第2回電王戦~その10 プロの矜持 | タマネギの流氷漬け

タマネギの流氷漬け

将棋を中心に、長男・次男の少年野球等、子供たちの日々の感じたことに対して書いていきます。

窓の外は相変わらず激しい雷雨が続いていた。第2回電王戦がここ東京千駄ヶ谷の将棋会館本部にて行われており、窓の中でも対局者同士の激しい火花が散っていた。

渡辺「うーん。変だな」

矢内「どうしましたか?」

渡辺「リモートコントロールができなくても将棋会館にあるのはただの受信機なわけで、大元のコンピュータ側の人からこちらにメールか電話一本かければ済む話ではないのでは・・・」

矢内「確かにそうですね。では会場にいる遠山さんにもう一度確認してみましょう。・・・遠山さーん!」

遠山「はいはーい。こちら将棋会館本部の遠山です」

矢内「・・・ということなんですがいかがでしょうか?」

遠山「実は私もその案は真っ先に浮かんできたんですが、事はそう簡単にはいかないようです。今回の大会の条文に『リモートコントロールがうまく作動出来ない場合は受信機に内蔵しているプログラムを作動させる』とありその他の手段を一切認めないことになっています」

渡辺「なるほど。コンピュータ間の間に見えない人間の手が入ることは不正にも繋がる可能性があるということなんでしょうね。まあただもし不正を行うにしてもそのコンピュータプログラムと同程度の強さがないといけないわけでまず問題はないはずですが。決まってるもんはしょうがないですね」

矢内「遠山さん、ありがとうございました!ではここからは用意されているノートパソコンのスペックの違いはあれどもプログラムと棋士達との純粋な力勝負になりますね」

ここからの展開が熾烈を極めた。まず大将戦。そのスペックを劇的に落としもはやただの一プログラムに成り下がってしまったGPSが疑問手を連発した結果、瀕死寸前であった糸谷玉が息を吹き返し、両者互角までに形勢の針が引き戻されていた。

一方副将戦はこれまたブレードサーバーによるクラスタ並列をできないただの改良型ボナンザに成り下がったPuellaαが、入玉含みに弱点を付いてきた永瀬に劣勢に陥ったまま終盤戦になっていた。

中堅戦はなんとアクシデント後も変わらずツツカナが局面を優勢のまま終盤戦を乗り切ろうとしていた。対する米長戦法を繰り出した船江はその余りにも人間的でかつ最強の一手を指してくる対戦相手に焦りまくっていた。「おかしい。こんなはずではなかった。当初の作戦は上手くいっていたはずなのに一手の見落としでこうも差が開くとは・・・あれ・・・このセリフどこかで聞いたような・・・気が・・・しないでもないような・・・えーい!雑念止めーい!」

その頃、次峰戦はクラスタ並列機能を持たないただのぽにゃんざに成り下がったPonanzaがやはりポカを起こし、戦形も横歩取りということもあり、あっという間に菅井の勝利に終わっていた。

先鋒戦も時を同じくして、八代の完全な研究手順に嵌まった習甦が、その蟻地獄になすすべもなく最後は大差での投了となっていた。八代には「日々血の滲む思いで将棋盤に向かい合って研鑽している我々プロに、全く研究のけの字もしていないコンピュータなんかに負けてたまるか」という若さ溢れるプロとしての強い矜持があった。これからの未来の将棋会を背負って立つ頼もしい男である。

さあこれでプロ棋士側の2勝、残りの中堅戦、副将戦、大将戦で1勝挙げれば団体戦としては勝ちである。しかしここには誰一人として団体戦で勝つことに目標を置いている者はいない。完全にプロとしての意地を見せる。そう、5戦全勝である。

その11に続く