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2017-08-15 09:32:15

第三百六十二話 【+終戦の日特集】金魚鉢と猫

テーマ:しみじみ

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七十二年前の今日、私はT県I村のはずれ、小さな農家の片隅にいました。

生まれつき左の足に麻痺があって、そのうえ馴れない疎開生活でお腹を壊し、かれこれ一ヶ月近く、ほとんど横になったままだったのです。

その小さな家には祖母と母、そして私しかいませんでした。

 

軍人だった祖父は日露戦争で戦死。恩給を受けた祖母は、生まれ故郷のI村に家と畑を買って、細々と暮していました。

父は苦学して電信技師になり、東京で仕事をしながら祖母に仕送りを続けていました。その父も徴用され南方へ行ったまま、音信不通となっておりました。

ここは三世代、女ばかりの暮らす家でした。

 

「今日の正午、大事な放送があるから、集会所に来て、皆聴くように」

 

村の駐在さんがそう言って来たので、祖母と母は、仕方なく出かけることにしました。

お腹を壊して横になっていた私はまだ六つ。大人の足でも歩いて小一時間はかかる集会所まで行くのは、さすがに無理でした。戦争になる前に父が送って来たというラジオは、どういうわけかさっぱり使い物にならず、棚の上で埃を被っていました。

 

「急いで帰って来るからね、待っていてね」

 

と、母はぐずる私をなだめましたが、具合が悪いのと独りが不安なのとで、私は言うことを聞きませんでした。ほとほと困り果てた母は、しばらく私を疲れた顔で見つめていましたが、はっと何かに気づき、急いで台所の隅へと駆けていきました。

程なくして戻った母の手には、ちいさな金魚鉢が。

水をたたえた金魚鉢がありました。

 

「ほうら、あなたの好きな金魚鉢よ。金魚さんと一緒なら、寂しくないでしょう」

 

父が南方に出かける前に、何処からか父が見つけて私にくれた金魚鉢。

もちろん、一度も金魚を入れたことなんて、ありませんでしたが。

 

「戦争が終わったらな、みんなで神社の縁日に行こう。金魚すくいだぞ。楽しいぞ」

 

その父の言葉を真に受けて、私は金魚鉢を、毎日眺めて過ごしました。

東京の家から、ちいさな私が必死になって持って来ました。

ぎゅうぎゅう詰めの汽車の中で、割れてしまわないかと気が気ではありませんでした。

久しぶりに水をたたえた金魚鉢は、涙で曇った私の眼に、きらきらと光って映りました。

 

もちろん、戦時中の片田舎で、金魚など手に入るはずがありません。

母は、その金魚鉢の中に、ぽとん、と、ちいさな赤い粒を落としたのです。

ゆっくり、ゆらゆらと沈んでいく赤い粒。それは、梅干の種でした。

その赤は、幼い私の眼に、どんなに鮮やかに見えたことでしょう。

 

祖母に急かされて、母はぱたぱたと駆けてゆきました。

私はその足音を聞きながら、ぼんやりと金魚鉢の中を、横になったまま見つめていました。

 

全く不思議なのですが、その梅干の種は、いちど沈んだかと思えば、すうっと途中まで浮き上がり、また沈み、浮き上がり、そんな動きを繰り返すのです。

(その後何度もやってみたのです。でも種はいつだって底に沈んだきりで、浮かんで来ることなどありませんでした)

まるで泡を吐きながら、沈んでは浮かぶ金魚のように。

私はすっかり、その動きに魅入ってしまい、金魚鉢に手を伸ばしました。

触れそうで触れられない、赤い粒。

絵本でしか見たことのない金魚のすがたを思い描きながら、私は飽きもせずにずうっと、その動きを、見つめていたのです。

 

  *  *  *

 

夢を見ました。

日に焼けた父が、ランニングシャツの姿で、にこにこして私を見ています。

その横には、大きな金魚鉢がありました。

たくさんの金魚が、ゆうゆうと泳ぐ金魚鉢。

 

私は金魚鉢の縁によじ登り、おわんを手に取って、金魚をすくおうとしました。

でも、あんなにたくさんいるのに、ちっともすくえないのです。

 

「ほうら、がんばれ、もう少し」

 

父はやさしい声で言いました。

何度も何度も、おわんを水に突っ込みました。

そのたび、水しぶきがあがって。

父の笑い声が聞こえて。

私の顔にも、水がはじけました。

 

  *  *  *

 

ぱしゃん、と音がして、目が覚めました。

私の頬に、雫がぴちゃん、と飛んで来ました。

 

ぱしゃん、ぱしゃん、と音がします。

何かが金魚鉢の水面を、叩いているのです。

目をこすってよく見ると、それは、猫でした。

黒っぽいトラ模様の、大きな猫でした。

 

猫は、時々後ずさりながら、水面を何度も叩きました。

そのたび、金魚鉢の中の金魚、いえ梅干の種は、沈んでは浮き、また沈んでは浮きました。

いったいこの猫は何処から来たのかしら。

どうして梅干の種を狙っているのかしら。

そんな疑問は、後々思い返した時に浮かんできたのですが。

そのときは、猫がそこに居ることに、まったく不思議を感じませんでした。

 

猫の動きは、ますます激しくなりました。

まるで金魚鉢のまわりで踊っているみたいに。

ぱしゃん、ぱしゃんと猫が水面を叩くたびに。

私の頬にも、水が飛びました。

 

外から熱い風が吹いてきました。

右の頬だけ、すう、と涼しさが立ちました。

猫は、低く身体を沈めたかと思うと。

両手で思い切り、金魚鉢に突っ込みました。

 

大きく水しぶきがあがります。

赤い粒が、その中から飛び出して。

くるくると回って。

 

呆けていた私の口に、ころんと入ってしまいました。

 

私はびっくりして起き上がり。

ひっく、と、ひとつしゃっくりをしたのです。

金魚は、いいえ、梅干の種は。

私のおなかに、ごくん、と入っていきました。

 

びっくりしたまま身動きできない私。

すると大きな猫は、ゆっくり、のしのしと私の膝に乗り。

すんすんと私の鼻の匂いをかぎました。

そうして、ぽん、と、右の手で。

私のおでこを、叩いたのです。

 

まんまるな猫の目の奥に、きらりと光るものがありました。

かすかに、父の頭の匂いがしました。

ちょっと脂っぽい、燻されたような匂いが。

 

「おとうさん」

 

確か私は、そう呼びかけたのです。

 

すると猫は、ぶるぶる、と尻尾を震わせて。

二度三度、両の手を舐めたかと思うと。

悠々と、部屋を出て行きました。

 

いつの間にか、障子が大きく開け放たれていました。

入道雲がもくもくと立つ、西の空が見えました。

蝉の声が急に大きくなって、風が吹いてきました。

 

猫のしっぽが、ゆらゆらと、縁側の向こうに消えてゆきました。

 

  *  *  *

 

そのあとのことは、よく覚えていないのです。

祖母と母は、集会所から帰っても、あまり話をしなかったと思います。

だから、戦争が終わった、ということを知ったのは、数日経ってからのことでした。

父が、帰って来ないと知った時のことでした。

 

あの金魚鉢に、はじめて金魚が入ったのは、東京に戻ってからのこと。

戦争が終わって五年ばかり経ってからでしょうか。

ゆらゆらと泳ぐ金魚を見るたびに、梅干の種の妙な感覚が。

そして、頬にかかる水しぶき。

猫のまんまるな大きな目。

そして、父の頭の匂いが、思い出されました。

 

あの小さな金魚鉢、しばらく手許にあったのですけれど。

母が亡くなった頃から、何処に行ったものやら、わからなくなってしまいました。

他愛もない記憶ですけれど。

 

金魚鉢と猫のこと、この日になると、思い出すのです。

 

 

 

おしまい

※このおはなしはフィクションです

 

 

☆いつもありがとうございます。

 今年もこの日がやってまいりました。

 終戦の日特集、今年はおはなしの末尾にて失礼致します。

 よろしければ、以下のおはなしも、ぜひどうぞ。

 

第十話 手紙

 

第二十九話 ハルの獲物

 

第百六十八話 <回想録風>キクと桜

 

第二百二話 <童話風>ながぐつねこの おまもり

 

第二百八・九話 白猫伝説 其一 ・ 其ニ

 

第二百十七話 秘密の場所へ

 




いつも読んでくだすって、ありがとうございます


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