忘れないよ (5) | 完ぺきなママより幸せなママでありたいあなたへ

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やがて夕飯の時間になり、


私の病室にもご飯が運ばれてきた。



『………じゃあ、俺たちそろそろ行くな。ばーちゃんが夕飯用意しててくれるらしいから………』



『うん、わかった……パパ、ありがとう。………ご飯しっかり食べてね。』



『ママもちゃんと食べろよ!』



夫はそう言うと、ノンを連れて病室を出ていった。



私は窓から、


駐車場に出てきた二人に手を振った。


ノンは目一杯、


手を振りかえしてくれた。


車に乗っても、


私の姿が見えなくなるまで手を振っていた。








実は、


二人がいた時から少しずつ陣痛が始まっていた。


次第に痛みは増してくる。


痛みが引いたすきに、


食欲はないがお茶だけでも飲もうと、


立ち上がった、


その瞬間。








ザーーーッ!!


っと、滝のように出血した。

バケツをひっくり返したかと思うほどの量に、


自分でビックリしてしまった。


フラッとしながらも手を伸ばし、


なんとかナースコールを押した。


看護婦さんが来る早さにも驚いたが、


なんといってもこの、量だ……


私は「分娩室」ではなく、「処置室」に運ばれた。


先生が、



『…お母さん、もうね、赤ちゃんの頭が見えてるの。』



と話す。



『お母さん、痛いでしょう……もう産む時がきたのよ、産みましょう!』



先生には予想ができていたことなのだろうが、


私はついさっき、


言われたばかりなのだ。


赤ちゃんはあきらめなさい、と。


まだお腹の中で生きている我が子の命を、


あきらめる心の準備なんて、


誰ができる?


昨日までは、


確かに元気に動いていたのだ。


産んでもこの子は生きていかれない。


それがわかっていて、どうして産もうという気になるの。


嫌だ!


産みたくない!



『………お母さん、赤ちゃんは出たがっているから………辛いでしょうけど、産んでしまいましょう。』



…赤ちゃんは出たがっている……



そして、


いくら赤ちゃんが小さくても、


陣痛の痛さは普通のお産とまったく同じなのだ。


痛くて痛くてたまらない。


涙がボロボロと溢れて止まらない。





ごめんね……


あなたが一番、苦しいんだよね……


こんな形で産むことしかできなくて、ごめんね……











時期こそ早すぎるものの、


普通のお産とまったく同じだった。


私は痛みに任せて、


泣き叫びながら産んだ。









『……お母さん、よく頑張ったね……男の子だよ。』





『……………会わせてもらえますか…』





『……ええ……じゃあ、綺麗にしてから会いましょうね。』





処置室の中にある小さなベッドに座り、


点滴を受けながら、


赤ちゃんがくるのを待った。


しばらくすると、


看護婦さんが赤ちゃんを抱いてやってきた。


看護婦さんは私の両手にそっと、


赤ちゃんを乗せてくれた。


初めて抱いた、私の目にうつったのは。








あまりに小さい、



我が子の姿………





両手に乗せて、少し足がはみ出す程度……


小さいが、ちゃんと爪もある。


ちゃんと人間の形をしている。


鼻も、口も、ノンにそっくりで……


本当に本当に可愛い………



看護婦さんは、うつむいて泣き続ける私の肩をポンとたたき、立ち去った。


その手が、とても暖かく感じた。













神様………





恨むよ、神様………





せめて、





生きて会いたかったよ。





生きてさえいてくれたら、





それだけでよかったのに。





たとえ、





障害があったっていいよ。





障害があろうがなかろうが、





大切な我が子には違いないよ。





どんな姿をしてたって、





いとしいんだ。











生きて会えるって、








どんなに幸運で、








幸せで、











ありがたいことなんだろうね………