「水野真紀の魔法のレストラン」 制作の舞台裏 一挙大公開!! | ラテン系企画マンの知恵袋

ラテン系企画マンの知恵袋

ブラジル仕込みの企画マンから書評、講演、実体験等、
最新のビジネスシーンから情報更新していきます!
(なお、本ブログは個人の責任で書いており、所属企業とは無関係です)

放送作家わぐりたかしさん主催の第1回「フードメディアフォーラム」に参加して来ました。記念すべき最初のゲストスピーカーは、カ リスマTVプロデューサー本郷義浩さん。MBS毎日放送『水野真紀の魔法のレストラン』の仕掛け人で、ゴールデンタイムの料理情報番組800本以上制作、これまでに担 当番組で取材した飲食店は、10,000軒以上。また、Facebookで「油断大敵教会」を主催されたり、世界でただひとりの「麻婆豆腐研究家」であったりと、フードビジネスシーンにおいて最もホットなお方のひとりです。

ご講演では、12年に亘る長寿番組「水野真紀の魔法のレストラン」の舞台裏を大公開頂きました。普段、絶対に知ることのできないTV番組制作過程を余すことなく。内容、ブログに書いてもいいですか?とご本人に確認したところ「問題ないよ」と、実に太っ腹。では、早速、内容をご紹介させて頂きます!

まず、番組つくりで重視している視点は、「社会性」「情報性」「娯楽性」「情動性」の4つ。近年のwebの発達によって、単に「お店を紹介する」「レシピを紹介する」だけでは、食べログやCookpadで代替可能であり、番組として成立しない。

常に視聴率のプレッシャーと戦わなければいけないのは民放の宿命。関西エリアには、約2000万の視聴世帯があり、視聴率10%ということは、200万世帯に興味をもってもらわなければいけないということ。料理好きな人だけを対象にしたのでは、この数字は達成できないので、その他大勢の人に興味を持ってもらう工夫が必要となる。それが、「社会性」や「娯楽性」ということであり、キーワードは「サプライズ」。

「サプライズ」の基本は、まず、疑問を提示し、視聴者に考えてもらうこと。「この看板メニューには意外な隠し味が入っています。さて、それは何でしょう?」。こう聞かれると、自然と答えが知りたくなる。期待感が醸成された後にタネあかしされることで感動が高まり、記憶にも残る。そして、また、番組を見たいと思う。こうした、心理学・脳科学的なアプローチが非常に重要なのだ。

「時短料理」というテーマに関しても、単に「3分でできるメニューを紹介します」というのではありきたりなので、「1分クッキング」、それもストップウォッチ片手にガチでやる。時間内に完成しなかったらエンドロールを流して、そこで終了。そういう演出が「娯楽性」に繋がる。

娯楽性のもうひとつの事例としては、2010年以降、主流となっている「街ぶら系」。これは、2009年にひたすら「激安情報」ばかりに頼った反省と反動から生まれたもの。ルーレットを回して、「7つ目の駅」と出たら本当にそこで降りる。そこで道行く人に「この近くにおいしいお店ありませんか?」と聞く。聞いた情報を元にタレント自ら取材交渉を行う。OKであれば、そのままテレビカメラが突入。ぶっつけ本番、やらせなし。

この企画を20本以上やってきたが、毎回、必ず面白いことが起こる。偶然、知り合いに会ったり、入ったお店が、タレントが昔通っていた小学校の近くであったり。こうした、偶発性(セレンディピティ)は、娯楽性の一要素であり、今後のテレビ番組の可能性を示唆するひとつの方向性であると考えている。

「街ぶら系」に限らず、お店を紹介する際は「1次情報」を重視している。他の雑誌やwebで紹介されていたお店に頼るのではなく、自分たちで歩いて探す。ディレクター10人、リサーチャー3人、構成作家3人で分担して、ひたすら歩く。

「情動性」に関しては、ヒューマンドキュメンタリーである「プロメテウスの炎」がその象徴。会場では、鶴橋にある老舗焼肉屋「焼肉の吉田」の事例が紹介された。無縁ロースターをいち早く導入し、家族連れや女性客をターゲットにした新しい焼肉屋を目指したが、最初は泣かず飛ばず。その後、質の良さがクチコミで広がり、大繁盛。ところが、不注意から火事を起こし、店舗が全焼。その際、茫然自失となっていたおかみに、従業員や、お店の大ファンであった赤井英和等が励まし、救いの手を差し伸べる。そこで再起を決意し、仮店舗で営業を続け、半年後に本店舗で営業開始。といった、波乱万丈、お涙ちょうだいの物語。

ドキュメンタリーにもひとつの「型」があり、その人物の人生(現在、過去、未来)の触れ幅が大きいほど、面白い。過去にどれだけ挫折、失敗しているか?それを、どう乗り越えたか?現在の華やかなシーン。でも、未来はどう転ぶかわからない。スポーツ選手などは、この「型」にはめやすく、鉄板。逆に、旬の俳優・女優などは、意外とつまらなかったりする(そのファンしか見ない)。更に、ドキュメンタリーを盛り上げるには、ひとつ、コツがある。それは、主人公の舞台となる都市の現状や歴史を絡めて紹介すること。これにより、ぐっと奥行きが深まり、主人公がより引き立つという効果が見込める。

「情報性」に関しては、最もこだわりが深い。なぜなら、テレビ局に入社以降、「テレビ番組は小学6年生にわかるように作れ」と叩き込まれてきたことに対する反発からだ。視聴率至上主義の弊害であり、これが民放の番組のレベル低下に繋がっている。ずっと、そう感じていた。

2012年以降、「魔法のレストラン」では、「知的好奇心」をいかに呼び覚ますか?に取り組んでいる。その代表例が「カプサイシン研究所」。唐辛子に含まれるカプサイシンの辛さは、実は味覚ではなく刺激である。辛味は「五味」に含まれない。その証拠に英語ではHOTであり、「辛い」「痛い」「暑い」を意味する。カプサイシンを摂取すると、その「痛み」を和らげるべくβエンドロフィンという脳内快楽物質が分泌される。これにより脳は「気持ちよい」と感じ、脳にその余韻が残る。そして、また食べたいという欲求に繋がる。つまるところ、料理ビジネスとは、「脳内快楽物質」をどれだけ出すことができるか?であるとも言える。

こうした取り組みは、「情報性」のみならず「娯楽性」にもつながり、結果、視聴率にも貢献する。

もちろん、視聴率を稼ぎ出す為の、「鉄板法則」も存在する。

メニューで言うと、視聴率が取れる「鉄板メニュー」は以下の7つ。「寿司」「串かつ」「お好み焼き」「焼きそば」「焼肉」「讃岐うどん」「ラーメン」。逆に、フレンチはダメ。大阪のおばちゃんはフレンチには興味なし(笑)。

では、視聴率は取れる鉄板タレントは?

意外にも、ガッツ石松。バナナを食べているシーンとかで視聴率が上がる(理由は不明!?)。石ちゃんは、視聴率に波がある。実は、橋下(大阪知事)さんもよかった。橋下さんがレギュラーの頃、番組視聴率が最も高かった。橋下さんが、公職につき卒業した後、「ヘキサゴン」が裏番組になったことも重なり、苦戦を強いられた。

最後に、プロデューサーとして特に心がけているのが、以下の2点。

■「権力構造」をきっちり作り上げること。ミニマム集団ですばやく意思決定を行い実行できるチームを作り上げるのが、プロデューサーの最大の仕事。過去、タレント事務所やスポンサーの干渉に妥協し、失敗した苦い経験から。

■「論理的に考えて番組つくりを行い、うまくいった理由を再現可能とすること」。映像編集の分野などは、とかくアートと思われがちであるが、ここにも「型」が存在し、その蓄積がノウハウであると考えている。これを組織知とし、横展開可能とする。プロデューサーとしての権力を行使し、ディレクターにダメ出しを行う際は、常にこの目的に照らし合わせている(権力の乱用は、質の低下に繋がる)。

とこんな具合に、「ヒット番組の舞台裏をのぞき見る」という観点からも、「他のビジネスにも応用できそう」という観点からも、本当にたくさんのことを得ることができました。本郷さん、わぐりさん、どうもありがとうございました。

<備考>
フードメディアフォーラムは、従来のフードジャーナリスト会議が進化したものです。フードジャーナリスト会議に関しては、こちらの関連エントリーをご参照くださいませ。

<関連エントリー>
■グルマン世界料理本大賞@フードジャーナリスト会議
http://ameblo.jp/motohiro0215/entry-10699658769.html


■放送作家わぐりたかしさん主催の秘密の会に潜入!!
http://ameblo.jp/motohiro0215/entry-10314350954.html