「17東大日本史本試Ⅰを考える②」の続きです。

問題は「東大教室(17東大日本史本試Ⅰ 問題)」をご覧ください。

 

第1問 古代(総合) 古代国家と東北

 

解説

 

東北支配の意味(設問

 

設問では、律令国家にとって、東北支配が「どのような意味を持ったか」が問われている。

何のために(何を意図して)大規模な軍事力の行使をともなう東北政策が長期にわたって展開されたのかという観点から、与えられた文章を読み解いていけばよい。

 

最大のポイントは、文章(4)を活用すること。

その重大性については、すでに記したとおりである。

 

また、蝦夷とは東北地方に居住する内民化していない人々(「化外の民」)のことをさす呼称として、中央政府が名づけたもので、東北支配の意味として、蝦夷の内民化という点を指摘した答案も相当あったと思われる。

受験生の答案ということであれば、出来は悪くない。

 

ただ,「国土の拡張」(文章(1))、蝦夷を「帰順」させる(文章(2))といった表現は与えられた文章そのままで、蝦夷征討とその内民化は、「東北支配の諸政策」(文章(2))にストレートに含みこまれてしまっている。

「結果」(設問)としてその成否を論じることは大切だが、「意味」(設問)としては、やや同義語反復的(「馬から落ちて落馬した」的)であるといえるだろう。

 

こうした点に留意しながら、解答を熟読しておいてほしい。

 

東北政策の影響(設問

 

設問は、東北政策が国家と社会に与えた「影響」を考える問題。

 

最大の注意点は、与えられた文章の極小部分にとらわれたまま、一面的な答案を作成してしまわないこと。

 

「影響」、というより、一般的に物事の性格にはプラス面とマイナス面があるはずだという視点を失わなければ、論述問題研究の初期段階でしばしば生じる(論述初心者が陥りがちな)思考の固着化は十分に避けられたはずである。

 

文章(1)(5)解答との関係は、次のようになっている。

 

 

解 答

東北支配の拡大は対外情勢の緊迫が続く中で小中華帝国としての威信を示すのに加え、軍備・耕地の充実や富の獲得に有用だった。

(60字)

国家的な東北政策の展開は、律令支配の浸透・拡大、蝦夷の内民化、流通の充実などをもたらした。一方で支配強化に対する現地の抵抗も根強く、蝦夷征討を掲げた三十八年戦争は軍事負担の増大により国力を疲弊させ、私的武力の成長と武士社会の到来を促した。

(120字)