第一回口頭弁論---その7---空転 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

第一回口頭弁論---その7---空転

2006-05-07 14:26:15


川畑      「……………『これが何か……』と言いますと?」


それが鳩豆な顔から立ち直った川畑が、やっとの思いで吐き出した言葉だった。


裁判官     「ええ……あ……すいません……少し言葉が足りませんでしたね……。」


そう言うと裁判官は又、ボールペンの後ろで右のモミアゲを掻きながら……


裁判官     「この甲3号証は、どういった意味……目的・主旨の為に提出されたのですか?」


と聞き直した。


キラリーン。

鳩豆から見る見るうちに生気がよみがえる。


水を得た魚とは正にこの事だ。


2~3度大きく瞬きをすると……自身に満ち満ちたシリアル顔になり……


川畑      「この書証はですね……。」


とおっ始めた。


川畑      「この書証はですね……被告:細川さんが、今回の問題となった

         『白いネコを飼っている』という事の証拠です。」

裁判官     「……………。」

川畑      「それと被告がボクに対して『迷惑を掛けた』事を認めている事の証拠です。

         ……丁度、中程に『ご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません』と謝っていますよね?」

裁判官     「……………。」

川畑      「即ちこれが『非を認めた』……

         『被告のネコが車に傷を付けた事を認めた』証拠なんですっ!!」


パタン……。


モミアゲを書いていたボールペンが、机の上に転がると……フゥ……と一息。


裁判官     「……まぁ今から被告にも確認していきますけどね……。

          答弁書の中で、被告はこの写真に写っている白ネコが『被告のネコ』と認めていますから

          改めて争う所でもありませんね。」


と実にあっさり。


一瞬で元の鳩豆顔に戻る川畑。

だが、一世一代の大プロジェクトで作ってきた甲3号証である。


ここで引き下がるわけには行かない。


川畑      「あ……あの……裁判官……ちょっとよろしいでしょうか?」

裁判官     「はい?」


必死の引き止めだ。


川畑      「ネコが『被告のネコ』であると言う点ともう一点ですね……被告は被害を掛けた事を

         この中で認めています。そうですよね?」


川畑得意の付加疑問文作戦だ。


裁判官     「まぁ……それは全ての主張・証拠等を出して頂いてですね……

          最終的に裁判所が判断する事ですので……。」


だが相変わらず見事にすかされる。


ああ……そう言えば、ワタシの裁判の時も……

「なるならないかは…裁判所が判決の際に判断するだけです。

この場で言うことは出来ません。あくまで中立ですから…。」

と言われていたっけ……。(参考)


川畑      「確かにこの電話の相手は、被告の妻ですけど……。

         ネコを飼うという行為は、家族全体の総意でしょうから、

         妻が認めたという事は被告が認めたという事になりませんか?」

裁判官     「……………。」


………あのねぇ……。

論点すら違うのだよ。


川畑      「被告が『謝った』……即ち『自らの非を認めた』って事でしょう?

         それは違うんですかっ!?」

裁判官     「……………。」


論点がずれている事を微塵も感じ取らずに独りエキサイトする川畑。

壇上の裁判官は、机の上のボールペンを又拾い上げると……モミアゲをカキカキ……。


そしてもう一度フゥ……と息をついて気持ちを整えると……。


裁判官     「あの……次、進めますね。」


と超事務的にバッサリ。


川畑      「あっ……あのっ……もうちょっとっ……。」


大慌てで更に食い下がる。

だが裁判官は、その言葉を右手の平のマテッのポーズで遮ると……


裁判官     「では、被告側から提出されてる答弁書及び乙号証ですが……。」


と細川さんを見て話し始めた。




ちょっと……「ビックリなお知らせ」

以下次号……「第一回口頭弁論---その8---確認」