第二百七十七話 激写!
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ここは、下町の空き地のひとすみ。
ここらをねぐらにしている猫が集まって、なにやらぶつくさ、いっております。
「くっそう、おととい、あくびしてるとこ、撮られちった」
「あたしなんて、にくきうのお手入れしてたら、撮られちゃったのよ」
「おいらなんか、おしりなめてるとこを...ああもう、おムコにいけない」
「あのカメラマンめえ、ショウゾウケンってもんを、どう考えてやがんだ」
猫たちが文句を言っているのは、猫の写真家シモヤマくんです。
かれはいつでも、でっかなカメラを持っていて、そこらの猫を撮るのです。
そう、いつも、こんなかんじで。
「あら~、ビジンさんだね~」 ばしゃ。
「おっ、そのポースいいね、そのまま~」 ばしゃばしゃ。
「もうちょっと右! そうそう、はいチーズ」 ばしゃばしゃばしゃ。
あきることなく、毎日、毎日。
猫の写真ばかり、撮っているのです。
「いいじゃないの、わたくしのビボウが世に知れ渡るのよ、おほほほ」
なんて、すっかりモデルさん気分の猫もいますけど、
「じょうだんじゃない。わっちのヘイオンなセイカツを、どうしてくれるんだ」
「そうよそうよ。うちの子らだって勝手に撮っていくのよあの男」
「それに、ギャラだってもらえないんだぜ。プライベートを切り売りしてんのに、わりに合わねえよ」
というわけで、すっかり撮影ハンタイムードが、空き地では大勢をしめております。
「どうしようか」
「どうしよう」
ちいさな額をよせ集めて、猫たち、もぞもぞ、相談中。
「あいつをおっぱらうには、どうしたらいいかな」
「あの男、けっこうシツコイわよ」
「いっそ本気で怒ってやったら。シャーってさ」
「ダメだって。あいつ「おお、怒った顔もかわいいね~」なんつって、ぱしゃぱしゃ撮るんだから」
「そうか...」
「ううん、誰か、なんかいいアイデアないか~」
「おお、そういえば」
と、にくきうを、ぽぷ、とたたいて、一匹のおじいさん猫が、言いました。
「あいつは、けっこう、こわがりだったのう」
「えっ、ほんとう」
「ほんとうだとも。わしは、あいつが小さいころから、ようく知っておるからな」
おじいさん猫、ひげをひねって言うことには、
「あいつはの、縁日のオバケヤシキだって入れないんじゃ。おばけの本なんか見た日にゃ、夜中にお便所にもいけないんじゃよ」
猫たち、おおお、と声をあげます。
「そうか、じゃあ、おどかしてやればいいんだ」
「化け猫のマネでもしようか。ふぎゃー」
「あんたがやってもこわくないわよう」
「じゃあどうすんだ」
「ええっと、ええっと」
みんなでうんうん、うなっていたらば。
「そういえば、こんなのあるよ」
一匹の猫がみつけてきたのは、一冊の本でした。
『実録! 下町のホラースポット』
「ほうほう」
「ここにさ、こんなのがあってさ...」
「なるなる、なるほど」
「ふむふむふむ」
そうして、しばらく相談していましたが。
「よし、これでいこう」
どうやら、結論がでたようです。
* * * * *
「さあ、今日はどんなかわいこちゃんに会えるかな~」
と、ふらふらと下町にやってきた、なんにも知らないシモヤマくん。
「おっ、いたいた」
ブロックべいの上にいる、まっしろな猫に向かって、シモヤマくん、カメラをかまえます。
「は~い、こっち向いて~」
猫はくるりとふり向きます。
「....えっ」
びっくらこいたシモヤマくん。
「なあおう」
まっしろ猫の目の上には。
くろぐろとした、ぶっといまゆげが、ありました。
「なっ、なんだこれ」
「なあおう」
「...ま、まあ、これはこれで、か、かわいいかな、あ、あはははは」
シモヤマくん、ひきつった顔で、シャッターを押そうとしましたが。
「にゃあおう」
鳴き声に振り返ってみれば、
「うわっ」
でっかなトラ猫の目の上に、これまたりっぱな、ぶっといまゆげ。
おなかをゆらせて、歩いてきます。
「ちょ、ちょっとまった」
あわててあとずさるシモヤマくん。
しかし、
「にゃあーおう」
「なおう」
「みゅーう」
あちらこちらで鳴き声が。
「な、なんなんだ」
がさがさ、がさがさ音がして、現れたのは、
「ひゃああっ」
サバトラ、白黒、ロシアンブルー。
ペルシャにソマリにマンチカン。
いろんな顔かたちの猫たちだけど、みんなみんな、目の上に、あるのです。
とってもりっぱな、ぶっといまゆげ。
「びゃーおう」
「みゃああーおう」
猫たちがじりじりと、シモヤマくんに近づきます。
「はっ、こ、これはもしかして!」
シモヤマくんは、思い出しました。
あの怪しい雑誌にものっていたうわさ。
最近ここらで目撃される、あやしい猫のうわさ。
どっかのだれかさんのノロイがかかった、なんて言われてる。
くっきりみごとな。
「ま、まゆげ猫っ」
そんな猫たちが、ぞろぞろと、集まってきます。
まゆげをりっぱにいからせて。
「ぴいいい」
「にゃあーーーーごる」
「うわ、うわああああああああ」
とってもこわがりなシモヤマくん。
カメラを放り投げ、いちもくさんに逃げていきました。
「へへへ、やったぜ大成功」
「これでもう、あいつは来なくなるわよね」
「めでたし、めでたしぢゃ」
猫たちはそう言って、
「ぷぷっ、それにしてもおまえ、へんな顔-」
「なによう、あんただって」
「わははははは、けっさくだ」
おたがいの顔をみて、げらげらと、笑ったのでした。
* * * * *
さてさて。
その後どうなったかといいますと、
ぱしゃぱしゃぱしゃ
「はいこっち向いて-」
「うわ、ほんとにいるぞ、こんなにたくさん」
「ぷぷぷぷ、まゆげかわいー」
まゆげ猫いっぱい!のうわさは、たちまち世間に広まって、
ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ
「おい、おすなおすな」
「パパーかたぐるましてー」
「えー、おせんにキャラメル」
「たこ焼き、おいしいよー」
カメラをかかえた人たちがつめかけ、まるで毎日、お祭りさわぎ。
すっかり下町の、カンコウメイショになってしまいました。
「くっそう、なんでこんなことに」
「わっちのヘイオンなセイカツが...ああ...」
すっかり激写されまくり、やかましいのにぐったりな猫たち。
「このまゆげ、消えないのかなあ」
「ダメよ。マジックで書いちゃったもん。毛が抜けるの待つしかないわね」
「まいったなあ...」
しかし、悪いことばかりでもなさそうです。
「おーい、たこ焼き屋のおやじが、おやつくれるぞ」
「えっ、ほんと」
「わーい、食いにいけー」
おやつをもらって満足な猫も、いるようです。
「おやつはいいけど...なあ」
「やかましいよなあ」
「まあ...いいか...な」
「ひるねしてるうちに、みんな、あきるだろきっと」
そうですねえ。
まゆげを書いた毛が、すっかり落ちてしまう頃には、きっと。
みんなのヘイオンなセイカツも、もどるにちがいありません。
そうして、あのシモヤマくんがもどってくるかどうかは。
まだ誰にも、わからないのですけれど。
おしまい
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