんでした。


 というのも、私の時計には、そのときのラップタイムが大きく表示され、スタートからのトータルタイムがその下に小さく表示されています。ですから50kmまでの距離表示は5kmおきでしたから、5kmラップを意識しながら走りました。でも50km以降の距離表示は1kmおきになりますから、5kmラップは計算しなければわかりません。5km前の通過タイムなんか覚えていませんから、5kmラップは知らずに走っています。


 エイドに寄ってもいないのに7分45秒もかかってしまったというこのラップにはショックを受けました。65kmの通過タイムは7時間59分54秒。この間の5kmは42分16秒もかかっていました。帰宅してラップタイムの整理をしたとき、この事実に愕然としてしまいました。走っている最中は、ラップが落ちていることには気づいていましたが、これほど激しく落ちているという自覚はなかったのです。


 消耗しているからラップが落ちるのか、あるいはラップが落ちたことでますます消耗してしまったのか、急に疲れを感じます。でも不思議なことに、今までと違ってリタイアすることはまったく頭に浮かびませんでした。


 ここまできたのは4年ぶりです。でも4年前は、すでに絶望をして歩いていました。今は消耗しているとはいえ、完走を疑わずに足を前に運んでいます。


♪どんなに遠くたって 遅くたって前を向いて

  あの大きな風のようにほら駆けよう 自分らしいスピードで

 (加賀谷はつみ 「君がいる」より)


 言い訳ばかり言い続けてきたこの5年間。もう2度とサロマのゴールにたどりつくことはできないのではないかと、すっかり自信を失っていた5年間。そんな5年間にお別れをするために、ペースが落ちてもしっかりと足を前に運びます。そうすることで、確実にゴールは近づいてきます。


 66kmのラップは7分24秒です。7分台後半というラップタイムにさすがに危機感を覚えてペースはあがりました。でも足はかなり限界が近づいています。とにかく70kmまではこのまま頑張りましょう。70kmまで行けばなんとかなる。なぜなんとかなるかはまったくわかりません。なんの根拠もありませんが、でも私はそう思い込んでいました。


 魔女の森を抜けて先を目指します。68km過ぎには、名物ともなっている斉藤商店の私設エイドがあります。それを楽しみに走ります。


 途中で小さな私設エイドがあります。ここでも冷たい水をもらい、喉を潤します。そして残りは靴を濡らさないように注意しながら膝にかけます。立ち寄った時間はわずかだったつもりですが、67kmのラップタイムは8分05秒かかってしまいました。


 やがていったんは国道238号に出ます。橋を渡ってすぐに左折をして町道に入ります。その先には斉藤商店の私設エイドがあります。68kmのラップは7分38秒で通過し、ようやくエイドに到着しました。


 ここではサロマンブルーメンバーの高石ともやさんも歌って迎えてくれていました。エイドで冷たいおしぼりをもらって顔と首をしっかりとぬぐい、使い終わったおしぼりはお礼を言って返します。これで少し息を吹き返したように感じます。


 エイドにはいろいろな食べ物がありますが、その中からミニトマトをひとつ食べました。これが美味しいのなんの・・・。序盤から胃の不調に悩まされ、いつもと比べて固形物を食べていません。水分もちょっと多めにとると胃の中にたまっているようで気持ちが悪くなるので、少しずつしか飲めません。ところがこのトマトならいくらでも食べられそうです。私は次々とトマトを口に放り込み、5個くらい食べました。


 最後に温かいお茶をいただきます。これがまた美味しくて、おかわりをして飲みました。そして70km関門を目指します。


 エイドでしっかり補給して元気は復活したはずですが、足は思うように動きません。でもここまでくれば70km関門まであとわずかです。レース前、「70kmのレースと思って走る」という作戦を立てました。まもなくその目標地点に到達します。そして70km関門を越えさえすれば、あとは気持ちで体を引っ張っていくつもりです。


 コースは国道238号に戻ります。そんな私の傍らを収容バスが通り抜けていきます。見上げると、kumikumiさんが手を振っているのが見えました。20km過ぎあたりだったでしょうか、同じような位置を走っていて言葉を交わしたのですが・・・。収容バスから走っている仲間の姿を見る気持ち、私にはよくわかります。kumikumiさんの無念もゴールまで運びたいと思いました。


 おなじみの旅人宿さろまにあんの前では、宿のスタッフの皆さんによる応援が行なわれていますし、屋根の上でも大漁旗を振りながらの応援が行なわれています。この景色も、5年ぶりに見ることができました。


 69kmのラップタイムは10分02秒です。斉藤商店のエイドに若干滞在していましたから、これは仕方ないでしょう。でもおかげで元気が出てきました。あのミニトマトは、生涯最高に美味しいミニトマトだったと言っても過言ではありません。


 あと1km。あと1kmで目標としていた70km地点に到達します。私のシナリオでは、70km地点に到達さえすれば、完走をグイッと引き寄せることになるはずです。


 69kmから70kmの1kmは、ずいぶん長く感じました。国道から左折をしてサロマ湖岸の道路に入るとすぐに70km関門があるはずです。そのポイントが、ゆっくりとですが近づいてきました。


 ようやくその交差点に差しかかり左折をします。すると目の前に70km関門があります。


 よし!これで目標達成だ!あとは気持ちの力で30kmを走るだけだ!


 そう思った瞬間、私は信じられない言葉を耳にします。


 「関門閉鎖4分前!」


 なにっ?それは何かの間違いだろう?もっと余裕があるんじゃないのか?ここで4分前なら、80km関門に間に合わないだろう?


 70km地点を通過して慌てて時計を見ます。8時間41分12秒。70kmの関門制限時間は8時間45分ですから、あと3分48秒しかありません。一瞬にして絶望が全身に広がり、体中の力が抜けるような感じがしました。(つづく)


(13)前後にゴールド従えてへ



(1)完走しなければならない理由

(2)応援FAX

(3)旅の始まり

(4)作戦

(5)予定通り

(6)消えた折り返し点

(7)後方待機

(8)頑張るところはここじゃない

(9)手ごたえ

(10)トラウマを越えて

(11)悪戦苦闘