第2回電王戦~その11 九死に一生 | タマネギの流氷漬け

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将棋を中心に、長男・次男の少年野球等、子供たちの日々の感じたことに対して書いていきます。

先鋒戦では八代が習甦を、次峰戦では菅井がPonanzaをそれぞれ撃破した。残るは中堅戦のツツカナ vs 船江戦、副将戦のPuellaα vs 永瀬戦、そして大将戦のGPS vs 糸谷戦である。

スタジオに谷川浩司が入ってきた。

谷川「どうもお疲れ様です」

矢内「お疲れ様です」

谷川「見事、八代さんと菅井さんは勝ちましたね。二人とも普段の研究をそのままコンピュータ相手にぶつけての価値ある勝利だったと思います」

渡辺「この2勝は大きな意味を持ちますね」

矢内「さて残るは三局ですが」

渡辺「中堅戦はかなり船江さんが苦しそうですね。米長先生の編み出した戦法も考えに考えた末に採用したんだと思いますが、ツツカナには冷静に対応されていますね。船江さんは入玉を狙ったのですが今はその望みは完全に断ち切られました。ちなみにこのツツカナは今回のコンピュータの中でプロ側が一番対戦したがったプログラムだったようです。指し手が最もコンピュータらしくないんですよね。まるで人間が指すような手を指してくるんですよ。ここまでのツツカナの応手を見ても至極違和感のない対応です。相手が人だと言われても分からないくらいです。形勢も残念ながらツツカナ勝勢だと思います」

局面は船江玉が詰むや詰まざるやという瀬戸際を迎えていた。船江と言えば詰将棋作家としても有名で過去に看寿賞を授賞したほどの腕前でもある。そんな船江にとって自玉の詰み手順に気付くのにそう時間は要しなかった。

ざっと21手。要手は17手目の角の不成。これも後にある打ち歩詰めに気付けばプロにとって容易い手順である。しかし、こんな作ったような詰将棋が人類の一大決戦に現れるということに船江は運命の皮肉さを感じずにはいられなかった。

将棋の神様がいるとすれば、このような局面でも起死回生の手を発見できるんだろうな、いや神様にとってももはやお手上げか、とこの切迫した場面に至って観念したように船江はぼんやり考えていた。

ツツカナの指し手が一手一手迫ってくる。それも自分の発見した詰め手順を正確になぞって。まるで自身が死刑囚になって一歩一歩執行場に歩かされている気分だ。

そしてはや17手目の局面になった。ここで問題の局面だが、正確無比なコンピュータのことだ、なんなく読めているはずだ。人間にとって正答を出すのに何日もかかる詰将棋を瞬時に解いてしまうのだから。

しかし信じられないことにツツカナは8七角成とした。不成ではなかった。視界良好な道が突然断崖絶壁に落ち込んだ。そうか俺はただの死刑囚ではなかった。目隠しはされていなかったのだ。俺の回りに執行員は誰一人としていなかったのだ。今起こっていることに対しまだ素直に抵抗できるのだ。

船江はまさに九死に一生を得た。それから船江の怒濤の反撃となりお返しにツツカナ玉を即詰めに討ち取った。

船江は晴れて無罪放免となったのである。

その12に続く