さて、前回の記事で穿頭に関してはある程度書き終えたので、
今回は開頭について書こうかと思います。
開頭となると穿頭よりも広い範囲の頭蓋骨を外すことになります。
穿頭の際にも、必要最小限の範囲で頭皮を切る必要があります。
そして切った頭皮の間を広げて頭蓋骨を露出させて、
穿頭をする訳なのですが、
開頭となるとこのくらいの皮切では全然足りません。
開頭の場合は頭皮を切る長さからしてかなり長距離になります。
最も脳外科でメジャーな開頭は前頭側頭開頭といって、
前頭部と側頭部の間あたりの開頭です。
これは、だいたいこめかみあたりの部分の開頭と思ってください。
こめかみの辺りの骨を外すために、どれくらいの距離の頭皮を切るかというと、
だいたい、耳の前あたりから髪の生え際に沿っておでこの真上辺りまで切ることになります。
それで、文字通り、べろんと頭皮をめくって、
こめかみの辺りにある側頭筋という筋肉も骨から剥がします。
そうすると頭蓋骨がきれいに露わになるのです。
ここからいよいよ、
開頭に入るわけです。
いわゆる、骨外しですね。
この開頭はどうやってやるのかというと、
穿頭の延長になります。
たとえば、
四角形に頭蓋骨を外したかったとしましょう。
そういった場合はその四角形の四隅に、
まず穿頭にて穴を空けます。
三角形ぎみに開頭する場合は三隅に穴を空けるわけですね。
そうして、穴があいたら、
次に穴と穴の間の骨を切ってつなぐ訳です。
かなり、シンプルですよね。
何を使って間の骨を切るかというと、
電動ノコギリになります。
ちなみに、この電動ノコギリの登場以前は糸ノコギリを使って切っていました。
ただ、
四隅に穴が空いたからといってすぐにノコギリで穴の間を切ろうとしてはいけません。
というのも頭蓋骨の下にある硬膜が骨にくっついている場合があるのです。
特に高齢の方では硬膜が頭蓋骨に癒着しているので、
気をつけなければいけません。
ノコギリで硬膜を巻き込んでしまうと、
硬膜がずたぼろになってしまって、後で硬膜を再建するときに酷く苦労します。
さらには、
硬膜を巻きこんでしまうような場合、
その下の脳まで傷つけてしまうことが多いので、これは危ないんです。
だからノコギリで切る前に、穿頭した穴から剥離子とよばれる器具で、
十分に骨の内側から硬膜を剥がします。
地味な作業なのですが、実はかなり重要な操作になります。
しっかりと硬膜を剥がして、
電動ノコギリで穴と穴の間を全て切り結べば、ようやく骨が外れます。
そうしてぱかっと骨を外すと、
目の前には脳を覆っている硬膜が広がります。
たいていは硬膜からの出血と、切った骨からの出血で、
硬膜は血だらけになっていますが、止血をしてきれいにすると硬膜が白いことが分かります。
更にこの硬膜を切って開くと、
ついに脳表が透明なクモ膜ごしに見えるのです。
透明な髄液に浮かんでいる脳は、
見ようによってはグロテスクでもありますが、やはり綺麗です。
人間の体の中でもおそらく最も綺麗な部位の一つだろうとは思います。
さて、
あまり一般の方からすれば開頭なんてイメージが沸かないとは思いますが、
なんとなく、どうやって頭の骨を外すのかイメージすることはできたでしょうか?
脳外科の大きな手術はまず、この開頭をしないと始まりませんから、
最も基本的で且つ重要なのが開頭なんですね。
ちなみに、どれくらい時間がかかるかというと、
基本的な開頭であればだいたい30分から1時間くらいで終わります。
脳外科医になって穿頭と一緒に初めに教わるのが、
この開頭です。
しかも、開頭は多少は骨を削って追加ができるものの、
基本的には一度しかできません。
なので、しっかりとアプローチする脳の部分をイメージして、
適切な場所に開頭しないと手術自体がうまくできないんですね。
なので、
実際に脳にアプローチする時にどの角度から手が入るかだとか、
そういった細かい所まで理解していないと、本当の開頭は出来ないんです。
しかも開頭によっては一緒に目の周りの骨を外してしまったり、
頬骨を外したりといろいろな応用がありますし、
実はとっても奥が深いんです。
手術時の体位の取り方と開頭によって、
手術の質が大きく左右されてしまいす。
さて、開頭の話はこの辺りにしておいて、
最後に閉頭の話をします。
閉頭というのは手術の終わりに、硬膜、頭蓋骨、筋肉、皮膚の順に元に戻す作業です。
硬膜や筋肉、皮膚は縫えば元の位置に戻るということが想像つくと思いますが、
外した骨はどーするんだ?と思われる方もいると思います。
外した骨も元の位置にもどすのですが、
さすがに切った骨までぴったりくっつけることはできません。
そこで、何をつかって骨を固定するかというと、
一番メジャーな物はチタン性のプレートを使います。
このプレートを外した骨と元の頭蓋骨の間にのせて、
ネジ止めするのです。
たいてい3箇所くらいプレートでネジ止めすると、
ある程度十分な強度で外した骨を元の位置に固定することができます。
やや原始的にも思われるかもしれませんが、
基本的には金属のプレートとネジで骨を止めている訳なんです。
ちなみに、
このプレートが現れる以前は太い糸を骨に通して縛ることで固定していました。
ただ、この一回外した骨が体の中で生きていけるのか?
というと、かなり疑問です。
今回紹介したようなやり方だと、
骨から筋肉なども全て剥がすことになります。
結果として骨だけ単独の形で取り外されることになるので、
骨に入る血管などは全て切ってしまうことになります。
一旦は全て血流も途絶えてしまう訳ですから、
後々にたとえ、周りから新生血管が入っていったとしてもやはり無事ではないでしょう。
たまに、
数年の期間をおいて再開頭を行う患者さんがいますが、
大抵の場合は一度外した部分の骨は強度としては十分なものの、元よりも薄くなっています。
おそらく、骨自体は吸収されないで残っているものの、
やはり元のようには生きてはいないのでしょう。
大抵の場合、
開頭手術を行なうのはある程度高齢の方が多いこともあって、そう問題にはなりません。
しかし若い方の場合、
長期的な目で見ると一度外した骨の事も本来は考えなければいけないのかもしれません。
有茎骨弁といって、骨に筋肉や皮膚をつけたまま外すのであれば、
長期的にも外した骨が薄くなりにくいでしょう。
しかし、もちろんケースによっては難しいことはあります。
小児などでは比較的活発にこの有茎骨弁が行なわれているところもありますが、
大人の開頭での有茎骨弁は施設や術者によってそれぞれなので、
それほどに一般的ではないです。
開頭に関しても本当に奥が深いんです。
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