第二百五十六話 <詩>ロヴァニエミ幻想
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その日も 陽は昇らなかつた
遙か地平の彼方に姿を隠した太陽は
寒さに凍へて細々と光を投げてゐる
夜の精霊達は我物顔で
凍てつゐた暗い空に
甲高い音を響かせ乍ら
舞ひ踊つてゐる
防寒着の隙間から
体温が流れ出てゆきさうで
私は
胸をぎうと抱きしめた
只広い計りの雪原
遠くには
黒鉛色の針葉樹林が
壁となつて聳ゑ立つ
その真ン中で
息さへこほりついて仕舞ふ
静寂と喧噪の交錯する世界で
私はその時を待つてゐた
* * * * *
ナアヲと声がして
私は天を仰いだ
知らぬ間に私は
枝を空いつぱいに広げた
大樹の根元に
立つてゐたのだつた
一等太い枝には
雪のやうな白さと
森のやうな黒さが
混じり合ふ
一匹の猫が
私をジツと見据ゑて
身じろぎもせずに
座つてゐたのだ
アアこれはキツト世界樹だらう
世界の中心に屹立する大樹
彼の地の神々が集ふ
命のみなもと
枝は紫紺の空を埋め尽くし
その僅かな隙間から
星々が
恨めしく瞬いてゐる
モウ直ぐ
やつて来るだらう
キツト
やつて来るだらう
* * * * *
果たしてその時は訪れた
枝の上で猫が
ナアヲンと叫び
地平の彼方から
二頭の大猫が牽く勇ましき戦車が
女神の閃光と共にあらはれた
枝々のあひだをすり抜けて走る戦車は
無数のカアテンを
虹色に織り上げて
汚れた矮小な私の顔を照らした
猫は見てゐる
勇ましく駆ける戦車の軌跡を
私は見てゐる
畏ろしくも悲しき光の軌跡を
空はスツカリ
虹色の光に支配され
大樹の枝は
紫紺の中に滲んで
消ゑて仕舞つた
猫
猫は
私の肩にチヨコンと座つて
身じろぎもせず
只ナアヲと丈け
みぢかく鳴いたのだ
* * * * *
アア光が消え行く
身体の熱が
奪はれてゆく
遂に私は
猫が住まふ
汚れた矮小な
一本の樹に
なつて仕舞つた
猫がナアヲと鳴いて
私に寄添ふ
夜の精霊達は
甲高く騒がしい宴を
一等元気に
再開した
あすも又
私達はその時を待つだらう
息さへこほりついて仕舞ふ
静寂と喧噪の交錯する世界に
未だ
陽は昇らないだらう
おしまい
いつも読んでくだすって、ありがとうございます
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