◎番外◎ <随筆>干し芋
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冬になると、居間の真ん中をストーブが占領する。それは当たり前のことだった。
煙突がストーブから壁の穴までにょきにょきと伸び、その煙突には直接触れないよう、鉄の柵のようなものが嵌められる。
火は一日中焚かれ、家族はその周りに集まる。雪だらけになった上着が煙突の下に掛けられ、ぽたりぽたりと、雫が下に敷かれた新聞紙の上に落ちる。
薬罐から湯気が噴き出す。物置の石炭を運びに、息も凍りつく真っ白な雪景色へと飛び出す。
それはふつうのことだったし、ずっとそうした風景が、自分の近しいところに、あるものだと思っていた。
* * * * *
北海道を出たいと思ったことは、実のところ、一度もなかった。
気が付いたら内地の大学に引っかかり、慌てて準備をし、自覚する暇もなく大学生になった。たくさんの仲間と知り合い、遊び、学び、働いた。あっというまに四年間は過ぎ、どうにかこうにか働き口も見つかった。
右も左も判らずに必死に働き、自分の非力さを呪いながらも、やっとこさ自分の居場所を見つけた、ような気がした。
そうして気が付いたら、いつのまにか私は「内地の人」になっていた。
* * * * *
ストーブの上にアルミホイルを敷いて、干し芋を焼く。それは暗い冬の午後の、秘かな愉しみだった。
微かにぷちぷち、じゅうじゅうと音を立てる干し芋を、せっかちにひっくり返しながら焼けるのを待つ。白く粉を吹いた芋の表面に黒い斑点が出来ると、もう食べ頃だ。あちち、あちちと手で転がし、ふうふう吹きながら、食べる。ねっとりした柔らかい甘さと、焦げの香ばしさが、口いっぱいに広がる。
もうひとつ、もうひとつ、と母にねだる。しかし決まって、貰えるのはひとつだけだった。
だから、そのひとつを、いとおしく齧った。
ストーブの脇で過ごしたあの頃が、何故今になって、こんなにも懐かしく感じるのだろう。
* * * * *
停電の中、猫のマルコと、妻と一緒に布団に潜り、暖を取る。
互いの体温を感じながら、幼い頃の、あの干し芋を思い出す。
厳しい北の大地に置き忘れた甘い記憶が、じんわりと私を照らす。
その温もりの、なんとささやかで、なんと力強いことか。
心から願うのだ。
この温もりが、あのひとに、あのひとびとに、届きますようにと。
厳しい大地で培われた、微かなともしびをちからに変える強靱な精神を、けっして失わないでください、と。
おしまい
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