第四十二話 猫で一句(74歳 男) | ねこバナ。

第四十二話 猫で一句(74歳 男)

「あつい...暑いなあ...」

ぶぉ~~~ん

「もう夏やなあ...」

ごーーー
ぶぶー
がががががが

「夏といえば...」

ぱららんぱららん
どががががが
まいど~おなじみ~ちりかみこうかんしゃで~

「ああやかましい! 風情も何もないがな」

「みゃう~ん」

「ああタマか。タマ、ほれ、こっち来い」
「みゃ~んぐるぐる」
「う、うわ、お前もまた暑っ苦しいな」
「みゃう?」
「はあもう、クーラーつけよか」

ぴしゃり。
ごーーーーーーー

「なんや、クーラーはええけど、これこそ風情も何もあらへん」
「ぐるぐるぐる」
「タマ、お前はええなあ。何も考えんと、ぼけーって寝とればええんやもんなあ」
「みゃ?」
「毎月出してる俳句の投稿、明日が締め切りやねん。わし何も思いつかへん」
「...あふ」
「なんや欠伸かいな。なあ、お前も考えたってや」
「...」
「...あかん寝てもうた。ああもう、どないしょ」

ごーーーーーーーー

「...ん? ああ、せや猫や!」

どたたたた

「ええっと季語辞典っと...ねこ、ねこ、ねこ....」

ぱらぱら

「...んむむ、あかん。夏に猫はないわ。そらそうやなあ、あんな暑っ苦しいもん...」

ぱらぱら

「猫の恋。これは初春か...」

  *   *   *   *   *

麦飯に やつるる恋か 猫の妻  芭蕉

  *   *   *   *   *

「はあっ、ええなあ、ええ句や。うんうん。ほかにないか?」

  *   *   *   *   *

なの花に まぶれて来たり 猫の恋  一茶

  *   *   *   *   *

「くわああああ、ええっ! ええなあああ。さすがやなあ。なんでわし春に猫で句作らんかったんやろ...。ん? ああ、そうか、炬燵に猫か...これは冬やな」

  *   *   *   *   *

猫老て 鼠もとらず 置火燵  子規
 
  *   *   *   *   *

「うううううう、これまた、ええっ!! なあおいタマ、こら、聞いとるか?」
「...」
「まだ寝てるやないかい。なんぼ寝たら気が済むねんお前は。ああ~、何かないか何か」

ごーーーーーーーーーーー

「...せやけどなあ、こんなマンションの一室で、エアコンつけて、風情感じろちゅうのがどだい無理な話や」

ごーーーーーーーーーーー

「あ、せや。風鈴どっかにあったな....」

がさごそ

「ああ、あったあった。これでも付ければ、ちっとは気分が出るやろ」

...ちりん、ちりりりりん

「これや。うんうん。眼を閉じれば、それなりに風情が...」

「うきゃっ」

ぢりりんばたんどたんどすん

「あ、こらタマ! 何すんねん!!」

ちりんがちゃんどたん

「ちょ、待ちいや、これはお前がじゃれるもんとちゃうねん! ...ああああ、あかんわ。短冊みたいんところが、がじがじになってもうた」
「みゃーう」
「せやから違う言うてるやろ! せっかく、お前、ええ感じになってきたちゅうのに...」
「みゃう」
「こら手ぇ出すなって」

ちりりん

「む?」
「みゃうん」

ちりりりりん

「そうか...そうか! タマ、でかした!!」

がさがさ。

「ええと...ん...むむ、よし、できた!」

べべん。

  *   *   *   *   *

猫の手も 風鈴鳴らす 窓辺かな  ○○

  *   *   *   *   *

「どや! 夏らしいやろ。なあタマ」
「...」
「何や不満かい。メシか? さっき食べたやろ」

ぷいっ。

「ああ行ってもうた。ちょっと待っときや、あと二つ作らなあかんねん」

ぱたた。ぱたたたた。

「何やねんもう。そんな尻尾で床叩いて。生暖かい風が来るやないかい」
「むーう」
「そんな風...風? ちょ、ちょっと待ち...おお、できた!」

がさがさ。

「ええ....ほい...こ、れ、で、どや!」

べべん。

  *   *   *   *   *

猫の尾で 仰ぐ夏風 心地よし  ○○

  *   *   *   *   *

「わはははは、出来たできた。ほんまに心地ええかわからんけどな。わはははははは、なあタマ」
「...」
「...そんな眼で見んといてや。なあ、別に茶化してる訳やないねん。お前のお陰で二つも出来て感謝してんねんほんま」
「むーやぁーう」
「わかったわかった。今メシやるから。ほい、どっこらせ」
「みゃっ」
「...まだけっこう残ってるやんか。これ食べてんか」
「みゃーう、みゃーう」
「何どしたん。あ、あああ、すまんな。水がもう無かったんか」

じゃーーーーーー

「うきゃん」
「わ、こら、流しまで登って来んでもええねん。下で待っとき」
「みゃうー」

べろべろべろべろべろ

「ああああああ、蛇口から直接飲みよった。そんなに喉乾いてたんかいな」

べろべろべろべろべろ

「...ん? おお、またできた! すごいなタマ」

がさがさ。

「っと...んで...ほい、ほいと! やった!!」

べべん。

  *   *   *   *   *

灼くる午後 蛇口に集る 猫二匹  ○○

  *   *   *   *   *

「どや! タマ、お前だけじゃ物足りんから、も一匹付けといたで。わははははは、わしって天才ちゃうか。わははははは」
「...」
「何やその眼は。そんな不満そうにせんでもええやんか」
「みゃわーう」
「ああわかった、わかった! お前のおかげや。なあ。何か買うたるさかい。何がええのん?」
「みゃん」
「この毛玉ケアのフードか?」
「...」
「ネズミのおもちゃか?」
「...」
「なまり節か?」
「みゃ~ん」
「さよか。はあ。ほなら、行ってくるで。あ、クーラーは消していこか」

ぽちっ

「さて、と...」
「みゃん!」

ぽちっ
ごーーーーーーーー

「...点けるんかいな...。まあええわ。おとなしく待ってるんやで」
「みゃーん」
「行ってきます~」

ばたむ。


おしまい





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