第二百五十一話 クリスマスの おねがい | ねこバナ。

第二百五十一話 クリスマスの おねがい

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第百三十一話 鰹節ひとつ(三十八歳 男) もどうぞ。


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「ミサキちゃん、もうすぐクリスマスだねえ」

アパートの かいだんで あそんで いたら
したの へやに すんでる おばちゃんが ぼくに そう いった

「クリスマスって なあに」

ぼくは きいてみた

「なんだい シゲのやつ クリスマスもおしえてないのかい」

おばちゃんは めを まんまるにして おどろいた
そうして

「クリスマスっていうのはねえ」

あかい ふくきた サンタクロース
となかいの そりに のって
とおい くにから やってきて
よいこに プレゼントを くれるんだって

「へええ」
「ミサキちゃんとこにも きっと くるよ」
「ほんと」
「そうさ ミサキちゃんは いいこだからねえ」
「プレゼント って なにを くれるの」
「そりゃあ おねがいすれば なんだってくれるさ」

そう いって おばちゃんは ちょっとだけ うえのほうを みて

「そうそう サンタさんに おねがいごと するならねえ」
「うん」
「シゲに ことづけて もらえば いいよ」
「コトヅケ?」
「シゲが ちゃあんと サンタさんに いっといて くれるさ」
「そうなんだ」

ぼくは なんだか うれしくなった

「いいかい ちゃんと シゲに いうんだよ」
「うん!」

ぼくは そう いって へやに はいって
おふとんの なかで いろいろ かんがえたんだ

  *   *   *   *   *

「おう かえったぞう」
「おかえりー」

シゲちゃんが しごとから かえって きたので
ぼくは きいて みたんだ

「ねえねえシゲちゃん」
「なんだ」
「サンタさんの プレゼント なにがいい?」
「はぁ サンタだぁ」

シゲちゃんは めを まんまるにして ぼくを みた

「クリスマスに サンタさんが プレゼント くれるんでしょ」
「あ ああ そうだっけな」
「いいこに してたら くれるんでしょ」
「さて どうだったっけな」
「シゲちゃんが サンタさんに いっといて くれるんでしょ」

シゲちゃんは しゃがんで ぼくを みた
じょりじょりの おひげと
ほこりで よごれた シゲちゃんの かおは
なんだか へんな ふうだった

「おいミサキよ」
「なあに」
「おまえ そんなこと だれに おそわった」
「したの おばちゃんが おしえて くれたよ」
「ちっ あのババァめ」

シゲちゃんは すこし おこった みたいだ

「ねえ プレゼント」
「そんなこと いきなり いわれてもよう」
「だって サンタさんが くれるんでしょ」
「そうだけどよ さ サンタさんにだって じゅんびって もんが あんだろうよ」
「そうなんだ」
「そうともさ」
「じゃあ ぼくには こないかなあ プレゼント」

ぼくは かなしく なっちゃった

「そ そんならよう」

シゲちゃんが いった

「もの じゃ なくてよう こうなれば いいな ってのを おねがい するのは どうだ」
「もの じゃ なくて」
「そうさ おまえが こうなって ほしいなあ って ことが あれば」
「うん」
「おれが サンタさんに いっといて やるぞ」
「ほんと?」
「おう もの じゃ なければ なんとか してくれんだろうよ」

もの じゃ ない プレゼント
なんだろう

「なにが いいかなあ」
「なんでも いいぞ」
「そうかあ」

ぼくは うれしくなって きいてみた

「ねえ シゲちゃんは なにがいいの」
「は?」
「シゲちゃんの いいものに するよう」
「ばっかいってんじゃねえよ サンタさんはな こどもの おねがいしか きいて くれねえんだよ」
「そうなんだ」
「そうともさ」

どうしよう
なにがいいかな
ぼくは いろいろ かんがえたけど

「そんなことより めしだ めし」

シゲちゃんが おおきな こえで よんだので
ぼくは あとで かんがえる ことに したんだ

  *   *   *   *   *

「なにが いいかなあ」

いよいよ あしたは クリスマス
ぼくは あきちの どかんの なかで
おねがい すること いろいろ いろいろ かんがえた

なんだろう なんだろう

「シゲちゃんが おかねもちに なれば いいなあ」

そうすれば まいにち たいへんな おしごと しなくて いいもんね
ああ でも シゲちゃんの ことは おねがい しちゃ いけないんだっけ

「かつおぶしが いっぱい ほしいなあ」

そうすれば のらねこの ゲンにも いっぱい あげられるしね
ああ でも もの を おねがい しちゃ いけないんだっけ

なんだろう なんだろう

「ああ かあちゃんに あいたいなあ」

ぼくを シゲちゃんとこに つれてきた かあちゃんは
そのまま どこかへ いっちゃったんだ
かあちゃん いま どこに いるのかな

「そうだ そうしよっと」

かあちゃんに あえますように
そう おねがい することに きめて
ぼくは うきうき したんだ

  *   *   *   *   *

「おい おまえ」

こえが したので びっくりして みると
ぼくより おおきい おとのこのが さんにん

「ここは おれたちの ひみつきちだぞ」
「おまえみたいな はなたれこぞうが はいっちゃ いけないんだぞ」
「いけないんだぞ」

おおきな こえで そう いった

「だって ぼく かんがえてたんだもの」
「はあ?」

いちばん おおきな おとこのこが へんな かおを して ぼくを みた

「サンタさんに おねがいすること かんがえてたんだもの おそとで かんがえてたら さむく なっちゃうよう」
「わははは なにいってんだ こいつ」

さんにんは わらった
そうして いった

「サンタさんなんて いやしないんだぜ プレゼントは パパとママが かって くるんだぜ」
「とうさんと かあさんが かって くるんだぜ」
「くるんだぜ」

ぼくは さけんだ

「そんなことないもん したの おばちゃんが いってたもん」

さんにんは わらって いった

「なーにいってんだ こいつ」
「おれ しってるぞ こいつ かどの ボロアパートに すんでんだぜ」
「へえ」
「パパもママも いないんだぜ しらない おじさんが そだててるんだ」
「そうなんだ」

「シゲちゃんは しらない おじさんじゃ ないやい」

「うるせえな さっさと ここから でろよ」
「でろよ」

ぼくは どかんの なかから ひっぱりだされた
そして
どすんと つきとばされて

「にどと くるんじゃねえぞ おやなしっこめ」
「くるんじゃねえぞ」
「ねえぞー」

ぼくは なきたく なったけど
ぐっと がまんして
あきちを とぼとぼ でていったんだ

  *   *   *   *   *

ゆうひが てって
せまい みちが まっかに なった
ぼくは みちを とぼとぼ あるいてた

すると

「にゃあう」

のらねこの ゲンが やってきた

「ゲン ひさしぶりだねえ」

ぼくは ゲンを なでて やったけど
ゲンは すこし うしろを きに している

「どうしたの」

ゲンの うしろから
ちいさい ねこが
ゲンと そっくりの ちいさい こねこが
ぴょこぴょこ はねて やってきた

「うわあ かわいいなあ」

ちかづいて くる こねこに
ぼくが て を のばした とき

「シャー!」

ゲンは こわい こえを だして
こねこを おどかしたんだ

「ゲン どうしたの なんで おどかすの」

こんなに そっくりなんだから

「ゲン おまえの こどもじゃ ないの」

「ぴいい」

こねこは それでも ゲンに ちかづいて くる

「シャー!」

ゲンは また こわい こえを だして

ぺしん

こねこの あたまを たたいた

こねこは
びっくりして はしって いっちゃった

「ゲン だめだよ おまえの こどもだろ」
「にゃあう」
「おまえは とうちゃんだろ なんで そんなこと するんだよう」
「にゃあう」
「そんな いじわるな ゲンは」

ぼくは

「ゲンなんか きらいだ」

そう さけんで かけだしたんだ
まっかに なった ほそい みちを

  *   *   *   *   *

「ミサキ」

へやに はいる かいだんに しゃがんで
ぼくは シゲちゃんを まっていた
シゲちゃんは そとにいた ぼくを みて
びっくりして はしって きた

「どうしたんだよ かぜ ひくだろうよ」

シゲちゃんの おおきな てが ぼくの ほっぺを つつんだ

「ほら こんなに つめたく なってんじゃねえか」
「ねえ シゲちゃん」

ぼくは シゲちゃんに ききたかったんだ

「ゲンは どうして こねこを たたくの」
「なんだ?」
「じぶんの こどもかも しれないのに どうして たたくの」
「そりゃあ...おまえ」
「どうして」
「...おすの ねこは こどもを そだてねえんだよ」
「どうして」
「どうしてって...そういうもんなんだよ」
「ねこの とうちゃんは こどもが きらいなの」
「まあ...ぜんぶが そうだとは かぎらねえけどな」
「わるいこ だから きらいなの」
「いやまあ...」
「いいこに してても きらいなの」
「そりゃあおまえ...その...」

「ぼくは とうちゃんに きらわれたの」

「み ミサキ」
「だから かあちゃんも どっかへ いっちゃったの」
「そ そうじゃねえよ そうじゃねえんだって」
「ぼくの とうちゃん どこにいるの」
「ミサキよう」
「ねえシゲちゃん ぼくの とうちゃん どこ」
「なくなよう」
「どこだよう」

ぼくは シゲちゃんに しがみついて
いっぱい ないた

シゲちゃんは そのまま ぼくを かかえて
へやの なかへ つれて いったんだ

  *   *   *   *   *

「ほら さめないうちに くえ」

おおきな おわんに いっぱい
シゲちゃんは とんじるを よそってくれた
ぼくは たべる げんきが なくて
もわもわ のぼる ゆげを みていた

「なあ ミサキよう」

シゲちゃんは
とんじるを ほおばりながら いった

「おまえ ほんとうの とうちゃんに あいたいか」

ぼくは ちいさく うなづいた

「そうか」

シゲちゃんは そう いって
ずずずずず って とんじるを すすった
そして

「おれと くらすのは いやになったか」

って ちいさく いった
ぼくは

「ちがう ちがうの」
「じゃあ どうしたってんだ」
「ぼくの とうちゃん あって みたいんだもん」
「あって みたいのか」
「うん」
「それだけか」
「うん」

シゲちゃんは とんじるを じっと みていた
しばらく じっと みていた

「そうか」

おおきな ためいきを ついて シゲちゃんは

「わかったよ あわせて やるよ」
「ほんと?」
「ああ すぐに ってわけには いかねえけどな」
「うん」
「そのまえに かあちゃんを さがさなきゃ いけねえからなあ」

そう いって シゲちゃんは あたまを かいた

「じゃあ かあちゃんにも あえるね」
「そうさな おまえの かあちゃんしか おまえの とうちゃんが どこに いるか しらねえだろうしな」
「そうなんだ」
「まあ しばらく かかるかも しれねえけど きながに まてや なあミサキ」
「うん!」

ぼくは げんきに へんじした
とっても うれしく なったんだ
だって

「ねえ シゲちゃん」
「なんだ」
「サンタさんに おねがい しようと おもってたこと」
「うん」
「もう かなっちゃった」
「へ?」
「かあちゃんに あいたいって おねがい しようと おもってたの」

「なあんだ そうかい」

シゲちゃんは わらった
そうして

「すまねえな」

ぽつりと そう いった

「なあに」
「いいや なんでもねえよ ほら とんじる さめちまうぞ」
「うん」

ぼくは ふうふう いいながら
とんじるを いっぱい たべたんだ
いままで たべた なかで
いちばん おいしい とんじる だったんだ

  *   *   *   *   *

「さあ もう ねるぞ」

シゲちゃんは ふとんを しいて いった
そのとき

「にゃあおう」

へやの そとで なきごえが した
ぼくが とびらを あけてみると

「ゲンだ」

のらねこ ゲンが ちょこんと すわってた
そして

「ぴいい」

ちいさな なきごえの する ほうを みると
あの こねこが かいだんの とちゅうで
ちいさく ふるえてた

「シゲちゃん シゲちゃん」
「どうしたんだ」
「ゲンが きたよ」
「へえ」
「こねこも きたよ」
「なんだって」

こねこは いっしょうけんめい かいだんを あがってくる

「こらゲン こねこを いじめちゃ だめだよ」

そう いっても ゲンは しらんかおだ

「ねえシゲちゃん ゲンと こねこ へやに いれてもいい」
「だめだよ どうせゲンは よなかに でたがるに きまってる」
「じゃあ こねこだけでも」
「だから だめだって こいつらは のらねこなんだぞ ずっと そとで いきていくんだぞ」
「だって かわいそうだよう」
「ああもう しょうがねえなあ」

シゲちゃんは あたまを かきながら へやに はいって
おしいれの おくから はこを ふたつ
おおきいのと ちいさいのを だして きた

「ほら こっちの おおきな みかんばこが ゲンの へやだ きたかぜだって へっちゃらだろうさ」
「わあ」
「んで こっちの ちいさな はこが こねこの へやだ ほら ミサキ ふるくなった マフラー もってこい」
「うん!」

ぼくは よごれた マフラーを もってきて
ちいさな はこの なかに いれた
そうして その なかに
こねこを いれて あげたんだ

「そら これで いいだろ あしたの あさまで あったかく ねむれるだろうさ」
「そうだねえ」

こねこは マフラーに もぐって まあるく なった
ゲンも みかんばこに はいって まあるく なった
ぼくは ほっとして
シゲちゃんと いっしょに ふとんに もぐりこんだ

  *   *   *   *   *

「ねえ シゲちゃん」
「なんだ」
「ぼくねえ サンタさんに おねがい することが あるの」
「なんだい もう かなったんじゃ ねえのか」
「ううん べつのこと」
「ほう なんだ」
「あのね ゲンがね」
「ゲンが?」
「こねこと なかよく なりますようにって」
「はあ」
「ねえ シゲちゃん サンタさんに いっといてよう」
「サンタさんにか」
「そうだよう もうすぐ クリスマスに なっちゃうもん」
「そうだなあ」
「ねえねえ」
「おうし じゃあ いっしょに いうか」
「いっしょに?」
「そうさ おまえも サンタさんに おねがいしな」
「うん」
「ええとな ええと そうだ こういうんだぞ」
「うん」
「てんに まします サンタさん」
「てんに まします サンタさん」

「ねこの おやこが なかよくなって」

「けんかを せずに すごせますように」

「そして いつまでも げんきで」

「なかよく くらせますように」

「アーメン」

「あーめん?」
「そうさ」
「あーめんって なあに」
「おれも よく しらねえけどよ そうやって いうんだよ」
「そうなんだ」
「そうともさ」
「ふうん」

「ねえ シゲちゃん」
「なんだい」
「らいねん なに おねがいしようか」
「さあなあ」
「ずっと いっしょに くらせますようにって」
「...」
「おねがい しようかなあ」
「...」
「ねえ...シゲちゃん」


  *   *   *   *   *

「おいミサキ おきろ」

シゲちゃんが ぼくの ほっぺを つまんで いった

「ううん なあに」
「とにかく きてみろよ」

シゲちゃんが ぼくを かかえて
げんかんの そとへと つれていった
そうして

「ほれ」

みかんばこを のぞいて みたんだ
そうしたら

「わあ」

まあるくなった ゲンの おなかの あたりに
こねこが ぴったり くっついて
きもちよさそうに ねむって いたんだ

「やった やった おねがい かなった」

ぼくは とびあがって さけんだ
シゲちゃんも うれしそうに ずるるっと はなを すすった

のらねこ ゲンは
むっくり あたまを もちあげて

「にゃあおう」

おおきな こえで ないたんだ

やねも じめんも かいだんも
はく いき だって まっしろな
さむくて きれいな
クリスマス だったんだ



おしまい




☆★☆ 昨年のクリスマスのおはなし 百二十三・話 聖母子と黒猫(上・下) も、どうぞ。☆★☆


いつも読んでくだすって、ありがとうございます


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