彼を手こずらせたのは、オオササギに皇位を継いでもらうということだけでした。
何を言っても、泣いて懇願しても、オオササギは、
「天皇は、ウジノワキイラツコだよ。私が天皇でそなたが補佐をするのも、そなたが天皇で私が補佐をするのも変わりはないではないか」
と言って取り合いません。
「何故、兄上は分かってくださらないのだろう。自分より優れた人を目の下に置くことがどれほど心苦しいことか」
しかし、ウジノワキイラツコは既に気付いていたのです。
「私が兄に皇位を継いでいただきたいのは、兄上に対する尊敬からだけではない」
と。
ウジノワキイラツコは、自分がほんの小さい子供の頃、兄が髪長姫を恋人にした時の胸の痛みを思い出していました。
「私は、本当は一体どうしたいのだろう。どうして欲しいのだろう、兄に……」
さて、ウジノワキイラツコには妹がいました。
矢田皇女。
まだあどけない少女でしたが、ウジノワキイラツコに似て才気煥発。
気持の正しい乙女でした。
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