防犯カメラの顔認証システムに関して、個人情報保護法上の訂正等・利用停止等・民事訴訟など | なか2656のブログ

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1.防犯カメラ・顔認証システムに関する個人情報保護委員会の見解
防犯カメラは個人情報保護法18条4項4号に該当し「取得状況から見て利用目的が明らか」な場合には本人への防犯目的である限り防犯カメラで撮影していることを本人に公表等する必要はないとされています。

以前このブログでも取り上げた、個人情報保護委員会のガイドラインに関するパブコメでは、同委員会は防犯カメラと顔認証システムを法的に同一ととらえているようです。(個人情報保護法ガイドラインに関するパブコメ「【別紙1】意見募集結果(概要)」8頁参照。)

・防犯カメラによる顔認証データ取得・共有と個人情報保護法改正

したがって、顔認証システムの冤罪被害者の方々が、事業者側が顔認証システムを使用していることを公表等していないことをもって違法と主張することは難しいと思われます。

ただし、同委員会は、「防犯カメラが作動中であることを店舗の入口に掲示する等、本人に対して自身の個人情報が取得されていることを認識させるための措置を講ずることが望ましいと考えられます。」との見解(「【別紙1】意見募集結果(概要)」8頁参照。)も示しており、事業者側は注意が必要です。

2.冤罪被害者側の取りうる法的対応・法的手段
(1)開示・訂正・追加・削除の請求、利用の停止又は消去の請求
個人情報保護法上、本人は事業者の保有個人データが事実でないときは訂正、追加、削除を請求できます(29条)。また事業者の保有個人データが16条(目的内の利用か否か)または17条(適正な取得であったか)に違反しているときは、本人は当該保有個人データの利用の停止又は消去を請求できます(30条)。

ジュンク堂書店などの事業者は、万引き犯の顔データをデータベース化して来店客すべての顔データと照合を行っており、このようなデータベースは「特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」(2条4項1号)に該当し、事業者が開示・訂正等に応じなければならない保有個人データに該当します(2条7項)。

これらの開示・訂正等の請求の手続きについては、事業者のウェブサイトの個人情報保護方針(プライバシーポリシー)などに規定(32条)が用意されており有償(33条)なのが一般的です。請求権者はこの事業者の手続きに従う必要があります(菅原貴与志『詳解個人情報保護法と企業法務 第4版』226頁)。

(2)苦情相談
また、本人は苦情相談を、その事業者の苦情受付窓口に問い合わせるほか、認定個人情報保護団体、消費生活センターなど地方公共団体の窓口等に相談できます(52条など)。たとえば、小売業は「一般社団法人 日本専門店協会」という団体が認定個人情報保護団体となっています。

・認定個人情報保護団体の一覧|個人情報保護委員会

(3)民事訴訟
加えて本年(2017年)5月30日の改正法施行以降は、訂正削除等の請求の2週間後に本人は事業者に対して民事訴訟を提起できます(34条)。訴訟提起をする場合には、改正法施行日以降に訂正等の請求をすべきと思われます。

(4)調査嘱託・文書提出命令
なお、”事業者にデータの開示を求めたが無いといわれた”という冤罪被害者の方々のコメントをしばしばネット上でみかけます。その事業者を名宛人としてプライバシー侵害などによる損害賠償請求を求める民事訴訟を提起し、その訴訟において、裁判所に請求して事業者に対して調査嘱託(民事訴訟法186条)や文書提出命令(221条)を出してもらい、証拠として保有個人データの提出を求めることが考えられます。(弁護士会照会(弁護士法23条の2)は法的効力が弱いので、あまり意味がないと思われます。)

3.参考:防犯カメラ・顔認証システムのデータの共有の裁判例・新聞記事など
最近、顔認証データの共有に関する裁判例や新聞記事が徐々に現れています。

上のブログ記事で取り上げましたが、顔認証データの共有に関しては、地裁レベルですが判決がでています。判決文は顔データの共有は「個人情報保護法に抵触するおそれがある」「プライバシー侵害につながりかねない」と指摘しています(東京地裁平成27年9月17日判決 第一法規法情報総合データベース・判例ID28233584)。

また、顔認証データの共有の実態やこの判決については、山本一郎・鈴木正朝・高木浩光の各先生方が「ニッポンの個人情報のいま」というネット記事で詳しく書かれています。

・ニッポンの個人情報のいま|エンタープライズジン

■関連する新聞記事
・万引き防止 「顔」共有?|読売新聞

・「顔は個人情報」対応急ぐ 改正法来年に施行 客に告知/匿名化、自主ルール|日経新聞

■関連するブログ記事
・ジュンク堂書店が防犯カメラで来店者の顔認証データを撮っていることについて

*なお、訂正請求・利用停止請求・民事訴訟等の実施にあたっては、弁護士などの専門家にご相談ください。

個人情報保護法の逐条解説 第5版 -- 個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法



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詳解 個人情報保護法と企業法務―収集・取得・利用から管理・開示までの実践的対応策





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