『特捜部Q カルテ番号64』
特捜部Qシリーズの第4段。 以前の作品記事はコチラ⇒ 第1作 第2作 第3作
ナイトクラブを経営する一人の女性の失踪事件を契機として、1987年の一時期に集中してコペンハーゲン市内に5人もの行方不明者が存在したことに気が付いた特捜部Qメンバーのアサドとローセ。
その事実に大事件を予感した特捜部Q責任者カール・マーク警部は捜査に着手する・・・・・。
ユーモアとシリアスが程良く混在する本シリーズ。今回もその特徴は失われていない。
しかも今作はデンマーク現代史における最暗部をえぐる問題作でもあり、これまでにも増して読み応え十分である。
さて、このシリーズのもう一つの特徴として、コールドケースの事件を捜査するコペンハーゲン警察特捜部Qメンバー視点のシーンと、事件に最も深く関係する被害者もしくは加害者(被害者と加害者が同一人物であることも)の側からのシーンが交互に描かれる、というのもある。
どちらのシーンでも、登場人物たちの感情の微細な動きまでが理解できるように描かれているから、捜査側メンバーにも、事件関係者(特に被害者)にも、ドップリと感情移入してしまう。まったくもって巧みな描き方だ。作者の力量を感じる。
今作で、特捜部Qメンバー以外で事件に深く関わる人物は二人。
優生思想を抱き、デンマーク国にとって有益とならない人間の排除をあからさまに打ち出す新進政党<明確なる一線>の党首クアト・ヴァズ。
恵まれない生い立ちと境遇ゆえに、凄惨な目に合った過去を持つ老女ニーデ・ローセン。
この2人の人物それぞれの性格と両者の対比が凄く良く描けている。クアト・ヴァズに対しては憎しみが、ニーデ・ローセンに対しては同情が自然に湧き起こる。
そして、シリーズの成熟とともに、特捜部Qメンバー1人一人の性格付けや特徴が明確になってきており、より親近感を覚えやすくなってきている。主人公カール・マークはもとより、今作ではアサドとローセの人間性に強く惹かれているのを感じた。
ミステリとしての出来は前作の方が上回っていたように思えるが、特捜部Qメンバーの描かれ方は今作の方が良かったかな。
今作では、シリーズ全編を通しての謎=カールとかつての同僚達に起こった「アマー島銃撃事件」に関する新たな謎も提示され、次作以降への興味は尽きない。
540ページ2段組みの長~い小説が苦にならずに読めるのだから、お薦めの物語であることは確か。