南天で毒殺を防いだ武士の知恵 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

和風家屋のトイレの横には南天が植えられているのをよく見かける。子供の頃、やはりトイレの横には南天があった。深く考えたことはなかったが、それなりの理由があったようだ。南天はのど飴が有名だが、それ以外にも使われていた。赤飯などの上には南天の葉が乗せられていた。惣菜の仕切りも今はビニルだが以前はハランの葉が使われていた。また、おむすびを包むのには竹の皮と、色んなところに植物は利用されていた。竹の皮は殺菌作用がある優れもの、防腐剤が氾濫している今こそ活用すべきではないだろうか。特に夏は風情があり重宝するはずだ。是非ハランも復活させてもらいたい。あの緑のビニルは邪魔で無粋でゴミになるだけだ。あの飾りで喜ぶ人はどうかしている。誰も声を大にして文句言わないからまかり通っているようなものだ。南天の葉には防腐効果があるから、作り置きしておく赤飯などに使われていた。南天をトイレに植えるようになったのは江戸時代から。比較的大きな武家屋敷ではそれが当然のように慣習になっていた。目的は解毒剤として使う為だ。後継者問題がこじれると毒殺される恐れがある。毒を盛られたとわかればすぐに「厠」へ、廊下から手が届く南天の葉を噛んですぐに「もどす」為に必要だった。手洗い用の水も横にあり便利だった。

現代のように医療技術が十分でない時代、すぐに全部もどせるかどうかが生死の境目になったようだ。つまり武家の当主が生き残るためにトイレの横に南天が植えられるようになった。正確にはトイレの手前の廊下だった。昔の家は必ず縁側の廊下の突き当たりがトイレになっていた。古い旅館などはその名残が残っている。そしてやはり南天が植えられている。現代は毒殺される人などいないだろうから別に南天でなくても良いはずなのだが、やはり南天には風情があるのだろう。夫婦仲が悪くなり、相方が急に薬草の勉強を始めたら、南天を植えたほうが良いかもしれない。それと保険金のチェックも忘れずに。