東シナ海流13 伊勢海老が食べたい | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

海はまだうねりが残っていたが船は出せる。

じいさんと中島みゆきさんと谷山浩子さんを乗せて朝五時から釣りをやった、水深はいつもの30mだ。

潜って調べたポイントにアンカーを入れて開始だ。

仕掛けはすべてが大物対応、20キロがかかっても耐えられるようになっている。

釣れる魚は3キロ前後のハタ類とヒラアジ類がほとんどだが、たまに10キロを超える魚がかかる。

レインボーランナーと呼ばれるツムブリやカンパチ、それにシロダイやフエフキダイも多く、トローリングをやれば常にカツオやキハダ、カマスサワラの20キロ級がかかる。

クーラー一杯、10匹くらい釣ったところで犠牲者が出た、谷山浩子さんだ。

うねりに船酔いしてグロッキーになってしまった。

介抱していたが症状が酷く、結局帰港する事になった。

昼から再度出航、谷山さんを残して船で温泉へ渡る事になった。

活火山、御岳の麓の「作地浜」には温泉が噴き出していた。

浜までの道はなく、船で渡るしか方法がないのだ。

昼から合流した2人と共にじいさんと中島さんを浜の近くの磯に渡した。

皆で温泉に入っているのを見ながらすぐ沖で待機していたが退屈で仕方ない。

少しだけ沖の水深80mでカンパチを狙うことにした。

たて続けに10キロ近いカンパチが二匹釣れたので、じいさんに見せびらかそうと船を温泉に近づけた。

両手にカンパチぶらさげてデッキの上で一回転して踊って見せた、「ホレホレ~!」と。

それを見て露天風呂から立ち上がったじいさんが両手で手招きしている、

やはり釣りたいのだ。魚の誘惑には勝てない悲しい性だ。

今回は深場だからじいさんには無理だが、無理と言えば叱られる、やめとけば良かった・・・

後悔しても後の祭りだ。

結果、やはり釣れなくて八つ当たりが待っていた。

自分で墓穴を掘ったのだから今回は仕方ない、中島さんはケラケラ笑っているだけだった。

帰ってからカンパチをさばこうとしたら、じいさんが急に伊勢海老が食べたいと言い出したが、船も陸に上げて疲れているし、つい「無理ですよ」と言ってしまった。

案の定「獲ってみないとわからないだろうが!」と怒る。

「何処で?」と聞くと、「ジープで港へ行って潜ればお前ならすぐ獲れる!」とのたまう。

結局港まで走り1時間で帰ってきた、デカイ伊勢海老3匹ぶらさげて。

じいさんはニコニコ顔だ。

いつもなら「つま恋」の料理長を連れてくるのだが、今日は収穫だけでなく調理まで自分がやらなければならない。

伊勢海老はいつもぶつ切りにして味噌汁に放り込んでいたが、じいさんは刺身にしろと言う。

やりかたは知らないが要するに身を取れば良いのだ。

ジープから工具箱を持ってきて錆びたカナヅチで一匹「バカン!」と割った。

見ていたじいさんが言った。「それを・・わしに・・食わせるのか?」と。

じいさんは怒らずに包丁を持って海老の解体法を教えてくれた。

「こうしてまず腹を裂いてからやるのだ、わかったか」と。

そして海老の殻に刺身を綺麗に盛り付けた。

なるほどと感じながら同じようにやってみたが、社長に習った始めての調理だった。