強制執行の実態は知っておいたほうがよい。 | 向原総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ

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民事訴訟では、

訴えを起こす→判決→判決に従わない場合、強制執行ができる。

というルールになっていますし、教科書にもそう書かれています。

しかし、実態は大きく異なります。

強制執行には、差し押さえる対象物によっていくつかの種類があ
ります。ここでは、とくに、動産執行の実態について知っておいて
いただけたら、と思って書きます。

私が司法修習生のとき、執行官に、強制執行(動産の差押)の現
場に連れていっていただいたことがありました。

強制執行の根拠となる債務名義は、携帯電話代金請求権の判決
でした。

つまり、未払の携帯代を強制執行で回収して回るのです。

とある住宅街。立派な一戸建てに執行官が入っていき、私たち修
習生も立ちあわせてもらいました。
「執行できる財産ないですね」

え!?大きなテレビとかタンスとかあるじゃんと思いました。
しかし、執行が効を奏さなかったということで、執行官は「執行不能
調書」を作成して、執行手続は終了しました。

そういうのを何件も繰り返して、裁判所に戻って来ました。

要するに、立派なお家をもっていて、立派な家具をもっていても、
動産執行はほとんどできないのね、ということなのです。

これにはいくつか理由があって
・執行にかかる費用(動産を動かすとなると、トラックや人夫の経費
もかかる)がもったいない(債務者本人は支払えないことが多い)
・差押禁止動産というものが、法律上定められている(生活に必要
な家財は差し押さえできない)。この範囲が意外と広い(と、私は
思っている)

ではなぜ裁判をして判決をもらい、執行まで申し立てるのか。

債権者の狙いは「執行不能調書」です。
執行官が作成する「執行が効を奏さなかった」という調書。

これさえあれば、債権者たる企業は、税務上、焦げ付いた債権を
損金処理できるからです。

裁判所の動産執行制度は、大企業の損金処理のためのアリバイ
作りにしかなっていない。
あるいは、「執行」という言葉を利用して、債務者に任意に支払わせ
るためのブラフにしかなっていない。これが実情です。

逆に言えば、債務者側は、踏み倒し完了となります。

これでは、逃げ得になりますね。
司法改革といっても、権利実現手続(執行のことをこう呼ぶ)にはほと
んど手を付けられていません。本体の改革もアレではありますが、
出口にあたる権利実現手続がこんなことでは、権利の実現は不可能
だし、社会が成熟して誰もが司法を見くびるようになると、ますます権
利は実現されなくなります。

私は、そのような傾向が年々強まっていると感じています。
執行制度は、根本的に見直しが必要だと思います。

※他方で、弁護修習中にも動産執行の現場に立ちあわせていた
だきました(動産執行にこれだけ出くわすのは珍しい)。
このときは、かなりのお金とモノがあったので、現金や商品をがっ
つり差し押さえて、対象物にいわゆる「赤札」を貼り、後日これを競
売するところまで立ち会わせていただきました。
そういうことは珍しいそうです。