脳幹出血の恐ろしさ | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

今回はリクエストに応じて、
脳幹出血の記事を書きます。

ついこの間、有名人の方がこの病気になりましたね。
ニュースになっていたと思います。



しかし、
脳幹出血は脳出血の中でも最も重篤な出血です。


脳出血全体の中ではわずか6-8%以下の比較的稀な出血とされていますが、

脳幹は脳と脊髄の連絡路といえる場所にありますので、
重要な神経線維がのきなみ通るところです。


また、
上行性網様体賦活系と呼ばれる、
覚醒や意識のあるなしに関わる重要な部位がある場所です。



覚醒しない、
ということは、寝たきりで意識が戻らないということですから、
いかに大切な場所かが分かると思います。



脳幹はこれらが非常に狭い範囲、
直径3-4cm程度の範囲に凝縮している部分といえます。



よって、
ここに出血が起きてしまい、その機能が失われると、
極めて重篤な状態となります。


発症後の意識の状態がその後の予後に大きな影響を及ぼしますが、
一般に死亡率は30-70%(ずいぶん開きがありますが)と言われています。


ある程度大きな出血であれば、
命が保たれたとしても、
意識がずっと戻らないというようなことが多いのです。



この脳幹出血の中でも特に重篤なのは、
脳幹の中の橋という部位の中心部に起きる出血です。

この中心部橋出血では、
数時間から数日で亡くなる患者さんが多いです。



出血が拡大し、
橋の上部にある中脳にまで及ぶことも少なくありません。

一方、外側など、橋の一部で出血が起きる
部分的橋出血では、

血腫が小さければ予後は比較的良好です。

様々な脳神経症状など後遺症を残すこともありますが、
出血の拡大がなければ軽快するものも少なくありません。

結局は出血の大きさ次第と言えますね。



一方で、
橋の少し上にある中脳からの出血というのは稀です。

この部位の出血でも同様に重篤な状況をもたらしますが、
時に従来の常識からは考えられないようなケースもあります。



たとえば、1996年に中脳の正中部の比較的大きな出血で、
頭痛、嘔吐、めまい、平衡障害で受診した50代女性の患者さんのケースがあります。

この方は出血によって、
動眼神経麻痺という眼の運動を司る神経の麻痺が両側に起きましたが、

意識は保たれていました。



先ほど書いた、
上行性網様体賦活系というのは中脳に存在するとも言われますから、

こういった中脳の大きな出血で意識が保たれているというのはとても不思議なのです。

まだまだ、
人間の意識や覚醒に関しては分からないことが多いです。




さて、
この脳幹出血ですが、

原因は主には高血圧が多いです。

ただ、一部に血管奇形や腫瘍などの関与があることもあります。



一般的に、
治療については手術の適応はありません。

血腫をとるために脳幹部にアプローチするというのはとてもリスキーですし、
メリットもそう大きくないからです。

そもそも、
既に脳幹がやられてしまっているような重篤な状態では、
手術をしても結果は変わらないのです。

基本的には保存的加療といって、血圧などをコントロールしつつ、
経過をみることがほとんどです。



ただ、
手術が検討されることが全くないわけではありません。

たとえば血管の奇形や腫瘍などが出血から発見され、
状態が良く再出血の可能性がある、という時には手術が検討されます。



最後に、
皆さん、locked-in syndromeを知っていますか??



実は以前にこのブログでも紹介したことがあります。

主に脳底動脈の閉塞による橋梗塞で起こることが多いのですが、
今回紹介した脳幹出血でも起こりえます。



この症候群は、
意識は清明であるにも関わらず、マバタキと眼球運動しか出来なくなるという状態です。

意識があるのに体は動かず、眼以外に意思表示の方法がないのです。

まさに、完全に錠をかけられた状態であるということから、
このlocked-inという名前がついています。

考えるだけでも恐ろしい状態だと思います。



ブログ内検索していただければ、
過去の記事も読めると思いますので、興味のある方は読んでみてください。

実際にlocked-inとなった方が眼球による意思疎通のみで書き上げた、
「潜水服は蝶の夢を見る」という本が有名で、映画化もされています。

脳幹部の障害はこういった恐ろしい状況をも作り出しうるのです。

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