防犯カメラによる顔認証データ取得・共有と個人情報保護法改正 | なか2656のブログ

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1.防犯カメラによる顔認証データの共有化
以前、このブログでも取り上げたとおり、2015年2月ごろより、防犯カメラに写った万引き犯の画像から顔認証データを生成してデータベースにし、さまざまな業種の店舗の間で共有する動きが広まっているそうです。

■関連するブログ記事
・防犯カメラ・顔認証システムと改正個人情報保護法/日置巴美弁護士の論文を読んで



(霞が関の個人情報保護委員会が入るビル)

2.顔認証データ
顔の画像は、「特定の個人を識別することができるもの」は個人情報です(個人情報保護法2条1項、宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第5版』37頁、菅原貴与志『詳解個人情報保護法と企業法務 第4版』25頁、105頁)

また、顔認証データを電子計算機を用いて容易に検索できる状態にして共有しているものについては、それを取り扱う事業者は個人情報保護法第4章の各種の法的義務を負うことになります(2条2項、4項)。

なお、平成29年から施行が予定されている、平成27年に改正がなされた個人情報保護法の2条1項2号には個人情報に該当するものとして「個人識別符号」が新設され、顔認証データが個人識別符号に含まれ、個人情報であることがより明確化されました(改正法2条2項1号、宇賀・前掲40頁、42頁)。

3.防犯カメラによる顔認証データの取得
そしてまず、防犯カメラによる顔の画像の取得については、防犯目的のみのために顔を含めた画像を録画することは、取得の状況からみて利用目的が明らかであることから、社会通念上認められるので、本人への通知や利用目的の公表は不要であるとされています(18条4項4号、菅原・前掲105頁)。

しかし、この防犯カメラで撮影した画像から顔認証データを生成等することについては明確なルールが存在しません。

この点、日経新聞の記事において、情報化推進国民会議本委員の影島広泰弁護士は、

「防犯カメラで収集したデータの利用目的を店頭で告知するなどの対応が求められる」
(「「顔は個人情報」対応急ぐ 改正法来年に施行 客に告知/匿名化、自主ルール」日本経済新聞2016年8月29日付)


とのコメントを寄せています。

・「顔は個人情報」対応急ぐ 改正法来年に施行 客に告知/匿名化、自主ルール|日本経済新聞

また、読売新聞の記事において、内閣府IT総合戦略本部の「パーソナルデータに関する検討会」委員の森亮二弁護士は、

『(通常の防犯カメラに比べて、)特定の個人を追跡する機能をもつ顔認識システムの方が肖像権やプライバシー侵害の度合いが強く、両者は区別する必要がある』『(そのため、)顔認識システムを採用していることを明記し、嫌だと感じた人はその店を利用しないで済むようにするなど、透明性を確保することが大事だ』
(「客に知らせず顔データ化…客層把握や万引き防止」読売新聞2015年12月29日付)


とのコメントを寄せています。

両先生のコメントをみると、防犯カメラに顔認証システムを採用している店舗は、その旨を店頭に掲示版などで掲示などをする必要があります。

4.顔認証データの共有
この顔認証データの共有化を推進している団体は、多様な業種の店舗に顔認証データを共有化しているそうです。多様な異業種間で個人データの共有をしているということは、個人情報保護法上は、これは「共同利用」(23条4項3号)とは呼べず、「第三者提供」(23条1項)をし合っているとしか評価できません。

したがって、これらの店舗や運営団体が顔認証データの第三者提供をお互いに行うには、本人の同意が必要であり、同意を得ていない個人データの本事例の共有は違法です(23条1項)。

5.東京地裁民事第31部平成27年9月17日判決(平成26年(ワ)10758号)
この点、防犯カメラ用の顔認証システム機器を開発、販売している会社が、その機器に関する記事を掲載した新聞社に対し、記事の内容が名誉、信用を毀損するものであるとして不法行為に基づく損害賠償および謝罪広告の掲載を求めた事案において、東京地裁はこれらの主張をいずれも退ける判決を出しています。

そのなかで、判決は傍論ながら、つぎのように述べています。

顧客の顔情報が無断で共有されているとの本件摘示事実を前提とすれば,店側が恣意的に誤って登録したとしても,当該顧客にはこれに反論し異議を唱える機会もないから,当該登録を取り消すこともできず,行ったことのない店舗で不利益な扱いを受けるおそれがあることももっともなことである。個人情報を第三者に無断で提供することを禁じた個人情報保護法に抵触するおそれがあるほか,提供された顔特徴データが犯歴や購入履歴などと結びついて個人が特定されれば,プライバシー侵害につながりかねないとの指摘も十分にあり得るところであり,本件記事における指摘は,意見ないし論評としての域を逸脱したものということはできない。』
(第一法規法情報総合データベース・判例ID28233584、山本一郎・鈴木正朝・高木浩光「ニッポンの個人情報のいま」3頁)


・ニッポンの個人情報のいま|エンタープライズジン

つまり本判決は、防犯カメラによる顔認証データの共有というスキームは、①店側が恣意的に誤った登録をした場合、顧客が反論を唱える機会がなく行ったこともない店舗で不利益を受けるおそれがあること、②本人の同意のない第三者提供の禁止違反という個人情報保護法違反であること、③顔認証データが犯罪や購買履歴などと結びつけばプライバシー侵害となりうることを明確に指摘しています。

6.個人情報保護法施行令・施行規則改正等のパブコメ
個人情報保護委員会が本年8月に、「個人情報の保護に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)」及び「個人情報の保護に関する法律施行規則(案)」に関するパブコメを行っていました。

その結果をみると、この顔認証データの共有に関して30件もの意見が寄せられていたことが注目されます。それに対して個人情報保護委員会はつぎのように回答しています。

『(略)
・なお、一般論として、個人情報取扱事業者がいわゆる顔認証データや本人を判別可能な顔画像を取り扱う場合、法第4章に規定する各種義務規定を遵守することが求められます。具体的には、例えば次の措置を講ずることが必要です。
・個人情報の利用目的をできる限り特定し、当該利用目的を公表又は本人に通知すること(なお、従来、防犯カメラにより、防犯目的のみのために顔を含めた画像を録画することは、取得の状況からみて利用目的が明らかであることから、法第 18 条第4項第4号に基づき、社会通念上認められるとされてきたところ。)。
・個人データを第三者に提供する場合、一定の例外を除き、あらかじめ本人の同意を得るか、法第 23 条第2項に基づくいわゆるオプトアウト手続を行うこと。
・本人からの保有個人データの開示、訂正等及び利用停止等の請求が法の要件を満たしている場合、これに応じること。
・当委員会としては、法の内容の周知広報に取り組むとともに、改正法の施行後に、法が適切に遵守されるよう、個人情報取扱事業者への必要な指導・監督を行ってまいります。』
(「「個人情報の保護に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)」及び「個人情報の保護に関する法律施行規則(案)」に関する意見募集結果(概要)」番号4)


このように、このパブコメでは個人情報保護委員会は良くも悪くも教科書的な模範答案的な回答しかしていません。

ところが、本年11月30日に結果が公表された、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編、外国にある第三者への提供編、第三者提供時の確認・記録義務編及び匿名加工情報編)(案)」に関するパブコメの結果では、この点について、個人情報保護委員会は一歩踏み込んでいます。

【寄せられた意見】
防犯カメラで、防犯目的のみのために顔を含めた画像を録画することは、取得の状況からみて利用目的が明らかであることから、個人情報保護法第18条第4項第4号に基づき、社会通念上認められるとしても、同時に当該防犯カメラから顔認証データを取得することは取得の状況からみて利用目的が明らかでないので、個人情報取扱事業者は当該利用目的を公表又は本人に通知する必要があることを本ガイドラインに明記していただきたい。【同趣旨の御意見は他に1件】』

【意見に対する考え方】
防犯カメラにより、防犯目的のみのために撮影する場合、「取得の状況からみて利用目的が明らか」(改正後の法第18条第4項第4号)であることから、利用目的の通知・公表は不要と解されますが、防犯カメラが作動中であることを店舗の入口に掲示する等、本人に対して自身の個人情報が取得されていることを認識させるための措置を講ずることが望ましいと考えられます。この他、防犯カメラ等に関する考え方については、Q&A等において示すことを検討してまいります。
(「【別紙1】意見募集結果(概要)」8頁)


つまり、個人情報保護法18条4項4号に照らせば、利用目的の通知・公表は不要ではあるが、「防犯カメラが作動中であることを店舗の入口に掲示する等、本人に対して自身の個人情報が取得されていることを認識させるための措置を講ずることが望ましい」と、個人情報保護に関する監督官庁が判断を示したのです。これは大きな一歩であると思われます。

7.経済産業省「カメラ画像利活用ガイドブック(案)」
なお、どのような事項を店舗等の入口に掲示すべきかですが、現在(本年12月15日まで)、経済産業省がパブコメを行っている、「カメラ画像利活用ガイドブック(案)」が参考になるのではないかと思われます。

・「カメラ画像利活用ガイドブック(案)」に対する意見募集について|経済産業省

これは商店街の店舗などにあるカメラで撮影した画像を商業目的で利活用する際のガイドラインであり、防犯目的ではないと冒頭に書かれています。しかし、商業目的より防犯目的のほうが被写体への人権侵害のおそれは強いことを考えると、防犯カメラの運用は、当然、この「カメラ画像利活用ガイドブック(案)」の掲げる要件をクリアする必要があると思われます。

「カメラ画像利活用ガイドブック(案)」18頁には、「カメラ画像の撮影及び利活用を開始する場合、ポスターなどで通知を行う必要がある。」として、その具体例がつぎのようにあげられています。

通知の際には取得するカメラ画像の内容及び利用目的を明確に記載し、あわせて、例えば以下の内容を記載する。

■ 運用実施主体の名称及び連絡先
■ カメラ画像の利活用によって生活者に生じるメリット
■ カメラの設置位置及び撮影範囲
■ カメラ画像から生成または抽出等するデータの概要
■ 生成または抽出等したデータの保存期間
■ 生成または抽出等したデータからの個人特定の可否
■ 生成または抽出等したデータを第三者へ提供する場合、その提供先 等


このなかで、とくに、①「カメラ画像から生成または抽出等するデータの概要」、②「生成または抽出等したデータからの個人特定の可否」、③「生成または抽出等したデータを第三者へ提供する場合、その提供先」の3点の通知が重要だと思われます。

■関連するブログ記事
・ジュンク堂書店が防犯カメラで来店者の顔認証データを撮っていることについて

・プライバシー権からジュンク堂書店が来店者に無断で顔認証データを取得していることを考える

・全国の防犯カメラに映った万引き犯の映像を共有化するデータベースの構築は許されるのか?

個人情報保護法の逐条解説 第5版 -- 個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法



個人情報保護法のしくみ



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