1月17日(土) | 元木昌彦の「編集者の学校」

元木昌彦の「編集者の学校」

「FRIDAY」「週刊現代」「オーマイニュース」など数々の編集長を歴任
政治家から芸能人まで、その人脈の広さ深さは、元木昌彦ならでは
そんなベテラン編集者の日常を描きながら、次代のメディアのありようを問いただす

 三ノ輪へチンチン電車で行ってきた。JR大塚駅から乗って、飛鳥山、王子、町屋を通って3時頃到着。

 永井荷風縁の投げ込み寺「浄閑寺」へ行って、荷風の碑を拝す。その後、ぶらぶら歩いて日本堤二丁目にある居酒屋「芽吹」へ。

途中、東尾久1丁目の交差点で見つけた「元祖植田のあんこ玉」を買う。30個入って280円也。近くの公園で、自販機で買ったお茶と一緒に食べたが、きな粉がまぶしてあってほんのり甘い上品な味。

「芽吹」については、坂崎重盛さんの本「東京煮込み横町評判記」(光文社)に、こう書いてある。

「女性客がいる。いや、女性客も入れる、店なのだ。しかも、ここの煮込みが抜群。牛すじ系で、森下の『山利喜』方式でガーリックトーストもある。付きだしがカキフライですからね。やっぱりヤワな私としては、あまりにタフで濃い店よりは適度にフツウの店のほうが性に合っている」

 ここは「山谷地区」と呼ばれる地域である。台東区清川一・二丁目、日本堤一・二丁目、東浅草二丁目、橋場一・二丁目と荒川区南千住一・二・三・五・七丁目 がそれにあたるそうだ。少し先に吉原大門がある。

 簡易宿泊施設が多くある。土曜日なので、スーパーの前や道路に三々五々、「労働者」風の人たちが群れているが、こちらがそう見るせいか、町全体に活気がないような気がする。

 週刊誌にあったように、外国人、それも、若い連中の姿が見られる。バックパッカーたちは、不景気で、ドヤにも泊まれない人たちが多くなって、空いた簡易宿泊所に泊まるようになったのだ。

 坂崎さんのいうように、「芽吹」はきれいで、メニューが豊富。しかも美味い。安い。素敵な店である。

 焼酎のお湯割りを呑みながら、片っ端から頼んで3時間半。お勘定は8千円と少し。

 若い頃は、よくこの辺に来てホッピーや焼酎のロックを呑みながら、うまい魚を食べたものだった。山谷で働く人たちは、一日の仕事が終わると、この辺りの居酒屋で呑むのが楽しみである。彼らは、酒と料理に大変うるさいのだ。ちょっと変なものを出すと怒られるから、この辺の店はハズレがないと、ここに住みついた人に聞いたことがあるが、そのことを思い出した。

 この近くの台東区竜泉3丁目(旧下谷竜泉寺町368番地)に、樋口一葉は暮らしながら「たけくらべ」を書いた。名所旧跡、安くて美味い店が多い、心温まる下町である。