渡し守の中でも、ずば抜けて筋骨の逞しい男を見つけると、それが自分の殺そうとしている当の本人だとは露も気付かず、ずかずかと船に乗り込みました。
「おまえが一番頼りになりそうだ。次期天皇となるこの私を乗せることができて光栄だと思えよ」
鼻息荒くふんぞり返っている大山守皇子に、ウジノワキイラツコは黙ってうなずき、船を出しました。
「船が転覆したとき、自力で岸まで泳ぎ着くことも出来ない男が天皇では、頼りないことでございますよね」
渡し守が声をかけたのは、川の半ばまで来た時のことです。
大山守皇子は、とっさに意味がわからず、渡し守を振り返りました。
屈強なその男は、まっすぐに大山守皇子を見詰めています。
「ですから、船が転覆したらあなたはそこで溺れ死ぬでしょう、と言ってるんですよ」
この時、ウジノワキイラツコは思い切り船を揺らし、転覆させました。
そして、大山守皇子の慌てた顔をそこに残して一人、岸へと泳ぎついたのです。
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