第九十話 お絵描き猫(74歳 男) | ねこバナ。

第九十話 お絵描き猫(74歳 男)

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※ 第四十二話 猫で一句(74歳 男)もどうぞ。

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ころころりー、ころころころりー...
りーん、りーん、りーーん...

「うーん、秋やなぁ...」

ぱひゃりらぱひゃりら
ぶぶー

「柿食えば、鐘が鳴るなり」

たーけやーーー、さおーーーだけっ
ありがとぉございます精一杯たたかいます清き一票を

「だあっ! もうやかましいわい。せっかくええ気分になってたちゅうのに」

「みゃう~ん」

「ああタマか。ほれ、こっち来いや」
「みゃ~」
「もう窓も閉めるさかいな」

ぴしゃり。

ころころりー、ころころころりー...
りーん、りーん、りーーん...

「はあ、閉め切ったマンションの部屋で虫の声聴いてもなあ。ラジカセの音でも聴いてる気になるわ」
「みゃう」
「そうやねん。ダイスケとこのタクヤが置いていきよったんや。全く、世話もろくにせんのにデパートでコオロギだのスズムシだの買うてきてどないすんねんなほんまに」
「みゃー」
「おかしいやろ? ほいで、じいじこれあげるー、やて。わしからしたら、あんなもん、ゴキブリやゲジゲジとよう変わらんわ」
「...」
「音だけ聴いてる分にはまあええけどな。しょせんはムシや虫。はあ。一気に風情もさめるわ~」
「...」
「なあタマや。なんかこう、秋らしいもんはないか。ほれ、秋といえば...」
「...あふ」
「食欲の秋、運動の秋、芸術の秋や。なあ。お前、なんかやってみるか?」
「...」
「もう寝たんかいな。まあええわ。どれ、テレビでも見るか...」

ぽち。

「...これが今話題のお絵描き猫! 壁に貼られた紙に、どんどん絵を描いていきますよ~」
「...うわー、すごいですね。なんか紙を一生懸命ひっかいてますけど」
「...このお絵描き猫クルトンちゃんの画風は、二十世紀初頭のヨーロッパで旋風を巻き起こした野獣派...でいいんでしたっけ...はいはい、野獣派! その流れを汲むと言われているんです~」
「...うん画風はまさに野獣ですね。何が描いてあるのかさっぱり判りません」

「は、何やねんな。ただ赤や黄色の絵の具手に付けさして、暴れさしてるだけやないかい」
「みゃ?」
「お、タマ、どないしたんや」

「...んで、これは一体何なんですか?」
「...飼い主の○○さん、これはどんな題名で」
「...これは、《秋の夕暮れ》です」
「...おおおおおお」

がりがりがりがり
「うみゃーー」
「こらタマ、なんでテレビ引っ掻いてんねん」

「...確かに色が秋っぽいですねえ。色だけですけど」
「...すごいでしょ? さあこのコーナーでは、あなたのおもしろペットの話題を大募集! 秋にぴったりなペットの話題を...」

ぷち。

「うみゃん!」
「な、何やお前、絵を描きたいんとちゃうやろな」
「みゃ~」
「そない言われてもなあ。うちには絵の具はないし...。それにな、お前、絵の具は身体に悪いから手に付けたらあかんで」
「みゃー、みゃー」
「うーん、せやなあ、何かないか何か...ああ、あった!」

がさごそ。

「冷蔵庫の中に...。ほれ、これや、ブルーベリー」
「みゃん」
「これの汁やったら、大丈夫やろ。ちょっと待っとき」

ごそごそ、ごそごそ、ごーりごり

  *   *   *   *   *

「おし! 壁に紙も貼った! ブルーベリーの汁で絵の具も作った! どやタマ」
「みゃーん」

がりがりがりがりがり

「...もう紙引っ掻いてるがな。まだや、まだやって」
「みゃ?」
「ほれ、手ぇには、こうやって汁をつけて...」
「うみゃん!」

ぶるぶるぶるぶるぶる

「ぷぁっ! こら、わしの顔にかかるやないかい」
「みゃうー」

ざーりざり、ざーりざり

「...舐めてしもうた。こらあかんわ」
「みゃん!」

がりがりがりがりがり

「お、それでも少しは色が付くもんやな。せやえど、あんまり濃くないわな」

がりがりがりがりがり

「ほら、そない引っ掻いたら、紙が破れるて」
「みゃうー」
「うーん、どないしょ」

ぶるぶるぶるぶるぶる

「ああもう、また振ってるわ。そないしよったら」
「みゃ?」
「ん? ちょっと待てよ...おお、飛び散った絵の具が紙に付いて、なんやシミになってるがな」
「みゃー」
「これもそれなりに味があるなあ。うんうん。ほれタマ、もっとやってみ」

ぴちゃぴちゃ

「みゃん!」

ぶるぶる、ぶるぶるぶるぶるぶる

「おお、ええ感じや。書道の墨が飛び散るみたいやな」
「みゃー」
「でもなあ。これやったらシミ絵画になってまうわ。うーん、どないしょ」
「みゃーう、みゃーう」

がりがりがりがりがり

「ああまた引っ掻いてるし。ん? それ何や」
「みゃ」
「ああそうか、飛び散った絵の具が紙に付いて、垂れてきてんねや」
「みゃうん」
「それ引っ掻いてんのか、おお、みごとな線になってるやないかい」
「みゃー」
「おし、ほな、わしが最初に、筆で絵の具の点付けたるさかいな」

ぺと。
たらーーーーーーー

「みゃーう」

がりがりがり、がりがり、がりがりがりがりがり

「おおおお、こら面白いな」
「みゃー」
「ほいほい、まだやるんやな。ほな、こっちでどや」

ぺと。
だらーーーーーーーーーーー

「みゃーーーー」

がり、がりがり、がりがりがりがり、がり

「わはは、面白いなタマ。この調子や」
「みゃーう、みゃーう」
「わかったわかった。ほれ、やるでー」
「みゃー」

がりがりがりがりがりがりがりがりがり

  *   *   *   *   *

「...はあ、はあ、わしもう疲れたわ。どやタマ」
「...」
「お前も疲れたんやな。さあ、これで完成か?」
「...」
「どしたんタマ。ほれ、お前の作品やで」
「.......」

くんくん。

「...みゃ」
「何黄昏れてんねん! 何や失敗作かいな」
「...」
「そな落ち込まんでもええやろ。ほら、なかなかええで、このあたりのシミとか」
「...」
「タイトルは何にする?」
「......」
「...《ぐちゃぐちゃ》やな...」
「みゃ...」
「気にいらんのんかい。まあしゃあないわな。芸術の道は厳しいちゅうこっちゃ」
「みゃー」
「とりあえずお前の記念すべき第一作やからな。これはとっとくで」

べりべりべりべり

「うみゃっ!」
「あっこらタマ、何すんねん!」

びりびりがりばりびりびりがりばり

「ああああああ、破ってもうた。お前なあ、ええやろ別にとっといたって」
「みゃ!」
「気にいらんもんは残さん、と。なんとまあ大先生やなあ気分だけは」
「みゃうん」
「まあええわ。また何かで絵の具作ったるさかいな。次はイカスミがええかな」
「みやー」
「何腹減ったんかい。わしも腹減ったわ。面倒臭いし、きょうは猫マンマにしよか」
「みゃうー」
「お前はあかんよ。鰹節かけたるから、カリカリでも食べなはれや」
「みゃ...」

「はあ腹減った...やっぱりわしらは、食欲の秋がええかもなあ」
「みゃあ...」

ころころりー、ころころころりー...
りーん、りーん、りーーん...


おしまい





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