あいのうた第四話「ついに嘘がバレちゃった!?」 | 私でもいいですか?

あいのうた第四話「ついに嘘がバレちゃった!?」

「愛ちゃ・・・・,愛ちゃんのままでいいんじゃないかな。」
「・・・・」片岡(玉置浩二)の顔を見る洋子(菅野美穂)。
「だから、家に居なよ。愛ちゃんいると,楽しいし。」
「私が?楽しい?」
「うん。」片岡の優しさに包まれて,変わりつつある?洋子。
「良かったね、愛ちゃん」遠くから二人を見つめる房子(和久井映見)

その頃,墨田警察署では、取調中の容疑者から,押収した財布の中に,洋子の免許証が入っているのを柳沼(成宮寛貴)が見つけた。
「松田洋子・・・・」
柳沼が松田洋子の財布を持っていた男を問い詰めると
犯人の男は、「俺の目の前でゴミ箱に捨てたんだ。女がね。だから、窃盗犯にはならないでしょ?」と言った。考え込む、柳沼。

房子は『竃』に行くなりため息。思わず、店員が「どうしたんですか?」
「感動したんだ、私は。そしたらね、お腹が空いちゃったわけ。何にしようかなー。」
房子は店主の勧めで店の自慢・おこげ定食を注文する。

そこへ片岡が洋子、大(佐藤和也)、亜希(山内菜々)、隼(渡邉奏人)と一緒に店にやって来る。
ai1 「あー、おこげあったけど、もうないよ。」
「へっ?」大が言う。
「なんだよ、それ?」片岡が言う。
「いいのいいの、子供たちにはあげるからね。」
「あのー、えーっと、えーっとえーっと、愛ちゃん?」洋子を呼ぶ房子。
「なんですか!?」
「良かったね。」
「はっ?何が?」
「んー!よかったよかった!」
房子は片岡がやったように、洋子の頭を撫で回す。見てたのって言う顔の洋子。

房子が注文したおこげ定食。
「何これ!焦げてんじゃん!こんなの美味しいの!?」と驚く洋子。
「知らないのかい、愛ちゃん。」片岡が聞く。
「もしかして食べたことないの?じゃない、食べた記憶がないっていうか、ない気がするの?」と房子。
「えぇ。あぁ、そう。そうだけど!」
「愛ちゃんも食べる?」
「いらない!」

その頃、柳沼は前科者リストで『松田洋子』という名前を検索していた。
該当者なし、にほっとする柳沼。
「松田洋子。なんかイメージ違うなー。」柳沼がいう。
そこへ飯塚(小日向文世)が戻ってきた。
「飯塚さん、実は・・・・」
「どうした?なんかあった?」
「有りました。あの・・・・、どうしようかな・・・」
柳沼は洋子のことを報告しようとして止める。
「あのさ、柳沼君。俺はさ、普段、こう、ダメな感じかもしれないけど、一応男としても、警察官としても、先輩だからさ、何でも言ってごらん。ん?」
「あ、いや、そういうことじゃなくって・・・。あの・・・本当に失礼だし、本当に申し訳ないんですけど、」
「は?だから何でも言ってごらんって。」
「やっぱり、一番最初に報告するのが飯塚さんっていうのは、自分的に、どうしても、納得できなくて・・・。すいません!」
「はい!?」
「行きましょうか。あの・・・みんなのところで・・・。」飯塚さん、ちょっと可哀想。

房子からおこげを貰い、子供達は大喜び。
「もう、素直じゃないんだから。」房子が洋子に言う。
「食べてご覧よ、愛ちゃん。」と片岡も勧めるが、洋子はそっぽを向く。
「はい。食べなさい!」亜希が自分の茶碗を洋子に渡す。
「・・・どうも。」
洋子はそれを一口。みんなが洋子を見つめる。
洋子がみんなの方を見ると慌てて視線をそらす一同。
洋子、二口目を頬張る。笑顔がこぼれる洋子。
みんなの視線に気付き、慌てて真顔になる洋子。
「・・・はぁ・・・。だから・・・美味しいわよ!」
「だろ?」
一同、拍手!子供達から歓声が上がる。
「良かったね、愛ちゃん。また一つ、幸せを知ったね。」房子が言う。
「はぁ?」
「なんかこうやって見てるとさ、もうすっかり片岡家の一員だね、愛ちゃん。」
「えぇ!?」
「そうか!?」片岡が笑う。
「あ!!」洋子は隼がソースを振っているのに気付く。
何も知らない房子は「何?何?」、他のみんなは慌てて身を隠すが、隼は今度はこぼさなかった。残念。(笑
「なーんだ。」洋子は、笑っている自分に気が付く。
すっかり、片岡家のペースに慣れきっていた。

柳沼と飯塚がやって来た。
「柳沼君、何か話があるんだろう?」飯塚が聞く。
「無いですよ、そんなの。」
「えっ?だって・・・」
柳沼は片岡に言いたかったんだろうけど、洋子の前では言えない話だよね。

日は変わって・・・・
子供達がにぎやかにお絵かきする姿を見つめる洋子。
そこへ優二が紅茶を持ってくる。

『私は、何て穏やかで素敵な時間なんだろうと思っていた。私にもこんな時間が持てるんだ。そう思うと、何だか、悲しくなるぐらい嬉しくて。でも、まだ私は気付いていなかった。この時彼が、どんな思いで家族を見つめていたのかに。』

見つめていた優二と目が合い、洋子が慌てて言う。
「あぁ、あの・・・私、買い物行ってくる!」
「じゃあさあ、みんなで買い物、行くか?」
「ごめん、当分終われない。」大が言う。
「亜希はパス。」
「そっか、そうだよな。」
「じゃあ、に行こうか?」
「は!?」結局二人だけで買い物に行くことになった。

買い物帰り、コロッケを食べながら商店街を歩く二人。
「美味しい!」
「あいつらも一緒に来ればさ、食べられたのになー。まぁでも、子供らってあんなもんだよな。いつまでもお父さんお父さんじゃ困るしね。」

ふと、福引会場が目に入り、優二は洋子に挑戦するように言う。
ai2 「愛ちゃん。」
「え?私?ダメダメ!絶対無理!」
「大丈夫だよ。やってごらんよ。」
「いやほんと、ダメだから。こういうの、絶対当たったことないし。ていうか、当てたいなら止めた方がいい。てかあの、なんかそんな気がする・・・っていうか。」
必死にごまかす洋子。
そんな洋子を微笑んで見つめる優二。
「まぁもしそうだとしてもさ、人の運なんて変わるんだから。」
「え?」
「ね。やってみよう。やってごらんよ。」
優二に促され、洋子はガラガラを回す。
一回目は白い玉。ハズレだった。
二回目も白い玉。
洋子が無理という表情で優二を見る。
優二は笑顔であと1回、と指を出した。そして、
「じゃあさ、最後は一緒にやってみよう。」
そう言い洋子の手に自分の手を重ねた。洋子は驚いて優二を見る。
「行くぞ。」優二が笑顔で言うと、洋子は頷き、一緒にガラガラを回した。
「せーの!」
何と、出たのは金の玉!
「お、大当たりー!」鐘の音が響き渡る。「出ました、特賞!家族で温泉旅行ご招待!」
優二は洋子を抱きしめて大喜び!

「この時、私は思ったんだー。
 この人と一緒にいれば、私も幸せになれるんじゃないかって。」

帰り道、
「愛ちゃん、結構すごいよ。」渡されたパンプレットを見て、洋子は呆然とする。
行き先は『石和温泉』。洋子の地元だった。
「なんで、よりによって・・・」
「どした、愛ちゃん。」

その頃、柳沼はパソコンで洋子の免許証に記載された住所を調べていた。
「石和町・・・ここにいたのか。彼女は。」

房子の勤めるファミレス・・・・
洋子は房子のもとを訪れる。
ai3 「へー!うっそぉー。温泉当たったの?」
「嘘じゃないわよ。何でそんな嘘つかなきゃいけないの?大体さ、あんたみたいな女は、なんで、えーーー、うっそぉぉ、とか、すぐ言うの?」
「温泉かぁー。」
「聞いてないし。」
「ずいぶん行ってないなー。最後に行ったのいつだっけなぁ。・・・。あ・・・ちっ・・・」
「はぁ?ちょっとなに思い出してニヤニヤしてんのよ。やらしい!」
「だって思い出しちゃったんだもーん。」
「あのね。」
「聞きたい?最後に行った温泉の話。」
「聞きたくない。」
房子はそう言う洋子に構わず耳打ちする。
「はっ!うそ!!」
「あー。嘘って言った。愛ちゃんも!」

房子が続ける・・・・・
「でもすごいよねー。温泉当てちゃうなんて。
 私なんか、当てたことないけどなー。」
「そりゃ、そうなのよ。でもね、ほら、ちょっと問題が。場所なのよ、場所。」洋子はそう言いパンフレットを房子に差し出す。
「石和温泉?でもそれはしょうがないよ。福引なんだしさー。」
「あいや、うん。それは、わかってるっていうか、そうなんだけど。」
「いついくの?」
「二日と三日。」
「なるほど。」
「てかね、その、私これ・・・よくこれイサワって読め、」
顔を上げると房子がいない。
店長に「二日と三日」とお願いしている!
「OK!」洋子に親指を立てる房子。
「ちょっと!何スケジュール調整してるの?一緒に行くつもり?」
「うん!」
「うんって・・・」
「嫌?」
「嫌とかじゃなくてさ、あの、」
「わかった!恥ずかしいんだ、温泉一緒に入るの。いるよねー。修学旅行とか近づくとさー、急にブルーになっちゃう子って。見られたくないの?自信ないんだ。」房子が洋子の体を指差して言う。
「違うよ!」
「あるんだ!自信!」
「だからそうじゃなくって!」
そこに飯塚が現れ、会話は中断。
「どうも。私、帰るわ。じゃあね。」洋子は店を出ていく。

橋の上で洋子は一人呟く。
「どうすればいいのよー。行って誰かに会ったらバレちゃうかもしれないし。でも今更行かないとは言えないし。ていうか、私だって行きたくないワケじゃないかだし!もうそういう話をしたかったのにぃ!」
振り返ると、園児達が洋子を不思議そうに見つめていた。

その頃優二は牧野秀子(岸田今日子)の診察室にいた。
注射針に顔をゆがめながら、温泉の話を報告する。
「へーすごいじゃない。」
「でしょう、なかなか、当たんないよね。」
「うーん、私なんか、一回も当たったことない。福引とか宝くじなんて。本当に当たりってあるんだ!」
「うん。ひょっとしてさ、愛ちゃん家に幸せ運んできてくれたのかな。」
「天使かしら。」
「うん。その割りになさ、ちょっといっつもこう、ブーっとばっかしてるんだけどね。」
「そうなんだ。」片岡の話に牧野も笑い出す。
「あー。楽しみだなー。喜ぶだろうなー。あいつら。どっこも連れていってあげてないしさ。まぁそれでも文句言わないんだけどね。やっぱりさー、ちょっとでもこう、俺がいなくなった後のことを考えてさ、蓄えを残しておきたいなって、思ってるとこあってさ。結構ケチケチしてたんだよね。」
「うん。」
「でもさ、そればっかじゃさ。やっぱ、思いでもいっぱい残したいしさ。こんな時にさ、家族で温泉旅行当てちゃうんだもの。愛ちゃんやっぱり天使かもね!」
「でも、あんまりはしゃいで、無理しちゃだめよ。」
「あー、それ自信ないなー。」優二が笑う。
「真面目に言ってるのよ、私は。」
「はい。」優二が笑顔で返事した。

海岸で、自分の手を見つめる洋子。
ai4 がらがらで片岡の手が自分の手に重ねられた時のこと、
温泉旅行を当てたとき、喜び抱きついてくる片岡のことを思い浮かべる。
そして今度は温泉旅行のパンフレットを見つめる。
「はぁ・・・うーーん!最悪!!」洋子は一人悩んでいた。


婦人警官の浜中ももこ(佐藤寛子)は柳沼の姿に気づき足を止める。
柳沼が気が付くと、少し恥ずかしそうに会釈した。
「あの・・ねぇ!」柳沼が呼び止めると
「私ですか!?はい!!」ももこがうれしそうに駆け寄る。
「君はさ、・・・死にたいって思ったことはある?」
「え?」
「女の子はさ、どんな時に死にたいって思うのかなーと思ってさ。失恋・・・とか?お金の問題・・・とか?」
「そういうのもあるかもしれないけど、それはどっちも頑張ればなんとかなるかもしれないじゃないですか。そういうことじゃないと思います。」
「じゃあ、何?」
「頑張っても、どうにもならないっていうのかな。何だろう。生きてたって意味あんのかなーって力抜けちゃう時、思うんじゃないんですかね。死にたいっていう強い気持ちっていうよりは、なんか、消えちゃいたいなーって。」

憧れの柳沼と会話が出来て幸せな気持ちいっぱいのともこ。
飯塚に、柳沼を知らないかと聞かれても、目を閉じたまま
「ごめんなさい。今この幸せな残存に余計なもの入れたくないんで。
 失礼します。」
「・・・余計なもの?どういう意味ー?わかんないんだけどー。」

柳沼を見つけた飯塚。
「こんなところにいたんだー。何?どうしたの。この間からさ、何かあるんだろ? 頼むよー。中途半端で気になってしょうがないからさー。」
「調べてみます。少し。」
「何を?」
「その上で、どうするか決めようと思います。じゃあ。」
「・・・だからわっかんないって全然!!」

洋子が家に戻ると、子供達は温泉旅行の荷造りに大騒ぎ。
優二が嬉しそうに子供たちを見つめている。
「どうしよう・・・。」頭を抱える洋子。
「愛ちゃん!本当にありがとう!愛ちゃんのお陰だよ。」
優二が洋子に声をかける。
「いや・・・あのちょっと・・・そのことなんだけど・・・、あのやっぱり私、パスしようかと、」
振り返ると優二はいなかった。
「どうしようーーー!!!」と悩む洋子。

電車に揺られてやってきた片岡たち。
ai5 バスの本数を見て、少しその辺をプラプラしようか、と言い出す優二に、
「ダメダメ!絶対ダメ!だって、ほら・・・なんにもなさそうだし。」
前方から二人連れの女性が歩いてくる。
それは、洋子の手相を見て「生命線がない。すぐに死ぬよ。こんな不幸な人見た事ない。世界一かも。」と言った
元クラスメートだ!
洋子は思わずニット帽を目深にかぶり顔を隠す。
「どうした?愛ちゃん。」優二に言われ、
「ガオー!コラァー!」と子供達に怪獣の振りをしてごまかした。

バスに乗り旅館へ向かう一同。
「うわぁ、キレイな川だなー。これ、何ていう川?」片岡が言う。
座席に身を沈めるように座る洋子は小声で亜希の耳元にささやく。
「笛吹川。」
「笛吹川だって!」
「よく知ってんなー、亜希!」
「うん!」

温泉旅館につくと、従業員たちが横に並んで出迎える。
洋子は優二の背中に身を隠していた。

部屋に案内され、ほっと一息する洋子。
その頃、柳沼は別件で石和温泉駅に到着。
房子は飯塚の運転する車で温泉旅館へ向かっていた。

温泉につかり、ほっと一息つく洋子と亜希。
女性が亜希に可愛いねーと、声をかけた。
「あんたさー。自分が可愛いって思ってるでしょう。」
「うん!亜希は可愛いよー。」
「かぁー!おまえなぁ、それだけじゃ人生生きていけねぇんだぞぉ。」
「だってお母さん、ずっと、毎日毎日、亜希は可愛いねー。亜希は可愛いねーって、言ってたもん。」
「え?」
「だから、亜希は可愛いの。」
「・・・うん。なるほど。いいお母さんじゃん。」
洋子はこんな言葉を母親にかけてもらったこともないのでしょうね。

男湯から片岡たちのはしゃぐ声が聞こえる。
「はぁ・・・男は子供だね。」
亜希の言葉に洋子も驚く。

柳沼は、洋子のことを町の人に聞いて回っていた。
「いたっけ、そんな子?覚えてないなー。」
「あぁ!いたいた!洋子ちゃんでしょう?」
「はい」
「あんまり覚えてないんだけど、確か、陰気な子だったよ。」
「えっ?」

「確かに働いてもらったけど、2日で辞めてもらった。」
「どうしてですか?」
「だってさ、なんか暗いっていうかさ、愛想ゼロだしさ。なんかあの子がいるとそれだけで店の中がドヨ~ンってするんだよね。客も怒るしさ。何だあの女はってさ。だから・・・」

柳沼は洋子の友人(手相を見た二人組)にも話を聞く。
「洋子、洋子・・・あ、洋子ね。松田洋子。」
「あ、いた、いた。」
「どんなこでした?」
「死んじゃったんじゃなかったっけ?」
「そうそう。確か高校のときに死んだんだよね。」
「何言ってんですか!死んでませんよ!」柳沼が二人に言う。

飯塚と房子が旅館で合流する。
「あ!!こんな所にいた。」大声を上げて房子が洋子に駆け寄り、ほっぺたに触れる。
「な、なに!?」
「ツルツルだ。ズルイ!!」
「は!?」

部屋に夕食が運ばれる。
ai6 豪華な食事にみんなは拍手して、喜ぶ。洋子も思わず手が動く。
洋子は刺身の船盛りを見て、幼い頃の辛い思い出が蘇る。


母・葵 (芳本美代子)がペアで豪華温泉旅行が当たったと洋子にパンフレットを見せる。洋子が嬉ai7 しそうにパンフレットを見つめると、
「頼むね!お・る・す・ば・ん!」
葵は自分とではなく、男と行ってしまった。
そして留守番の日、洋子は、パンフレットを真似て作った船・洋子丸に
タクワン、魚肉ソーセージ、竹輪、キュウリ等を並べ、パンダのぬいぐるみを前に一人寂しく食べたのだった。


「良かったね、愛ちゃん。」隣に座る房子の言葉に
「うん。」と思わず頷く洋子。我に返り、
「は?何が?」と言うと、房子が意味深な笑いを浮かべる。
「すみませーん。この人の隣り、嫌なんですけどー。」
「なんでー。いいのかなー。そういうこと言って。」
亜希はタイの御頭を持ち上げ、
「これ、飯塚のおじちゃんに似てるー!」
「え?似てないだろ?」
「ほんとだ。」房子が似てる似てる!と喜ぶと、
「そうだね。似てるねー。」と飯塚も笑った。
亜希の手から御頭が落ちる。
「あ、死んだ!」と隼。
「もとから死んでるんだって。」と大。
子供達の会話に、
「俺って、そういうポジション?」
「まぁいいじゃないか。ま、飲め飲め。」片岡がビールを注ぐ。
そんな様子に、洋子も楽しそうに笑っていた。

その時、旅館の女将が挨拶にやって来た。
洋子はその姿に驚く。
「愛ちゃん・・・。」

小学生の頃、自分の名前の由来を発表した『愛ちゃん』だった。

飯塚はテレビの美人女将特集で見たことがある、と気付く。
「あれ、ねえ、この間、テレビ、出てなかった?」
「はい。」
「そうだよね。美人女将特集。ねえ、そうだー。人気第一位だったよね。」
「お恥ずかしいです。」
「「この家の娘さん?」飯塚が尋ねる。
「いえ。主人が旅館のチェーン会社を経営しておりまして、この町は私が生まれ育った場所なんですが、ここにも旅館を作ることになりまして。」
「へ~。で、女将をやっていると。」
「はい。軌道に乗るまではと思いまして。」
「へ~。なるほどねー。じゃ、社長夫人でもあるわけだ。すごいねー。」
房子が、そして優二が、洋子の様子が変なことと気付く。
「どうした?愛ちゃん。」片岡が聞く。
「あっ?いや、別に。」
「あ、愛さんっておっしゃるんですか?私も同じ愛なんです。愛情の愛ですか?」満面の笑顔で女将が洋子に聞く。
「うん。そうそうそうそう!愛情の愛。いい名前だよね、愛ちゃん。」片岡が変わりに答える。
「はい。ありがとうございます。みんなに愛されるっていう意味なんですよ、ね。」
愛は洋子にそう言い、部屋を出ていった。

同級生に手相のことで苛められたあと、愛が洋子に声をかけていた。
「洋子ちゃん。大丈夫?気にしちゃダメだよ、あんなの。ね。私が付いてるから。ずーっと友達だからね。」愛の優しさに、洋子は笑顔で頷いた。
でも、その愛は全然洋子の事を覚えてはいなかった。

そのことを思い、洋子は愛をロビーで待ち伏せ、声をかけてみた。
「あ・・・あの。」
「はい。どうされました?」
「いえあの・・・、さっき、この町の出身だっていってましたよね。」
「はい。」
「いやあの・・・あ、私の友達にもこの町の子がいて、松田洋子っていうんですけど、知りません?」
「松田洋子・・・」
愛が考える姿をじっと見つめて待つ洋子。
「・・・ごめんなさい。私の同級生とかではないと思います。」
「え?・・・いや、あん、・・・ああ・・・」
「申し訳ありません。」
「・・・お幸せに。」
そう言って、窓際に行き、泣きそうな気持ちをぐっと抑えた。

子供達が飯塚や房子と一緒に神経衰弱する姿を見つめる片岡。
部屋に洋子も戻ってきた。
「来て良かったな・・・。」
片岡が切なそうな表情で一人そっと呟く。
そして今度は笑顔で大きな声で、
「来て良かった!な、お前達!忘れんなよ。今日のこと、忘れんなよ!」
「はーーーい!!」
子供達が、そして房子と飯塚が笑顔でそう答えた。
「忘れんなよ。愛してるぞ。愛してるぞ。」
優二は笑顔でそう言い子供達を抱きしめた。
ai8 「ハハハ。忘れるよ、そんなの。」
「・・・・・」一同、声が出ない。
「覚えちゃいないって、そんなの。」
「どうした?酔った?愛ちゃん。」片岡が聞く。
「酔ってない。何なの?一体。なーにが愛よ。なーにが忘れるなだ。ばかじゃねーの。」
「ちょっとー愛ちゃん。」房子がたしなめる。
「やっぱ、酔ったかな、愛ちゃん。」と片岡も言う。
「・・・愛ちゃんじゃないよ、私は。愛ちゃんっていうのはさ、さっきみたいな、ああいう人だよ。私は違う。違うから。わかったの?何が愛よ。冗談じゃないわよ。」
「愛は大切だろう。」と片岡が言う。
「うぇっ。あーやだやだもう!ほんっとやだ!」立ち上がって、さらに、
「何が愛が大切よ。そういうこと言う人だってさ、本当はわかってんじゃないの?人はね、結局一人なのよ!愛なんてインチキだよ、まやかし!あると思いたいだけなんでしょう!?」
みんなが驚いて洋子を見つめる。
片岡は愛の前に来て、
「そんなことないよ、愛ちゃん。そんなことない!」
片岡の真剣な表情に戸惑う洋子。
房子は洋子の耳を掴む。
「痛てててて。何すんのよ。」
「いいから、おいで。」部屋から引っ張り出した。
「もうちょっとなんなの!」洋子が文句を言う。
「お風呂入るよ!」
「もう入ったよ。」
「何言ってんの?9時になったら入れ替わるんだよ、男湯と女湯。見なかった?違うのにも入りたいじゃん。」
「はぁ!?」
「さ、行くよ!」房子はそう言い、再び洋子の耳を掴んで引っ張った。

「へ~。あの人がオリジナルの愛ちゃんだったんだー。」
ai9 「そ。みんなから愛される愛ちゃん。でもさ、思い出しもしなかったね、私の顔を見ても。ていうか、記憶から消えてるよ。まぁまぁ、私なんてその程度の存在だったってことだよね。」
「でもさー、何でさー、ここの温泉マズイって言わなかったの?私に。」
「へ?それは、あんたが暴走するからでしょう。人の話全く聞かないし。」
「あ、そっか!ごめんね!」両手を合わせて謝る房子。
「いやそんなだって、謝ることはないけど。」
「そっか・・・そうだね。はーあ。そっかぁ。それでいじけちゃったんだ。せっかく楽しかったのにねー、愛ちゃん。すんごい楽しかったよね、ご機嫌だったもんね。」
「うるさいな。」
「認めなさい。」
「・・・楽しかったよ。」
「うん。イイコだ。」洋子の頭を両手でイイコイイコする房子。
「だからそれ!止めてってば。」
「このまま、いたいんでしょ?あの家に。愛ちゃんのまま、いたいんでしょう?」
「・・・・」洋子が小さく頷く。
「そうか。・・・でも言い過ぎ。」
「え?」
「言いすぎだよ、片岡さんに。わかってるでしょ?自分でも。」
「・・・・」洋子がまた頷いた。
「反省しなさい、反省。」
「・・・」
「わかった?」
「・・・わかったよ。」
「え?」
「わかりました!反省します!」
「よし、じゃ、そこで、反省のポーズ!」
「え?」
房子が反省のポーズを催促すると、洋子はそっぽを向いた。
「今いい友達がいて嬉しいなーって思ったけど、恥ずかしいからそっぽ向いたでしょう!?」
「もう・・あんたのそういうとこ、本当にむかつく!」
「エヘ。テレ屋さん!」
「ちょっとこっち来ないで。シッシ。」
「認めなさい!」
「ヤーダ!」

子供達が寝静まったあと、飯塚が優二に尋ねる。
「お前さ、何か、あった?」
「何で?何もないよ。」
「ならいいんだけどさ、何か、困ったこととかあったら言えよな、俺に。頼りにはならないかもしれないけど、友達なんだからさ。な?」
「ありがとう。」
飯塚がトイレに行き一人になると、優二は子供達のそばに近づき、寝顔を見つめて、
「忘れんなよ。楽しかったよな・・・。」と言った。

柳沼は、人から聞いた洋子の話を思い出しながら一人飲んでいた。
携帯を確認すると、飯塚から石和温泉にいるとメッセージが残っていた。

洋子たちの泊まっているホテル・・・
房子が目覚めると、隣に寝ていたはずの洋子がいない。
『ちょっと散歩してきます』とメモが残されていた。

洋子が向かった先は、子供の頃に住んでいたアパート。
幼い頃の自分が蘇ってくる。
そのアパートを見上げる柳沼を見つけ、帽子を深くかぶり直す。
柳沼は暫くアパートを見つめたあと、帰っていった。
「バレちゃったか。なーんだ。もう愛ちゃんもおしまいか・・・。」
洋子はそう言い、少し笑みを浮かべた。

一人歩いていると、川の向こう側に片岡の姿を見つけた。
ai10
何か、考え込んでいるように見える片岡。
片岡は洋子に気が付くと、いつもの笑顔で「おはよう、愛ちゃん!」と
大声で声をかけてきた。
「あのぉ!」
「どうしたー!?」
「ごめんなさい、昨日。あの・・・言い過ぎた。」
「酔っ払ーい!」片岡が笑う。
「覚えていると思う。」
「え?」
「昨日のこと、あの子たち、忘れないと思う。ずっと。そう思う。思います!」
「ありがとー!ありがとう、愛ちゃん!」
「私も・・・忘れない。ずっと。」洋子が言う。
「えー!?」
洋子は笑顔で首を横にふる。
そして、片岡の微笑みに頷いた。
「愛ちゃーん!」
「はい?」
「君はいい子だよ。素敵な子だ、君は!不器用だけどな、良い子だ。!俺にはわかる!俺がさ、あと20若かったらさ、愛ちゃんに惚れちゃうよ。間違いない、うん!あれ?20じゃ俺が年下になっちゃうか。ハッハッハッハ。」
洋子は片岡の言葉が嬉しくて泣いていた。
「朝風呂入ってこようかなー。」
洋子はそう言い旅館へ歩き出す片岡に、「ありがとう。」と涙を浮かべながら心からそう言った。

旅館へ戻るとした途端、片岡が腹を押さえて立ち止まる。彼の表情が痛みで歪む。
振り返ると、洋子が見ている。
片岡は病気がバレないよう、笑顔で答え、
洋子が見えない場所まで行くと痛みに耐えかねて、その場にうずくまった。
そして痛みに必死に堪え、子供達の待つ旅館へと歩き出した。

洋子の元に駆け寄ってくる柳沼。
ai11 「おはようございます。会いに来ちゃいました。愛さんに。」
そう言い、洋子を抱き寄せた。


故郷へ帰った愛は知り合いに会うのではないかと心配しますが、結局、誰一人覚えている人はいませんでした。ホッとした反面、がっかりしたのではないでしょうか。
出来れば、普通に出会って、冗談を言いたかったんでしょう。
でも、現実は厳しかった。
しかし、逆に温かい人もいる。片岡を筆頭に、子供たち、房子、柳沼、そして飯塚。
みんなに囲まれていれば、きっと少しでも嫌な記憶をどこかにしまっておけるでしょう。

さて、今回で、柳沼が洋子の正体を知りました。これで二人目ですが、実際には片岡も洋子の事は嘘だと解っているでしょう。

病気については、ほとんど語られないできましたが、とうとう症状が出てきましたね。腹部を押さえていましたけど、内臓疾患でしょうか。気になります。

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