ちょっと長くなってきてしまったので、
さすがにそろそろこの未破裂動脈瘤のシリーズは終わりにしようと思いました。
巨大脳動脈瘤の話をしたのはいいものの、
なんだか、
知らず知らずのうちにどんどんと、
マニアックな世界に入ってしまいました。
前回記事に書いた脳血行再建などは、
実際に他科の医者でもほとんどが知らないような技術の一つです。
医者の友人に話しても、
「へぇー」とか「なにそれ」と言われるような物です。
心臓のバイパスはあんなに有名なのに何故?
と、
脳外科医としては思うところですが、
ましてや脳外科医の中でも、
それほどポピュラーなものではありませんし、
使いこなせる先生は国内にも数える程しかいないでしょう。
しかし、複雑な動脈瘤や巨大な動脈瘤の治療ではしばしば欠かせない技術です。
通常のクリッピングの場合、↓図のように動脈瘤の根元だけにクリップをかけます。
しかし、↓のような巨大脳動脈瘤でそれができるでしょうか??
動脈瘤が大きすぎて、普通に考えたら無理ですよね。
こういった動脈瘤の場合に何の準備もなくクリップをかけることはまず不可能です。
まず、瘤が大きく膨れすぎていることもありますし、
瘤自体から複雑に重要血管が出ているので、普通にクリッピングというのは危険なのです。
血管というものはどんどんと下流に行くと先細り、その終点に血流を届るべき脳の組織があるわけで、
下流への血流がとまってしまうということは脳梗塞になります。
なので、無理をして動脈瘤にクリップをかけようとして、
動脈瘤よりも下流の血管を潰してしまうと、脳梗塞になってしまいます。
そのため、まず、
この動脈瘤の先の下流の血管に他の血管からのバイパスをつないで血流を確保し、
動脈瘤を通る血流がなくなっても、下流への血流が保たれるようにする方法が考えられました。
つまり、
脳梗塞を起こさないよう、血流を確保するための脳血管バイパスなのです。
そうすれば、下流への血流が確保された状態で、動脈瘤を攻めることができます。
動脈瘤の先の下流の血管の血流をバイパスで確保してしまえば、
もう動脈瘤の手前で血流をとめてしまっても大丈夫です。
こうすれば、動脈瘤の破裂などのリスクを少なくしてクリッピングを行えます。
バイパスで下流への血流が確保できれば、
理論上さまざまな応用が可能となります。
この辺はもう、ケースバイケースですし、
動脈瘤によって作戦は様々になります。
こことここにバイパスをつないで、ここを遮断して、ここを・・・・
といったように高等技術オンパレードの職人の世界です。
しかし重要なのは、
いかに脳への血流を保ちつつ、動脈瘤への血流をなくすか、の一点です。
ここから先はもう、僕に語れるようなことでもない上に、
極めてマニアックになってくるのでやめます。
理論上ベストと思われる手術を完璧にやり遂げた時に、
しっかりと巨大動脈瘤が治った時の達成感は凄いようです。
しかし、逆に思いどおりに治療を行っても
予想外の血管の血流がなくなってしまったり、
いろいろな不慮の事態が起きるようです。
また逆に治療が少し不十分でも運よくどんどん術後に動脈瘤が消失することもあるようですし、
ケースによって様々です。
なんとも、手ごわい病気ですが、
こういった誰もがサジを投げるような動脈瘤に挑戦し続けている脳外科医が日本には何人かいます。
まさしく、神の手の名にふさわしい脳外科医たちです。
しかし、
こんなに高度な治療を要する巨大脳動脈瘤でも、ふつうの動脈瘤でも、
手術の技術料、つまり保険点数はこれまでは全く一緒だったようです。
もしかすると、今は変わったのかもしれませんが、
やっぱり変な医療制度ですね。
金が全てではないですが、
高い技術を正当に認めるような制度になればよいですね。
さて、これでこの未破裂脳動脈瘤のシリーズは終わりにします。
最後まで読んでくれた方ありがとうございました。
また、次回からはもう少し分かりやすい話にもどしたいと思います。
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