野生のハーブ 食品着色料 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

子供の頃、よく木の実を食べた。野いちご、シイ、マキ、アケビなど、その中で何を食べたかすぐに発覚するものがあった。「ア~ンしてごらん!」と言われ、口を開けるとすぐにわかってしまう。舌が紫色になったままで、うがいしてもなかなか落ちない。たぶん記憶にある人もいるだろう、桑の実だった。「またそんなものを食べてきて!」とよく叱られた。大人にしてみれば木の実は下品な食べ物という感覚があったのだろうか。何万年も続いた狩猟採取の時代のDNAは子供だからこそ息づいている。黒っぽい小さな実が鈴なりになる「シャシャンボ」と言う木の実がある。海岸沿いに多く、甘くて美味しい。暖地性でブルーベリーの仲間だ。十数年前、たくさん採取して料理長に渡した。それで作ったシフォンケーキは見たこともないような鮮やかな紫色で、クリスマスディナーショーでお客様に出された。同じように進言して、タンカンで作ったシャーベットは、料理長も感嘆するほどの鮮やかな黄色だった。他のオレンジ類ではあの色は出ない。

現在、着色料の毒性がクローズアップされ、赤色青色何号とかの合成着色料には日本以外の国で使用禁止になっているものが多い。発がん性、アレルギー性などの恐れがあるとの理由だ。天然着色料と呼ばれるものさえも薬品で処理する為問題視されている。安全な着色料で身近なものと言えば、梅干の赤シソやカレーのウコンやクチナシだ。

あるリゾートホテルではケーキの黄色にクチナシを使っていた。1万円分のクチナシの実を保存していたので担当者を調理場の庭に連れて行った。そこにはクチナシの木が無数にあり、実がびっしりとついていた。毎日クチナシの木の側を通っていたのだが誰一人それに気づかなかったのだ。宝の山を前にしてうなだれていた。クチナシは、野生種は花びらが一重、改良した栽培種は八重で綺麗だが実はつかない。地方によっては餅と一緒についたり、おかきなどに使われている。小粒だが、暖地性の山ぶどうの仲間、エビヅル、サンカクヅルもブドウよりはるかに色素が強い。グミやガマズミなどは赤い色。クチナシのように単純な乾燥保存で色が残らなければアルコールやシロップ漬けで残せる。現在の着色料が不安なら自分達で研究して楽しんでみたらどうだろう。お金を出せば何でも買える時代、しかし本当のスローフードとは自分で答えを出すもの、食材だけでなく、香りも色も野山には溢れている。紅葉や草木染めを楽しむのもいいが、野草茶など、身の回りの自然界にある食の世界を趣味にして楽しんだほうが健康の為には良いのではなかろうか。ハーブとは元々自生する有用植物のこと。ヨモギもセリもクズもクチナシもそうだ。薬、食、色、香など古くから幅広く利用されているものなのだが、ハーブ園のように日本人独特のイメージが独り歩きしているような気がする。