穿頭、開頭。 頭蓋骨のはずし方① | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

ここ何回か、


脳梗塞の記事ばかりでした。




今回は脳外科らしく、


開頭について書こうかと思います。




開頭ってなにか?というと、


頭蓋骨をパカっと外すことです。




これまでこのブログ上で何回か手術のことを書きましたが、


その度、


開頭脳動脈瘤クリッピング術 だとか


開頭脳腫瘍摘出術 であったり、




開頭という言葉自体は何度も出てきました。




しかし、


開頭、開頭って簡単に言うけれど、


実際どうやって頭の骨を外すの?? と思われる方はいらっしゃると思います。




なので今回は、


具体的に我々が日々の手術でどうやって頭の骨を外しているのかを書きます。




頭の骨を外さないと脳の手術はできないので、


開頭は脳外科にとっては一番最初に覚える基本的な手術になります。




ただ、


手術で実際に扱う術野を決めるのがこの開頭なので、


実は奥がとても深いんです。




まず開頭について書く前に、


似たような言葉で、穿頭という言葉があります。




この穿頭というのは、


読んで字の如く、頭蓋骨に穴を開けることです。




穴を開けるだけの小さな範囲で事足りるような手術の場合、


穿頭を行います。




開頭ではある程度の範囲の大きさの頭蓋骨をぱかっと外してしまうので、


そこが穿頭と違う所です。


穿頭は穴を空けるだけですからね。




穿頭術に関しては歴史が深く、


紀元前の遥か昔、新石器時代から行われていたようです。




ある脳外科医のダークなぼやき


なぜそんな事が分かるのかというと、


フランスやペルーで発見された新石器時代の頭蓋骨にこの穿頭の後があったようなのです。




iインカ・マヤ文明が穿頭を行っていて、


脳手術をしていた、というのは有名な話なのかもしれません。




とにかく、


キリストが生まれる遥か昔の時代から人類は頭に穴を開けていたのです。


驚きですよね。




なんで昔の人々がそんなことをしていたのか?




それは一説には頭の中の悪霊を追い出すため、といったような説もありますが、




実はもっと医学的に、


頭部外傷や硬膜下血腫、てんかんの手術として、


穿頭を行なっていたという説もあります




しかも、


現代ほどのしっかりとした麻酔ではないですが、


コカなどの麻薬を使って麻酔下に手術をしていたとも考えられています。




それでは、


この穿頭を実際にどうやってやるか?


という話になりますが、


頭蓋骨というのは皆さん知っている通り、堅いです。




年齢によって堅さも違いますし、厚みも違いますが、


骨がしっかりしている人の頭蓋骨は分厚い部分だと1センチ以上の厚みがあります。




なので、


これに穴を開けるとなると、やはりそれ以上に堅いものを使うしかありません。




実際に我々はドリルを使います。




手回しのドリルから、電力や圧力で動く自動のドリルまでいろいろありますが、


とにかくドリルです。




広く現代でも使われている一般的な手回しドリルは↓のようなものになります。




ある脳外科医のダークなぼやき






恐らく、遥か昔にはノミのようなもので頭蓋骨に穴を開けていたのでしょう。


参考ながらに、古代に使われていた穿頭器具が↓です。


ある脳外科医のダークなぼやき


きっと、これをくるくる回していたんでしょうね。




ヒポクラテスの時代のものが↓です。


ある脳外科医のダークなぼやき


そしてこれが中世の頃の物です↓。


ある脳外科医のダークなぼやき


最後に最新式の電動のドリルがこちらです↓




ある脳外科医のダークなぼやき


*これらの写真はネット上からお借りしました。


穿頭の道具もどんどんと進歩しているのですね。




手回しのドリルで実際に頭蓋骨に穴を開けるときは、


初めはとがったドリルを使います。




それで、先端が骨を貫通するところまで穴を広げ、


そこから先は先端が比較的丸い刃にかえて削り取るように穴を広げます。




先端がとがったままのドリルをずっと回してしまうと、骨を貫通して先の硬膜や脳を傷つけてしまうんですね。




なので最後は先の丸いドリルで削り取るように穴を開けるのです。




この作業はドリルを回すだけの単純作業なのですが、


やはり注意してやらないと危ない作業です。


脳を傷つけてしまっては洒落になりません。




しかも、骨が堅かったり、


刃先が鈍くなっていたりすると結構な時間もかかるし、労力もかかるんです。




ちなみに、近代的な電動のドリルの場合、


ドリルを押し当てて、アクセルを踏むとドリルが回転して穴が空きます。

これはやはり早いです。10秒もかかりません。




しかもすごいことに、


クラッチの原理が応用されていて、骨を貫通すると勝手にドリルがとまるようになっています。




骨がなくなって抵抗が抜けると、それ以上ドリルの部分が回転しなくなるようになっているのです。


時間もかからないし、やっぱり便利ですよね。




こうやって骨に穴があけば、もう目の前に見えるのは脳を覆っている硬膜です。


硬膜は結構頑丈な膜で、これが脳と骨の間に存在します。




あとは、この硬膜を切ればついに脳が見えるのです。




ただ、骨にも骨髄があることもありますし、


頭蓋骨の内側には動脈が走っているので、運が悪いとこの穿頭だけでも結構出血します。




ちっちゃな傷なのに結構な血が出るので、


止血に慣れていないとやはり危ないんです。




しっかり止血しないと、術後に血腫を作ってしまって緊急手術ということにもなりかねません。




ちなみに、穿頭だけでも事足りる手術の代表が、


慢性硬膜下血腫の手術です。




慢性硬膜下血腫という病気は主に高齢者に多く、


転んだ拍子などに脳の表面の静脈が切れて、出血がじわじわと硬膜の下にたまって脳を圧迫する病気です。




麻痺であったり、傾眠傾向であったり、認知症状や頭痛、失禁、失語であったり、


様々な症状を起こします。




この病気の治療法は手術なのですが、




穿頭をして、止血をして、硬膜を切って、


硬膜の下にたまった血を抜くためのドレーンを入れる単純な手術です。




なので、


頭に小さな穴を空けるだけで事足りるんですね。




それでも、血を抜くだけで目に見えて症状が良くなるので


相当、コストパフォーマンスの高い手術です。




少し話がそれましたが、


穿頭という作業に関しては多少は理解していただけたかと思います。


長くなってきたので、開頭は次に続きます。


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