あいのうた第三話「今日で性格ブスやめます?!」
ファミレスに戻った洋子(菅野美穂)は房子(和久井映見)と会う。
「どこへ行っていたの?」
「ごめんなさい。」
「ねえ?」
「えっ?」
「ちょっと気になってたんだけど、さっきさあ、苦手だとか、慣れてないとか、行ったことないとか言ってたよね。」
「えっ?」
「あなたさあ、あなた、ほんとに記憶喪失なの?」驚く洋子。
「どうなの?」洋子の返事はない。
「あれ、うそ?ほんとに?当たり?」
「うわぁー、ぶっーーーーーーーー、へっ、しょうがないか。」かんねんした洋子。
「へっ?」驚く房子。自信持って言ったんじゃないの?
「そうよ。」開き直る洋子。
「そうよって?」
「だから、あんたの言う通りだってこと。」
「じゃあ、当たり?・・・・ほんとに?」
「そう。」
「記憶喪失は嘘?」
「だから、そうよ。」
「うそー。・・・・すごい私。」
「はっ?」
「すごい!!ねえ、一番?」房子は洋子が嘘をついていたことは関心ないみたい。
「何が?」
「だから、見破ったの?」
「なんなの、それ。そうよ!!」
「そうなんだ。すごいね私。」彼女の基準は普通の人とは違う。
「えっー?」
「でもさー、何で?」疲れて、崩れる洋子。房子と喋っていたら、疲れるよね。
「あのさー、何で理由を聞くのに、かかるわけ?普通さあ、記憶喪失がわかったら、すぐに何で?って聞くじゃない。ねえ、そこが一番大事なとこじゃない?見抜いたのが一番とかすごいとかどうでもいいでしょうが。」逆ギレする洋子。
「ごめんなさい。」
「いいけどさー、別に。」
「うん、それで・・・」
「だから、成り行き?成り行き!」
「わかんない。」
「だからね、もう生きるのが嫌んなちゃって、死のうとしたんだけど、死にきれなくて、それで・・・」
聞き入り房子。「それで?」
「違う人間になれるかなって、思ったの。」
「なるほど。生まれ変わろうとしたんだ。」
「そういうこと。・・・・でも、まあ、無理な話だしな。・・・・もういいや。」
店を出て、川沿いの道を歩く洋子と房子。
「新しい人生か・・・、そんなに辛かったの?」
「どうかな・・・・・」
「そっか・・・」うなずく房子。
「同情とかそういうのは止めて欲しいんだけど。」
「家族は?」
「いない。父親は生まれた時から知らないし、母親は今生きてるか死んでるかも知らない。」
急に、自転車を置き、洋子の元へ駆け寄る房子。
「ほんとの名前はなんて言うの?ちょっと待って、当てるから。髪が長いから、貞子・・・」
「いいよ、面倒くさい。洋子。」
「洋子?なんか似合わないね。」
「はあ?」
「わかった、オッケー。」
「オッケーって何が?」
「だから、オッケー。黙っててあげる。」
「なんで?」
「だって、なんかいいじゃない。それに、片岡さんち、居たいんでしょ?」
「べつにそんなんじゃあないけど・・・」
「えーっ、違うの?」
「違うってこ・と・も・ない・け・ど・・・・」
「やっぱ、そうなんじゃない。だから、黙っててあげる。」ひとり、納得して、さっさと行ってしまう房子。
橋の欄干に寄りかかり、洋子は言う。「なんで、私はホッとしているんだ。」
片岡の家では子供たちが遊んでいた。それを見ていた洋子は房子の言葉を思い出す。
「せっかくなんだからさあ・・・・」
「せっかく?」
「せっかくなんだからさあ、せっかく新しい人になるなら、変われば?」
「へっ?」
「その自分の性格、変えてみたら?なんか、積極的になってみるとか、笑顔の似合う女になってみるとか。」
「はあ?」
カフェの店員を指さして、「ほら、スマイル。ほら、やってみて。」
「あり得ないわ。」
そして笑顔の練習をしてみる。精一杯の笑顔で子供たちに声をかけようとした所へ、片岡(玉置浩二)が帰ってくる。
「ただいま、愛ちゃん。」
「お帰りなさい。」満面の笑みを浮かべて、うなずく片岡。
大が「お父さん、なんか機械が壊れちゃったんだって。」
「だから明日から、一週間、お弁当持って行くの。」亜希が言う。
「えっ?」驚く片岡。
「そりゃ、大変だ。まいったなあ。」
「僕、やろうか?」大が言う。出来んの?
「出来んの,お弁当?」亜希が心配する。当然だよ。そこへ洋子が,
「あの、私がつ・く・る・・・・、あの、作ろうと思います。」
洋子の言葉に全員が驚く。片岡が「大丈夫?」
「多分,いややや、はい。」精一杯の笑顔を作ってみせる洋子。でも,怖い。みんなが引く。
「気持ち悪い。」亜希が言う。子供は正直だね。
スポーツジムにいる洋子と房子。
「ねえ、ちょっと聞いてんの?」
「いいと思わない,彼?」見ていたのはマッチョな男。
「わっ、頭悪そう。」筋肉バカだね。(笑
「てかさあ、そもそもあんたって独身?」
「うん、そうだよ。聞きたい?いろいろ男性遍歴とか?」
「聞きたくないわよ。だから、どうやったらおいしいお弁当が作れるかって聞いてんの?あるでしょ、作ったこと。」
「ははあーん、わかった、とびっきりおいしいお弁当を作って,子供たちに喜んでもらおうと,そう言う訳だ。そうだよね、すばらしいね。新しい人生だもんね、洋子ちゃん,改め,愛ちゃんだもんね。」
「あんたさあ、その性格直した方がいいじゃないの?」洋子には言われたくないよね。
「そう?私大好き、自分のこと。」そうだろうね,わかるよ。
「あ、そー。」
「でも、あれだよね、みんな親、張り切って作るんだろうね。子供喜ばせるためにさあ。」
「そうかなあ。」
「そうだよ。しょぼいとあれ,がっかりするんだよね、子供はさあ。」
「わかってるわよ。だから、こうやって,相談しに来てるんじゃないの。」相談する相手が悪いんじゃないの。(笑
「大丈夫だよ,でも。」
「なんで?」
「大事なのは愛だよ。愛!!」
「はっ?」
「愛情込めてつくれば、それは伝わるって。」
「何なのそれ?まずいもんはまずいわよ。」
「そんなことないって。愛ちゃんの愛情弁当、最高じゃない!!」
「来るんじゃなかった。」そんなアドバイスなら,誰でも出来るよね。
お弁当作りに取りかかる洋子。
まずは,本屋で情報を仕入れるため、メモる。本ぐらい買いなよ。
次はスーパーで,これでもかって言うぐらい買いまくる。だから,そのお金で本買えば良いのに。(笑
そして、お弁当作りに取りかかる洋子。張り切り過ぎだよ。
見かねた片岡は手伝うと言うが,洋子はそれを断る。
自分の部屋に戻った片岡はとたんに大きな物音を聞く。結局,出て行かず,洋子に任せた。
「変な子だなあ。」
再び,大きな叫び声。
洋子はお弁当を作りながら,子供の頃を思い出していた。
「お弁当?何なのよ,それ?何のために給食費,払ってると思ってんの。冗談じゃないわよ。」
母・葵(芳本美代子)の言葉は冷たかったが,翌朝起きてみると,お弁当が作ってあった。喜んで持って行った洋子は途中で弁当の中身が見たくなり,開けてみるとびっくり。あんぱんが一つ入っていた。
洋子はお昼,一人で外で隠れて,そのお弁当?を食べた。
徹夜して,ようやく完成したお弁当。片岡が起きて来た。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「あー、出来たんだ。すごいね。」キッチンへ行って,見事に散乱している様を見て、「こっちもすごいね。」
「すいません。」でも、片岡はうれしそうだ。子供たちを起こしに行った。
大と亜希にお弁当を渡す洋子。
うれしそうに「ありがとうございます。」と二人が言う。
「自信ないけど・・・」
片岡が子供たちを送り出す。戻って来た片岡は洋子に,
「ありがとう。」そう言って,出て行った。
洋子は疲れて,横になる。犬のミルクが飛んで来ても,起きない。まあ、あれだけ格闘したからね。
片岡は病院にいた・・・
「お弁当か・・・・」牧野(岸田今日子)が言う。
「うーん、なんか、もう、大変なことになってるよ,うちは。」
「そう。いいわね、お弁当。良い思い出と,なんだか切ない思い出と、あったなあ。」
「へえー、そうなの?」
「なんか手抜きしたなと思うときは,学校に送り出した後で,仕事してても落ち込んじゃうの。あー、今頃,お弁当食べてるのかなー,悪かったなあ,楽しみにふたとって,がっかりしていてるのかなあ,なんて。仕事終わって、家に帰るでしょう,そうすると、台所のテーブルの上にお弁当箱おいてあるのよね。それを、手に取って,こうやって,からからから。」
「からから?」
「お弁当全部食べて,お箸だけになると,からからっていうの。その音聞くと,うれしくてねえー。」
「からからかあ。」
「全部,食べてないこともあって,そのときは悲しかった。お弁当の残りを流しに捨てるとき,辛くてね,悲しいって言うのか,寂しいって言うのか,何なのかしらあの気持ち。私ばっかり、おしゃべりしちゃったわね。ごめんなさい。」
「楽しいよ。」
「良い顔色してる。それに、顔、最近優しくなった。。輝いてる。」
「それもなんだか、切ない話だね。消え行く命の最後の輝きですかな?」
「・・・・・」
「ごめん。」ほんと、何の病気なのかな?こんなに元気なのに・・・・
洋子が目覚めたとき,子供たちは帰っていた。そしておいてあるお弁当箱に気がつく。開けてみる洋子。しかし,ほとんど残っていた大の弁当は。亜希のも同じだった。
「やっぱりあり得ないか,私が弁当なんて・・・・」
帰って来た片岡は弁当箱を見て,
「あいつら、せっかく愛ちゃんが・・・」
「ちょっと、待って。いいの。いい。」
「でもさ・・・・」
「いいよ。怒らないで。しょうがないでしょ。気、使って食べる子供、可愛くないし。」
「それもそうだけどさあ。」
洋子は再び,お弁当作りを始める。
次の日もお弁当箱は空ではなかった。むなしく,流しに捨てる洋子。それでも,続ける洋子。
また,次の日もお弁当箱は空じゃなかった。
また,また,次の日も同じだった。
洋子は食品売り場で,お弁当を買って,河原へ来ていた。そこへ刑事の柳沼(成宮寛貴)がやってくる。
「こんにちは、愛さん。」
「あー、どうも。」
「どうしたんですか?買いもんですか?」
「これ,詰め直そうかなあって思って。」
「え?」
「何でもない。」
「どうですか、その後の記憶の方は?何か,思い出したりとかは?」
「別に。」
「そっか・・・、なんか、出来ることないかな。」
「ないんじゃない。」冷たいね。(笑
「えっ?僕,余計なお世話と言うか・・・・」
「じゃないかと思っているかってこと?」
「ああ、はい。」
「思ってるよ。」
「思ってる・・・、やっぱり・・・」可哀想。
「・・・・」
「僕ね,小さい頃父を亡くして,母と姉二人と妹と、そんな家族で・・・・」
「だから?」
「だから、母が結構大変で、姉も年離れているんですけど,早くから働いて,結構大変で・・・・」何が言いたいの?柳沼君。
「・・・・」
「とにかく、僕はそんな風に女の人に囲まれて生きて来て、女の人が傷ついたり、辛い思いをするのはやなんです。嫌いなんです。そう言うの,許せなくて,だから、なんか,力になりたくて。」
「へえー。」お弁当を食べている洋子。
「ごめんなさい。それだけじゃなくて,タイプかなあっていうのもあって。すいません。」
「良い人なんだね。」
「全然・・・・、良い人って・・・・」
「私、良い人苦手なんだよね。」
「え?」柳沼君,玉砕。(笑
「ちゅうか、そんな感じがする。」
「はあ?」
「悔しいなあ。」お弁当を渡し,去って行く洋子。それを見つめる,柳沼。いつ,伝わるんだろうね,その気持ち。
柳沼と飯塚(小日向文世)が飲んでいる。そこへ房子がやってくる。そして、片岡も合流する。
柳沼は知り合いの新聞社に頼んで,洋子の顔写真をメディアに流してはと提案するが,飯塚が、
「それはどうかなあ,危険だと思うけど。だってさあ、彼女はさあ、単に事故で記憶を失ってるだけじゃなくて,自殺未遂な訳だから。何か問題を抱えていたのかもしれないし,わかんないけど,必ずしも,顔を出すのは得策とは思えないけどなあ。」
房子がその通りだという風に,飯塚をたたく。
「そんなことはわかっています。でも、ずーと、このままでいるつもりですか?自然に思い出すのを待つんですか?いつになるかわかんないし、思い出さないかもしれないじゃないですか。確かに飯塚さんの言う通り,思い出したくない過去なのかもしれない。でも、ずーと、逃げててもしょうがないじゃないですか。問題と向き合って,解決するのに力を貸してあげればいいじゃないですか。いや、僕は何でもします。現実から,目を背けたって,仕方がない。そう思いますよね、片岡さん?」
「柳沼さあ,やめとこうか,それは。逃げられない現実からさあ、目をそらしたい時って,あるんじゃないかな。人間さあ。目をそらせるものならさあ,そうしたって良いんじゃないかな。と思うんだ。」
「片岡,お前,なんかあったのか?」飯塚が聞く。
「なんで?」
「いやー、だって、お前らしくないから。言うことが。だから、目をそらしたいような現実がお前にもあるのか?」鋭いです、飯塚さん,見かけによらず。(笑
「・・・・」
「片岡?」
「あるよ。・・・・子供の養育費とかさあ,お受験とか,大変なんだぞ,お前らにはわからないだろうけど。」さらりとかわした片岡だけど,昔はどんな人だったのかな?
お弁当を作っていた洋子は弁当箱を落として、割ってしまう。ちょうどそのとき,片岡はおいてあった弁当箱を渡す。
「小さいけど・・・・」
「どうも。」受け取る洋子。
「愛ちゃん,リラックス。」
「・・・・」
「そうだ、散歩、行こうか。ねえ、外の空気吸ってさあ。」
散歩に出かけた二人・・・・
「愛ちゃんて,結構負けず嫌いだよね。」
「私が?」
「うん、違う?」
「アー・・・・」
「そっか,覚えてないんだよな。でもねえ、多分そうだったんじゃないかな。」
立ち止まる洋子。
「負けず嫌いの人は自殺なんてしないと思う。違う?」
「負けず嫌いな人の方がさあ,負けたとき,立ち直れないんじゃないかな。」
「そうかな・・・・、でも私は違うと思うな。」
「そう?」
「だってさあ、負けず嫌いの人って,負けたくないから一生懸命努力したりとか,がんばるんでしょ。」
「あ、そうかな。」
「そういう人じゃ、ないっぽい。」
「そうなんだ。」
「何となく,だけど。」
散歩していた二人はいつの間にかオープンカフェの前に来ていた。
「へー、こんな店出来たんだ。なんて言うのこう言うとこ?」
「カフェ?」
「カフェ。」
「うーん、私もよく知らない。」
「そっか。入ってみるか。だめかな俺は?若い人行くところか?」
「そんなことはないと思うけど。」
「じゃあ,入っちゃう?」と店に入って行く二人。
店に入り,席に座った二人。
「良いもんだね。」
「私も初めて。」不審な顔をする片岡を見て,「・・ぽい。」と続ける洋子。
「でも、やっぱおじさんには厳しいなあ。」
「そんな風に思うんだ。大丈夫なんじゃない。」
「俺?嘘だろう。」
「いや、わかんないけど。」
「その酒、何?」
「これ?ライチ。あ,そうそうライチのお酒って書いてる。」
「ライチ?中国の果物。」
「へえー、果物?」言ってる間に,洋子のお酒を飲む片岡。
「え?」驚く洋子。
「うまいね、これ。ちょっと,取り替えない?」
「嫌だ。」
「いやー、考えないですぐさあとりあえずビールとか、言っちゃうんだよね。」
「とりあえず、ビールだ。」
「もう一口,いい?」とまた,勝手に飲む片岡。
「気に入った!!飯塚に自慢しよう。愛ちゃんのおかげだな。」
「えっ?」
「愛ちゃんいなかったらさあ,俺,このうまい酒を知らずに死んで行ったかもしれない訳だよ。」
「はあ?」
「だから、感謝!!・・・・あー、やっぱ俺これ頼む。ちょっと,お姉さん。ライチのお酒,一つお願いね。・・・・お姉さん,まずかったかな?」
「さあ・・・」笑顔の洋子。
「おじさんにはおじさんの良さがあるっていうかさあ。君ら若いもんが知らないこと,いっぱい知ってんだから。いろいろ教えてやるよ,楽しみにしてろ。」片岡は洋子に何かを期待しているのかな?
「えっ?」
酒が運ばれてくる。
「ありがとう、お姉さん。」と思わずまた言ってしまう片岡。愛想笑いの一つもしないで去って行く店員。
「あっ。」
そう言って,笑う二人。洋子がこんなに笑うのは初めてじゃない?お酒のせいもあるのかな?
今度は他のテーブの客が食べているものをさして,
「ねえねえ、あの人たちが食べている緑色のカレーみたいなの何?」
「あっ、あれはわかる。タイカレー。」
「タイ?タイのひと、カレー食うの?」
「うん。」片岡の顔を見て,「食べたいんだ。」
「おいしい?半分くらいなら。」
洋子は立ち上がり,店員に向かって,
「お姉さん,タイカレーちょうだい。あーあ、怒っちゃった。」
笑い続ける二人。
片岡が帰って来た。早いね。その後に続けて,子供たちが帰って来た。そして,洋子の目の前にお 弁当箱をおいて,行ってしまう。
おかれた弁当箱を持った洋子はいつもと違うことに気づいた。お弁当箱を振ってみた。からん、からんと音がする。それを見つめる片岡。
洋子は驚いて,お弁当箱を開ける。大のお弁当箱も亜希のお弁当箱もきれいに空っぽだった。
洋子の目には涙があふれてくる。
片岡は子供たちに,
「おい、うまかったか?全部食べたんだ。偉いぞ。」
「お弁当、ずっとおいしかったよ。」亜希が言う。
「えー?」
「だって、お前ら,残してたじゃないかよ。」
「えー、おいしかったけど、量、多すぎるんだよね。な。」大が言う。
「うん、だって子供だし,私たち。」亜希が言う。その通りですね。(笑
「はあー。」あきれる片岡。
「あらららら、なんだそうだったのか。」
その話を聞いて,うれしいのだがどう表現していいのかわからない洋子は家を飛び出して行く。
その洋子を追いかけてくる片岡。
「愛ちゃん、よく頑張った。偉い!!」
片岡はまるで,洋子を子供のように,頭をなでてやる。それは昔,子供の頃に憧れた行為だった。親から受けられなかった分,今,片岡から受けている。涙が止まらない洋子。
「愛ちゃ・・・・,愛ちゃんのままでいいんじゃないかな。」
「・・・・」片岡の顔を見る洋子。
「だから、家に居なよ。愛ちゃんいると,楽しいし。」
「私が?楽しい?」
「うん。」片岡の優しさに包まれて,変わりつつある?洋子・・・・
その頃,墨田警察署では、取調中の容疑者から,押収した財布の中に,洋子の免許証が入っているのを柳沼が見つけた。
「松田洋子・・・・」
洋子の正体は結局、房子だけ知ることになりましたね。そして、いつも通りの生活が始まるのですが、洋子は確実に変わりつつあります。片岡と言ういわば、愛の塊のような人と接して、これまで触れたことのなかったものへの拒否反応は有りますが、少しづつ減って来ています。
お弁当のことや、カフェに行ったりと行動も変わってきています。
でも、一番変わったのは洋子の笑顔です。普通に笑うことさえ出来なかった洋子はカフェでは本当に楽しそうに笑っていました。まあ、お酒も入っていたので、よけいそうなったんでしょうけど。
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「ねえ?」
「えっ?」
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「えっ?」
「あなたさあ、あなた、ほんとに記憶喪失なの?」驚く洋子。
「どうなの?」洋子の返事はない。
「あれ、うそ?ほんとに?当たり?」
「うわぁー、ぶっーーーーーーーー、へっ、しょうがないか。」かんねんした洋子。
「へっ?」驚く房子。自信持って言ったんじゃないの?
「そうよ。」開き直る洋子。
「そうよって?」
「だから、あんたの言う通りだってこと。」
「じゃあ、当たり?・・・・ほんとに?」
「そう。」
「記憶喪失は嘘?」
「だから、そうよ。」
「うそー。・・・・すごい私。」
「はっ?」
「すごい!!ねえ、一番?」房子は洋子が嘘をついていたことは関心ないみたい。
「何が?」
「だから、見破ったの?」
「なんなの、それ。そうよ!!」
「そうなんだ。すごいね私。」彼女の基準は普通の人とは違う。
「えっー?」
「でもさー、何で?」疲れて、崩れる洋子。房子と喋っていたら、疲れるよね。
「あのさー、何で理由を聞くのに、かかるわけ?普通さあ、記憶喪失がわかったら、すぐに何で?って聞くじゃない。ねえ、そこが一番大事なとこじゃない?見抜いたのが一番とかすごいとかどうでもいいでしょうが。」逆ギレする洋子。
「ごめんなさい。」
「いいけどさー、別に。」
「うん、それで・・・」
「だから、成り行き?成り行き!」
「わかんない。」
「だからね、もう生きるのが嫌んなちゃって、死のうとしたんだけど、死にきれなくて、それで・・・」
聞き入り房子。「それで?」
「違う人間になれるかなって、思ったの。」
「なるほど。生まれ変わろうとしたんだ。」
「そういうこと。・・・・でも、まあ、無理な話だしな。・・・・もういいや。」
店を出て、川沿いの道を歩く洋子と房子。
「新しい人生か・・・、そんなに辛かったの?」
「どうかな・・・・・」
「そっか・・・」うなずく房子。
「同情とかそういうのは止めて欲しいんだけど。」
「家族は?」
「いない。父親は生まれた時から知らないし、母親は今生きてるか死んでるかも知らない。」
急に、自転車を置き、洋子の元へ駆け寄る房子。
「ほんとの名前はなんて言うの?ちょっと待って、当てるから。髪が長いから、貞子・・・」
「いいよ、面倒くさい。洋子。」
「洋子?なんか似合わないね。」
「はあ?」
「わかった、オッケー。」
「オッケーって何が?」
「だから、オッケー。黙っててあげる。」
「なんで?」
「だって、なんかいいじゃない。それに、片岡さんち、居たいんでしょ?」
「べつにそんなんじゃあないけど・・・」
「えーっ、違うの?」
「違うってこ・と・も・ない・け・ど・・・・」
「やっぱ、そうなんじゃない。だから、黙っててあげる。」ひとり、納得して、さっさと行ってしまう房子。
橋の欄干に寄りかかり、洋子は言う。「なんで、私はホッとしているんだ。」
片岡の家では子供たちが遊んでいた。それを見ていた洋子は房子の言葉を思い出す。
「せっかくなんだからさあ・・・・」
「せっかく?」
「せっかくなんだからさあ、せっかく新しい人になるなら、変われば?」
「へっ?」
「その自分の性格、変えてみたら?なんか、積極的になってみるとか、笑顔の似合う女になってみるとか。」
「はあ?」
カフェの店員を指さして、「ほら、スマイル。ほら、やってみて。」
「あり得ないわ。」
そして笑顔の練習をしてみる。精一杯の笑顔で子供たちに声をかけようとした所へ、片岡(玉置浩二)が帰ってくる。
「ただいま、愛ちゃん。」
「お帰りなさい。」満面の笑みを浮かべて、うなずく片岡。
大が「お父さん、なんか機械が壊れちゃったんだって。」
「だから明日から、一週間、お弁当持って行くの。」亜希が言う。
「えっ?」驚く片岡。
「そりゃ、大変だ。まいったなあ。」
「僕、やろうか?」大が言う。出来んの?
「出来んの,お弁当?」亜希が心配する。当然だよ。そこへ洋子が,
「あの、私がつ・く・る・・・・、あの、作ろうと思います。」
洋子の言葉に全員が驚く。片岡が「大丈夫?」
「多分,いややや、はい。」精一杯の笑顔を作ってみせる洋子。でも,怖い。みんなが引く。
「気持ち悪い。」亜希が言う。子供は正直だね。
スポーツジムにいる洋子と房子。
「ねえ、ちょっと聞いてんの?」
「いいと思わない,彼?」見ていたのはマッチョな男。
「わっ、頭悪そう。」筋肉バカだね。(笑
「てかさあ、そもそもあんたって独身?」
「うん、そうだよ。聞きたい?いろいろ男性遍歴とか?」
「聞きたくないわよ。だから、どうやったらおいしいお弁当が作れるかって聞いてんの?あるでしょ、作ったこと。」
「ははあーん、わかった、とびっきりおいしいお弁当を作って,子供たちに喜んでもらおうと,そう言う訳だ。そうだよね、すばらしいね。新しい人生だもんね、洋子ちゃん,改め,愛ちゃんだもんね。」
「あんたさあ、その性格直した方がいいじゃないの?」洋子には言われたくないよね。
「そう?私大好き、自分のこと。」そうだろうね,わかるよ。
「あ、そー。」
「でも、あれだよね、みんな親、張り切って作るんだろうね。子供喜ばせるためにさあ。」
「そうかなあ。」
「そうだよ。しょぼいとあれ,がっかりするんだよね、子供はさあ。」
「わかってるわよ。だから、こうやって,相談しに来てるんじゃないの。」相談する相手が悪いんじゃないの。(笑
「大丈夫だよ,でも。」
「なんで?」
「大事なのは愛だよ。愛!!」
「はっ?」
「愛情込めてつくれば、それは伝わるって。」
「何なのそれ?まずいもんはまずいわよ。」
「そんなことないって。愛ちゃんの愛情弁当、最高じゃない!!」
「来るんじゃなかった。」そんなアドバイスなら,誰でも出来るよね。
お弁当作りに取りかかる洋子。
まずは,本屋で情報を仕入れるため、メモる。本ぐらい買いなよ。
次はスーパーで,これでもかって言うぐらい買いまくる。だから,そのお金で本買えば良いのに。(笑
そして、お弁当作りに取りかかる洋子。張り切り過ぎだよ。
見かねた片岡は手伝うと言うが,洋子はそれを断る。
自分の部屋に戻った片岡はとたんに大きな物音を聞く。結局,出て行かず,洋子に任せた。
「変な子だなあ。」
再び,大きな叫び声。
洋子はお弁当を作りながら,子供の頃を思い出していた。
「お弁当?何なのよ,それ?何のために給食費,払ってると思ってんの。冗談じゃないわよ。」
母・葵(芳本美代子)の言葉は冷たかったが,翌朝起きてみると,お弁当が作ってあった。喜んで持って行った洋子は途中で弁当の中身が見たくなり,開けてみるとびっくり。あんぱんが一つ入っていた。
洋子はお昼,一人で外で隠れて,そのお弁当?を食べた。
徹夜して,ようやく完成したお弁当。片岡が起きて来た。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「あー、出来たんだ。すごいね。」キッチンへ行って,見事に散乱している様を見て、「こっちもすごいね。」
「すいません。」でも、片岡はうれしそうだ。子供たちを起こしに行った。
大と亜希にお弁当を渡す洋子。
うれしそうに「ありがとうございます。」と二人が言う。
「自信ないけど・・・」
片岡が子供たちを送り出す。戻って来た片岡は洋子に,
「ありがとう。」そう言って,出て行った。
洋子は疲れて,横になる。犬のミルクが飛んで来ても,起きない。まあ、あれだけ格闘したからね。
片岡は病院にいた・・・
「お弁当か・・・・」牧野(岸田今日子)が言う。
「うーん、なんか、もう、大変なことになってるよ,うちは。」
「そう。いいわね、お弁当。良い思い出と,なんだか切ない思い出と、あったなあ。」
「へえー、そうなの?」
「なんか手抜きしたなと思うときは,学校に送り出した後で,仕事してても落ち込んじゃうの。あー、今頃,お弁当食べてるのかなー,悪かったなあ,楽しみにふたとって,がっかりしていてるのかなあ,なんて。仕事終わって、家に帰るでしょう,そうすると、台所のテーブルの上にお弁当箱おいてあるのよね。それを、手に取って,こうやって,からからから。」
「からから?」
「お弁当全部食べて,お箸だけになると,からからっていうの。その音聞くと,うれしくてねえー。」
「からからかあ。」
「全部,食べてないこともあって,そのときは悲しかった。お弁当の残りを流しに捨てるとき,辛くてね,悲しいって言うのか,寂しいって言うのか,何なのかしらあの気持ち。私ばっかり、おしゃべりしちゃったわね。ごめんなさい。」
「楽しいよ。」
「良い顔色してる。それに、顔、最近優しくなった。。輝いてる。」
「それもなんだか、切ない話だね。消え行く命の最後の輝きですかな?」
「・・・・・」
「ごめん。」ほんと、何の病気なのかな?こんなに元気なのに・・・・
洋子が目覚めたとき,子供たちは帰っていた。そしておいてあるお弁当箱に気がつく。開けてみる洋子。しかし,ほとんど残っていた大の弁当は。亜希のも同じだった。
「やっぱりあり得ないか,私が弁当なんて・・・・」
帰って来た片岡は弁当箱を見て,
「あいつら、せっかく愛ちゃんが・・・」
「ちょっと、待って。いいの。いい。」
「でもさ・・・・」
「いいよ。怒らないで。しょうがないでしょ。気、使って食べる子供、可愛くないし。」
「それもそうだけどさあ。」
洋子は再び,お弁当作りを始める。
次の日もお弁当箱は空ではなかった。むなしく,流しに捨てる洋子。それでも,続ける洋子。
また,次の日もお弁当箱は空じゃなかった。
また,また,次の日も同じだった。
洋子は食品売り場で,お弁当を買って,河原へ来ていた。そこへ刑事の柳沼(成宮寛貴)がやってくる。
「こんにちは、愛さん。」
「あー、どうも。」
「どうしたんですか?買いもんですか?」
「これ,詰め直そうかなあって思って。」
「え?」
「何でもない。」
「どうですか、その後の記憶の方は?何か,思い出したりとかは?」
「別に。」
「そっか・・・、なんか、出来ることないかな。」
「ないんじゃない。」冷たいね。(笑
「えっ?僕,余計なお世話と言うか・・・・」
「じゃないかと思っているかってこと?」
「ああ、はい。」
「思ってるよ。」
「思ってる・・・、やっぱり・・・」可哀想。
「・・・・」
「僕ね,小さい頃父を亡くして,母と姉二人と妹と、そんな家族で・・・・」
「だから?」
「だから、母が結構大変で、姉も年離れているんですけど,早くから働いて,結構大変で・・・・」何が言いたいの?柳沼君。
「・・・・」
「とにかく、僕はそんな風に女の人に囲まれて生きて来て、女の人が傷ついたり、辛い思いをするのはやなんです。嫌いなんです。そう言うの,許せなくて,だから、なんか,力になりたくて。」
「へえー。」お弁当を食べている洋子。
「ごめんなさい。それだけじゃなくて,タイプかなあっていうのもあって。すいません。」
「良い人なんだね。」
「全然・・・・、良い人って・・・・」
「私、良い人苦手なんだよね。」
「え?」柳沼君,玉砕。(笑
「ちゅうか、そんな感じがする。」
「はあ?」
「悔しいなあ。」お弁当を渡し,去って行く洋子。それを見つめる,柳沼。いつ,伝わるんだろうね,その気持ち。
柳沼と飯塚(小日向文世)が飲んでいる。そこへ房子がやってくる。そして、片岡も合流する。
柳沼は知り合いの新聞社に頼んで,洋子の顔写真をメディアに流してはと提案するが,飯塚が、
「それはどうかなあ,危険だと思うけど。だってさあ、彼女はさあ、単に事故で記憶を失ってるだけじゃなくて,自殺未遂な訳だから。何か問題を抱えていたのかもしれないし,わかんないけど,必ずしも,顔を出すのは得策とは思えないけどなあ。」
房子がその通りだという風に,飯塚をたたく。
「そんなことはわかっています。でも、ずーと、このままでいるつもりですか?自然に思い出すのを待つんですか?いつになるかわかんないし、思い出さないかもしれないじゃないですか。確かに飯塚さんの言う通り,思い出したくない過去なのかもしれない。でも、ずーと、逃げててもしょうがないじゃないですか。問題と向き合って,解決するのに力を貸してあげればいいじゃないですか。いや、僕は何でもします。現実から,目を背けたって,仕方がない。そう思いますよね、片岡さん?」
「柳沼さあ,やめとこうか,それは。逃げられない現実からさあ、目をそらしたい時って,あるんじゃないかな。人間さあ。目をそらせるものならさあ,そうしたって良いんじゃないかな。と思うんだ。」
「片岡,お前,なんかあったのか?」飯塚が聞く。
「なんで?」
「いやー、だって、お前らしくないから。言うことが。だから、目をそらしたいような現実がお前にもあるのか?」鋭いです、飯塚さん,見かけによらず。(笑
「・・・・」
「片岡?」
「あるよ。・・・・子供の養育費とかさあ,お受験とか,大変なんだぞ,お前らにはわからないだろうけど。」さらりとかわした片岡だけど,昔はどんな人だったのかな?
お弁当を作っていた洋子は弁当箱を落として、割ってしまう。ちょうどそのとき,片岡はおいてあった弁当箱を渡す。
「小さいけど・・・・」
「どうも。」受け取る洋子。
「愛ちゃん,リラックス。」
「・・・・」
「そうだ、散歩、行こうか。ねえ、外の空気吸ってさあ。」
散歩に出かけた二人・・・・
「愛ちゃんて,結構負けず嫌いだよね。」
「私が?」
「うん、違う?」
「アー・・・・」
「そっか,覚えてないんだよな。でもねえ、多分そうだったんじゃないかな。」
立ち止まる洋子。
「負けず嫌いの人は自殺なんてしないと思う。違う?」
「負けず嫌いな人の方がさあ,負けたとき,立ち直れないんじゃないかな。」
「そうかな・・・・、でも私は違うと思うな。」
「そう?」
「だってさあ、負けず嫌いの人って,負けたくないから一生懸命努力したりとか,がんばるんでしょ。」
「あ、そうかな。」
「そういう人じゃ、ないっぽい。」
「そうなんだ。」
「何となく,だけど。」
散歩していた二人はいつの間にかオープンカフェの前に来ていた。
「へー、こんな店出来たんだ。なんて言うのこう言うとこ?」
「カフェ?」
「カフェ。」
「うーん、私もよく知らない。」
「そっか。入ってみるか。だめかな俺は?若い人行くところか?」
「そんなことはないと思うけど。」
「じゃあ,入っちゃう?」と店に入って行く二人。
店に入り,席に座った二人。
「良いもんだね。」
「私も初めて。」不審な顔をする片岡を見て,「・・ぽい。」と続ける洋子。
「でも、やっぱおじさんには厳しいなあ。」
「そんな風に思うんだ。大丈夫なんじゃない。」
「俺?嘘だろう。」
「いや、わかんないけど。」
「その酒、何?」
「これ?ライチ。あ,そうそうライチのお酒って書いてる。」
「ライチ?中国の果物。」
「へえー、果物?」言ってる間に,洋子のお酒を飲む片岡。
「え?」驚く洋子。
「うまいね、これ。ちょっと,取り替えない?」
「嫌だ。」
「いやー、考えないですぐさあとりあえずビールとか、言っちゃうんだよね。」
「とりあえず、ビールだ。」
「もう一口,いい?」とまた,勝手に飲む片岡。
「気に入った!!飯塚に自慢しよう。愛ちゃんのおかげだな。」
「えっ?」
「愛ちゃんいなかったらさあ,俺,このうまい酒を知らずに死んで行ったかもしれない訳だよ。」
「はあ?」
「だから、感謝!!・・・・あー、やっぱ俺これ頼む。ちょっと,お姉さん。ライチのお酒,一つお願いね。・・・・お姉さん,まずかったかな?」
「さあ・・・」笑顔の洋子。
「おじさんにはおじさんの良さがあるっていうかさあ。君ら若いもんが知らないこと,いっぱい知ってんだから。いろいろ教えてやるよ,楽しみにしてろ。」片岡は洋子に何かを期待しているのかな?
「えっ?」
酒が運ばれてくる。
「ありがとう、お姉さん。」と思わずまた言ってしまう片岡。愛想笑いの一つもしないで去って行く店員。
「あっ。」
そう言って,笑う二人。洋子がこんなに笑うのは初めてじゃない?お酒のせいもあるのかな?
今度は他のテーブの客が食べているものをさして,
「ねえねえ、あの人たちが食べている緑色のカレーみたいなの何?」
「あっ、あれはわかる。タイカレー。」
「タイ?タイのひと、カレー食うの?」
「うん。」片岡の顔を見て,「食べたいんだ。」
「おいしい?半分くらいなら。」
洋子は立ち上がり,店員に向かって,
「お姉さん,タイカレーちょうだい。あーあ、怒っちゃった。」
笑い続ける二人。
片岡が帰って来た。早いね。その後に続けて,子供たちが帰って来た。そして,洋子の目の前にお 弁当箱をおいて,行ってしまう。
おかれた弁当箱を持った洋子はいつもと違うことに気づいた。お弁当箱を振ってみた。からん、からんと音がする。それを見つめる片岡。
洋子は驚いて,お弁当箱を開ける。大のお弁当箱も亜希のお弁当箱もきれいに空っぽだった。
洋子の目には涙があふれてくる。
片岡は子供たちに,
「おい、うまかったか?全部食べたんだ。偉いぞ。」
「お弁当、ずっとおいしかったよ。」亜希が言う。
「えー?」
「だって、お前ら,残してたじゃないかよ。」
「えー、おいしかったけど、量、多すぎるんだよね。な。」大が言う。
「うん、だって子供だし,私たち。」亜希が言う。その通りですね。(笑
「はあー。」あきれる片岡。
「あらららら、なんだそうだったのか。」
その話を聞いて,うれしいのだがどう表現していいのかわからない洋子は家を飛び出して行く。
その洋子を追いかけてくる片岡。
「愛ちゃん、よく頑張った。偉い!!」
片岡はまるで,洋子を子供のように,頭をなでてやる。それは昔,子供の頃に憧れた行為だった。親から受けられなかった分,今,片岡から受けている。涙が止まらない洋子。
「愛ちゃ・・・・,愛ちゃんのままでいいんじゃないかな。」
「・・・・」片岡の顔を見る洋子。
「だから、家に居なよ。愛ちゃんいると,楽しいし。」
「私が?楽しい?」
「うん。」片岡の優しさに包まれて,変わりつつある?洋子・・・・
その頃,墨田警察署では、取調中の容疑者から,押収した財布の中に,洋子の免許証が入っているのを柳沼が見つけた。
「松田洋子・・・・」
洋子の正体は結局、房子だけ知ることになりましたね。そして、いつも通りの生活が始まるのですが、洋子は確実に変わりつつあります。片岡と言ういわば、愛の塊のような人と接して、これまで触れたことのなかったものへの拒否反応は有りますが、少しづつ減って来ています。
お弁当のことや、カフェに行ったりと行動も変わってきています。
でも、一番変わったのは洋子の笑顔です。普通に笑うことさえ出来なかった洋子はカフェでは本当に楽しそうに笑っていました。まあ、お酒も入っていたので、よけいそうなったんでしょうけど。
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