第十六話 くろねこちゃん(5歳 男) | ねこバナ。

第十六話 くろねこちゃん(5歳 男)

おとなりにひっこしてきた おねえさんは くろいねこちゃんを かってたよ
ぼくは ときどき ベランダからやってくる ねこちゃんを なでてあげたけど おかあさんは

「ねこをさわっちゃだめ」

って いうんだ
だから あんまりたくさんは あそべなかったんだ
でも、きれいな めをしていて つやつやひかる くろい けが とてもすてきだと ぼくは おもってたんだ

となりの おねえさんは すぐ ひっこしちゃったんだ
でも ねこちゃんは たまに あそびに きてたんだ
おねえさんと いっしょに ひっこさなかったのかな
どうして おねえさんは ねこちゃんを つれていって あげなかったのかな

  *   *   *   *   *

あるひ ぼくが ベランダで おはなに おみずを あげていると くろねこちゃんが やってきた
そして おおきな うえきばちの かげに かくれると そのまま ねころがって うごかなくなっちゃった
せなかを なでてあげたけど めを すこしあけるだけ
ぼくは しばらく そのまま みていたけど ねこちゃんは ぜんぜん うごかない
どうしたのかな ねちゃったのかな
そうっとなでてあげたけど こんどは めも あけない
ゆすってみても うごかない

もしかして
しんじゃったのかな

「おかあさん」

ぼくは おかあさんを よぼうと おもった
でも おかあさんは ねこ が きらい
ぜったい びっくりして おおさわぎに なるに きまってる
ねこちゃんを どこかに すてちゃうかもしれない

もういっかい ねこちゃんを ゆすってみた
でもやっぱり うごかない

しんじゃったんだ

どうしよう
ぼくは どきどきした

そうだ おはかを つくってあげなきゃ
かぶとむしが しんだときも おはかを こうえんのすみっこに つくってあげた
ねこちゃんにも おはかを つくらなきゃ

でも おかあさんに みつかったら おこられる

どうしよう

おかあさんは じぶんのへやで おともだちに ふく を みせている
いろいろ おはなし しているみたいだ

ぼくは じぶんの へやに いって ねこちゃんを いれる ふくろを さがした
プールにいくときに つかう ビニールの とうめいな バッグが あった
それと、タオルも
ぼくは バッグとタオルをもって ベランダにいった

ねこちゃんを もちあげるのは こわかった
ねこちゃんは おもくて やわらかかった ぼくは

「ごめんね ねこちゃん ごめんね」

と なんども いった
ぼくは ねこちゃんを ひっぱって バッグの なかに いれた そして そとから みえないように タオルを かけてあげた

バッグをもって げんかんまで いって かばんを おいて それから おかあさんのところに いった

「あのね おかあさん こうえんに いってきても いい?」
「え? どうしたの?」

おかあさんは すこし びっくりしていた ぼくが おそとにでたいって いうのが めずらしいからだ

「いってきても いい?」

ぼくは もういちど きいた
おかあさんは おともだちと おしゃべりしたかったので

「うん、いいわよ。でもすぐもどってらっしゃい」

と いった
ぼくは いそいで おそとにでた ねこちゃんをもって

  *   *   *   *   *

マンションの すぐまえの こうえんには たくさんのひとがいた
どうしようかな かぶとむしの おはかなら すぐ ほれるけど ねこちゃんのおはかは すこし ほるのが たいへんだ
それに おかあさんみたいに ねこが きらいな ひとが いたら おおさわぎに なるかもしれない

どうしよう

ぼくは おとうさんと いった かせんじきを おもいだした
こうえんのまえの みちを ずっと あるいていったところに おおきな かわが あって そこには ひろい やきゅうじょうが あった
おとうさんは そこを かせんじきって よんでいた
そこにいけば ねこちゃんの おはかが つくれる
ぼくは いえのまえに もどって すなあそびに つかう スコップを もった そして ねこちゃんの おはかを つくりに かせんじきに むかった

  *   *   *   *   *

かせんじきは とおかった
ねこちゃんは おもいし あしは いたくなるし あせも いっぱい かいた
とちゅうで なんども やすんだけど がんばって かせんじきまで やってきて かいだんを のぼった
かいだんを のぼったら ながい みちが あって くさが いっぱいはえた さかが あって そのむこうには やきゅうじょうが あった おじちゃんたちが やきゅうを していた
ぼくは さかを おりた ところに あなを ほって ねこちゃんの おはかを つくろうと おもった

ねこちゃんと スコップを もって さかを すこし おおりたけど くさを ふんづけて あしが すべって ころんじゃった
ごろごろ ころがって したまで おちちゃった
ひざを すこし すりむいた いたかったけど なかなかったよ
ねこちゃんは バッグから すこしはみでちゃったので なかに もどしてあげようと おもったら かたくなってた

ぼくは スコップで あなを ほった
でも、スコップは ちいさくて くさは かたくて いっしょうけんめい やっても すこしも ほれない

あせが いっぱい でてきた のども かわいた
すりむいた ひざも いたく なってきた

だんだん くらくなってきた
つかれた

ぼくは

「う...うっう...うううう」

ないちゃった

「ううううう、うーーーうううう」

「うーうううう、うええ、うええええええ」


そうしたら

「おい、ぼうず、どうした」

まっくろな かおをして やきゅうの ぼうしを かぶった おじちゃんが やってきた

「ちょっとタイムな!」

おじちゃんは ボールを なげて ぼくの そばに やってきた

「どうしたんだ、こんなところに、ひとりで」
「うーーうううう」
「うーうじゃわかんねえよ。な、はなしてみろ」

ぼくは、おじちゃんに はなそうと したけど うまく はなせない

「うーう、ひっ、ね、ねこ、ひっ、ねこちゃん」
「あ? なに? ねこがどうした?」
「ねこちゃんの、う、ひっ、お、おはか」
「おはか?」
「ほれない、ひっ、ほれない、ううう」
「ほれないって...。ああ、これでか」

おじちゃんは ぼくの ちいさい スコップを つかんで いった

「これじゃあむりだろ。ねこのおはかか。どれ、ねこはどこにいるんだ?」
「これ、ひっく、これ」
「ああ、これか.....うん?」

おじちゃんは きゅうに だまって ねこちゃんを じっと みていた

「...おいぼうず、おまえ、どこからきたんだ?」
「あっち」
「あっちじゃわからん。どうやってここまできたんだ?」
「ひっ、ま、マンションの、まえの、こうえんの、まえの、みちを、ずっとまっすぐ」
「みちをまっすぐ...」
「そこのかいだん、ひっ、のぼって、きた」
「ああ...そうか...やっぱりそうか...」

おじちゃんは しばらく ねこちゃんを みていた ねこちゃんの あたまを すこし なでた
そして たちあがって いった

「よし、すこしまってろ。もっとちゃんとしたあなを ほってやるからな」

おじちゃんは そういって はしって どこかへ いった
すこしたって おじちゃんは おおきなスコップと ストローのついた おおきないれものを もってきた

「ほら、これのめ。あせびっしょりじゃねえか。のどがかわいたろ」

そういって おじちゃんは ぼくのかおを タオルでふいて おおきないれものを ぼくに くれた
おじちゃんがくれた いれものの ストローを すうと つめたくて あまくて すっぱい おみずが でてきた ぼくは いっぱい おみずを のんだ
おじちゃんは おおきなスコップで あっというまに おおきなあなを ほった

「これでいいか?」
「うん」

ぼくは かたくなった ねこちゃんを あなのなかに いれた
おじちゃんは すぐそばにさいていた しろい ちいさな はなを ねこちゃんのそばに いれた
そして てをあわせて おいのりをした
ぼくも いっしょに おいのりをした

「なあぼうず」

おじちゃんは ぼくにいった

「このねこ、おまえんちのちかくにいたんだろ」
「うん、おとなりの、おねえさんの、おうちにいたの」
「そうか、となりだったのか」
「おじちゃん、このねこ、しってるの?」
「おじちゃんじゃねえよ、おにいさんだろ」

おじちゃんはそういって わらった

「しってるよ。いっしょにすんでたこともあるぞ」
「なかよしだった?」
「そう...そうだな、なかよしだったな」
「なまえは、なんていうの?」
「なまえ?」
「ねこちゃんのなまえ」
「ああ...。チャック。そう、チャックだ」
「チャック...」

かわいいなまえだと ぼくは おもった
おじちゃんは ねこちゃんをじっとみていた
ぼくもいっしょに ねこちゃんをじっとみていた

「さあ、もういいか、つちをかけるぞ」
「うん」

おおきなスコップで おじちゃんは ねこちゃんのうえに つちをかけた そして そのつちのうえに また しろいはなをもってきて おいた

「ねえ」

ぼくは おじちゃんに きいた

「なんで、ねこちゃん、しんじゃったの?」
「びょうきだったんだよ、こいつ」
「びょうき?」
「ああ。もうたすからないって、いわれてたんだ」
「そうなんだ」
「だから、ゆっくりさせてあげれば、よかったのにな」
「ねえ、なんでおねえさんは、ねこちゃん、つれていってあげなかったの?」
「...さあなあ、おれには......わかんねえな」

おじちゃんは とても かなしそうだった

「おお、ぼうず、あし、すりむいてるじゃねえか。だいじょうぶか?」

ぼくは あしをすりむいたことを わすれていた

「うん、もういたくないから」
「そうか。じゃあ」

おじちゃんは タオルで すりむいたところを はらって つばをつけた

「いえにかえったら、ちゃんとてあてしてもらえ」
「うん」
「ひとりでかえれるか?」
「うん、だいじょうぶ、まっすぐだから」
「そうか」

「どうもありがとう」
ぼくは おじちゃんに おれいをいった
「ああ、おれも、ありがとう」
おじちゃんも ぼくに おれいをいった
「きをつけてかえれよ」
「うん」
「またな」
「うん」

ぼくは おうちに いそいで かえった

  *   *   *   *   *

つかれていたけど ぼくは はしってかえった
バッグもスコップもタオルも おはかのちかくに わすれていたけど ぼくは はしってかえった
こうえんが みえた ねこちゃんをもって かせんじきに いくより かえりのほうが ずっと ちかいと おもった

おかあさんが ぼくを よぶ こえが きこえた しんぱい して いるのかな
おかあさんは ねこ きらいだけど きょうの はなしは ぜんぶ してあげよう

そして ねこちゃんの おはかに また いこう
こんどは おうちの おはなを もっていこう


おしまい

第七十八話 俺とあいつとチャック(28歳 男 会社員)もどうぞ







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