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2017-05-24 09:00:00

◎番外◎ 【随筆】校門の猫

テーマ:◎番外◎

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都内のとある大学で、非常勤講師の職にありついてから、ようやく一ヶ月が経つ。
自宅からバスと電車を乗り継いで片道約3時間。たった一週ひとコマのためにご苦労なことだ、と揶揄されたりもするが、この情けない身体で、ようやく掴んだちいさな社会復帰へのわらしべ。逃すわけにはいかない。
自宅のあるだだっ広い田舎とはうってかわって、せせこましい細い路地のずっと先にあるコンパクトなキャンパスは、いつも女子学生のさざめきで溢れている。奇抜なファッションに身を包んだ学生がふたり、くだらない話に花を咲かせているかと思えば、モノトーンのリクルートスーツに身を包んで颯爽と過ぎてゆく4年生もいる。5月の連休を過ぎ、若干の怠惰と懊悩に身を任せる者、そんな暇もなく駆け回る者、それを傍観する者。ある社会の縮図が、こんなところにも垣間見えて、日々自宅の寝室でぼんやりと過ごすしかなかった私は、ああ、これが社会だ、とようやく気づきはじめている。

   *  *  *  *  *

多くの大学がそうであるように、住宅地のど真ん中にあるこのキャンパスにも、ちゃっかり住み着いた猫たちがいる。
中途半端な長さの尻尾をもった、黒っぽいサビの貫禄ある猫。すらりと長い尻尾と、グレーの虎模様と真っ白な毛並みのコントラストが美しいスマートな猫。そしてごくごくありふれた姿の、ぼってりとした茶虎の猫。私が今まで目撃したのは、この三匹だ。
新参者の私に、彼らは寄って来ようとしない。たいてい遠巻きに、縄張りに現れた野良犬に向けるような怪訝そうな目で、私のことをじいと監視する。そうして、馴染みの学生や講師先生、警備員のみなさんの方にはすいすいと寄っていって、何やら挨拶をしている。グレー虎の「彼女」(と私は決めつけている)などは、長い見事な尻尾をゆらゆらとさせて、見事に学生たちを誘惑する。長く居心地のよい場所を確保する術を、スマートに身に着けた彼女のパフォーマンスを横目に、私はよろよろと杖をつきながら、アアその華麗さの百万分の一でいいから、私に分けておくれ。そんな理不尽な願い、あるいは呪詛を、心のなかでつぶやいている。

  *  *  *  *  *

彼らはひとつ処に固まっておらず、それぞれのゆるやかな縄張りで過ごしているようだ。不思議なことに、そのゆるやかな縄張りは、彼らの行動によって自由に変形する。極力顔をつき合わさずに済む距離感を、絶妙に保っているという印象だ。先週は茶虎が校門前のサクラの根本でまどろんでいたが、今週はそこで黒サビが愛想をふりまいている。今まで一度も、三匹が同じ視界に入ることはない。
ひょっとすると彼らは、昼間はそれぞれ思い思いに過ごし、夜はカフェのある中庭のテラスあたりで、今日の報告会などしているのではなかろうか。豪華な食事の自慢、学生たちの近況、窓から見える卒業制作の進み具合、そしてボンクラ教員のくだらぬ講義。そんな話題にされてはたまらないと身震いしつつ、そんな中に入れてもらえたら案外楽しそうだなとも思う。生まれ変わって、優しい学生たちに囲まれながら暮らす猫になれたら、どんなにか幸せだろう。
こんな埒もない妄想が、いつも授業の準備を邪魔するのだ。

  *  *  *  *  *

ある日の帰り際、黒サビが校門の前で佇んでいた。大きな眼鏡をかけて、髪の毛をきゅっと後ろで束ねた小柄な学生と、向かい合って何やら話をしているようだった。
奇妙なことだが、本当に会話をしているように見えたのだ。黒サビがミャアと鳴くと、学生はウンウンとうなづき、何かしらことばを返している。黒サビは時折首をかしげ、うつむき、またミャアウと鳴く。そんな遣り取りが何度が続いたのち、学生は、じゃあね、と黒サビに手を振り、ゆったりしたスカートをひらめかせて、急ぎ足で教室のある建物へ駆けていった。

そのあとの、黒サビの寂しそうな様子といったら。

建物の入口に進んで、ドアの前にぴたりと座り、ミャアウミャアウと鳴き叫ぶ。他の学生が声をかけてもおかまいなし。ただひたすらに、あの学生を呼んでいる。まるで母親を呼ぶ仔猫のように。
毛並や足腰の様子から、もう十歳近いのではないかと思える黒サビは、警備員の初老の男性にもよく知られているようで、さかんに声をかけられ、背中をなでられていた。しかしこの時ばかりは、いくらなだめても収まる気配をみせない。
日が傾いて鈍いオレンジに染まるキャンパスに、ミャアウミャアウと黒サビの声が響く。
私はどうにもいたたまれずに、もぞもぞとリュックを背負い、地下鉄の駅へと向かった。
途中振り返ると、警備員の男性と黒サビがふたり、まだ建物のドアの前に並んでいた。さすがに中には入れてもらえないのだろう。
ずいぶん校門が遠くなった頃、ミャアとひときわ甲高い声を発したきり、黒サビの訴えは止んだ。

  *  *  *  *  *

あの小柄な真面目そうな学生と黒サビとのあいだにある、誰にも知ることのできないつながりは、ぜんたい、どんなものなのだろう。おそらく、簡単にことばにしてしまうにはあまりに純粋で、あまりに混沌とした、関係のからまりなのだと想像する。
種を超えた友情とか、動物は家族同然とか、そういうことばをよく見聞きする。しかし、そもそも種とはなんぞや、家族とはなんぞやと考えはじめると、いっしょに生き、通じあうならば、種も友情も家族もなく、ただ、いとおしいものが近くにいる、それだけでいいような気もしてくる。
我が家で育ち、旅立ち、巣立っていったものたち、そしていま、のうのうと私のベッドを占領する三匹のことをぼんやりと思うたび、その心持ちはいっそう強いものになる。
そんなことに改めて気付かされた、ある夕方の出来事だった。

ただ三匹のために私に出来ることといえば、週に一度の講義で、我が家の三匹のごはん代を稼ぐくらいが、関の山なのだが。

ささやかに一瞬を生き、いつか旅立ってゆくキャンパスの猫たち。そして彼らに見守られながら、私などにはあまりにまぶしい一瞬を駆け抜ける学生たち。彼らのゆるやかなつながりとこころの動きは、これから私に、どんな妄想を与えてくれるだろう。
三匹のごはん代のためだけでなく、そんな妄想を楽しむために、今日も私はバスに乗って、とおいキャンパスへとむかう。

 

 

 

おしまい

 

 

 

 

 

 




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