余裕の原人 と 疑惑のじいさん と 沈黙の布団・・
そもそもこの百坪の土地は原人が帰国した時の新居になる予定だったようだが、血迷った原人が両親を説得して畑にしてしまったのだ。
野人と出会わなかったらさぞかし立派な家が建っていたことだろう。
原人は自分の住処のことなど深くは考えていない。
「おい・・回りは住宅だらけ、しかも管理人はフランスで夏まで帰らん。ジャングルになれば近所迷惑だろうが」と言うと、原人は涼しい顔で言った。
「隣のこれ・・うちのアパート・・」・・
まあ、この前までジャングルだったからいいだろう。
ドカチン作業は目立つようで近所から見物人が何人か来た。
その中の一人、じいさんが言った。
「これ・・畑にするの? 本当に・・? するの?」と。
原人は余裕をかまして言った。
「そう~」
そう言う原人の足元にはデカイ石が転がっていた。
火花が散る土に、石ころに、排除不能なほどの笹竹の根だらけだが、まあいいだろう、溶岩に比べればはるかにマシだ。
立派な門には、表札の代わりに「○○農法実験実証農園」と言う大そうな看板が立つらしい。
地下足袋デザイナー作の怪しげなロゴまで出来ていた。
さすが東大物理学博士の原人だ。探究心は羞恥心に勝る。