平沢家の建物考察については多くの方々より
いろんなご意見をいただきありがとうございます。
そもそもは「けいおん!」の中で平沢唯の家がかなり頻繁に出てきて、
なおかつ、その家がなかなか特徴的な印象を残していたのが、
この家に興味を持ったきっかけなのですが

実は、もっとも興味があったのが、あずにゃんの家なのです。
正確には建築としてのあずにゃんの家本体は物語中ほとんど出てきません。
出てくるのはあずにゃんがくつろぐ、友達と会う、いろいろと悩み考える部屋、
20畳くらいはあるでしょうか。
壮観なのはものすごい数のレコードコレクション、そのインテリア。

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その部屋には、なんとあの、コルビュジェの椅子らしきものがある。
これですね。
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コルビュジェの椅子と言われても、建築の専門家でないとなかなかピンとこないとは思うのですが、
以前、このブログでも採りあげた、20世紀建築の大大巨匠なんです。

参照:
自称カラス君、ル・コルビュジェという人

というわけで、このコルビュジェさん(この名前は自称のあだ名なんですが)という人のことを、
日本の建築設計者のほとんど、まあ9割9分は名前くらいは知っている。
一級建築士の学科試験に出てくるくらいですから、、

でもって、コルビュジェの椅子はつい数年前までは建築マニア垂涎のアイテムだったんですよ。
カッシーナというイタリアの家具メーカーがありまして、そこでしか扱っていなかったんです。
値段も数十万円していました。

それが、なんと、この桜ヶ丘高校の軽音部に所属する一介の女子高生あずにゃんの家にある。
紬の家ならわかります、実家が何か手広く商売をしているお嬢さんらしいから、
エピソードの中でも、いくつも別荘があったり、唯のギターを格安に出来るような実家のパワー。

でも、あずにゃんの家はそんな風には描かれていない。
お父さんがジャズをこよなく愛する人らしいんですがね、、そのため膨大なレコードのコレクションがあります。

そこでコルビュジェですよ。
コルビュジェの椅子ですよ。

と思ってみていたのですが、
あれ?これ本当にコルビュジェなの?ちょっと違うくないか?
と気付いたわけなんです。
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これが本物のコルビュジェのラウンジチェアですね。
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で、これがあっずにゃんの家の椅子ですね。

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気になったこととは、この椅子の曲がり角度についてなんですが、、
どうなのか、、この曲がり感。
曲がり過ぎなんではないのか?

これ本当にコルビュジェなの?

といった疑問ですね。実はこのコルビュジェの椅子、数年前までは入手も困難、価格も効果、それこそ高嶺の花だったんですが、
昨今デザインの版権というか著作権が切れたのか、レプリカがすっごく安く手に入るようになったんですよ。
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そうなってしまうと、このコルビュジェの椅子は
元々、そんなに便利だとか、リクライニングが快適とか、そんな機能的な用途よりも、
所有する人にとって、
かのコルビュジェ様がデザインしなすっただ~!という情報価値、
ステイタスの方が優先していたわけなんです。

その証拠に、あれほどコルビュジェ狂いだらけの日本の建築設計界において、
知っているとか、
写真に撮ったとか、
顧客にオススメしたとかという話は多いのですが、
自分でも持っているとか、
愛用しているとか、
そんな話はあまり聞いたことがない。
専門家たちがコルビュジェの家具~!と憧れてはいるものの、
買うとこまで、そこまでは無理!という方々が多いのも事実です。

あずにゃんの家にあるのが本物のコルビュジェのラウンジチェアなのか、
お父さんがシャレで買ったものなのか、
そこらあたりが不明であったのですが、、、エピソードの中にヒントがあったんです。

第二期6話で
澪 「梓は大丈夫だったのか?」
梓 「はい。わたしはギターケース用のレインコートを使ってますから」
唯 「ええ、そんなのがあるんだ」
梓 「ネットで買ったんです。結構便利ですよ。3000円するのがイチキュッパで
おまけにギター用の乾燥剤もついてきたんです。
それからこれもネットで買ったんですけど、ほら、壁にくっつくギターハンガー。
肉球の形してるんです。
あっ、これが指が大きく開くようになる強化グッズで。
他にはですね、寝ているあいだにリズム感が養えるCDなんてものもあるんです、
澪 「梓・・・」
梓 「はい」
澪 「それ、みんな役にたったのか?」
梓 「えっ?!(赤面)」

何だかあずにゃんは通販とかバッタもんに弱いということが分かります。
軽音部の仲間が引いちゃうくらいに、なんか変なグッズを購入してますよね。
親子で似たような性格かもと考えるならば
この椅子もあずにゃんのお父さんがネットか通販で買ってしまったのではないか。

とするなら、この椅子も実はコルビュジェ風モデル?
あずにゃんパパ大丈夫か、、
この椅子に座ってるシーン1回もありませんし。

まあ、それはさておき、あずにゃんこと中野梓の家はなかなか凝っているんですよ。
特にこの大窓です。
大きな開口部を細かく正方形で割ってある。
これ、アルミサッシュではないんです、窓枠の桟が細いでしょう?
これはですね、スチールサッシュです。

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アルミサッシュとスチールサッシュ何が違うの?と思われるでしょう。
同じ金属でも強度や加工の容易さが違うのです。

アルミは鉄より強度的に弱いですからどうしても部材が太くなるんですね、しかもアルミ型材というのは、トコロテンのように押し出し成形によって作られるのであらかじめ断面形状が大量生産向けに決まってしまっていることが多い。

しかし、スチール・鉄の場合は曲げ加工や溶接により自由に加工がしやすい、しかも強度もある、ということで細くシャープな窓が作れるんです。

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もしかしたら皆さんお気づきと思うのですが、戦前の古いビルや工場、変電所などの窓はとてもかっこいいのに、その後リフォームされたり新築されたりしたときに、あれ?なんかダサくなっている。と思われたことはないですか、
多分それは、窓のサッシュがスチールからアルミに交換されてしまったからなんです。

そんな理由で、中野家のこの窓はどうやらスチールサッシュらしいんです。
しかも、このように方形に細かく割っていくデザインは、
ウィーンの建築家アドルフ・ロースを彷彿とさせる処理です。

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アドルフ・ロース、1870年生まれ。近代建築
黎明期の巨匠のひとり。オーストリア、ウィーンで活躍する。「建築への装飾は害を及ぼす」とドラスティックな提言をおこなうことでそれまでの様式建築を否定し、単純な構造と幾何学的な機能構成のみで建築の美学を成らしめようとした。現代でこそ一般的になったいわゆる白い四角な建築物を、周辺環境から自立した自律的物体と考える、抽象形態のみによるデザインを建築家の自覚的表現として意識的に取り入れた最初の人。哲学者ヴィトゲン・シュタインにも影響を及ぼしている。

近代に入って大判のガラス製造が可能になったことにより、やたら大窓で大ガラスにするのがデザインの主流になっていますが、それは大ガラスの製造方法が確立された頃こそビックリさせる効果があったと思うのですが、デザインとして窓の表情を考えたときに、ただ単に一枚ガラスの開口部はなんだか間延びした印象を受けませんか。

それと比較したときに、ロースの建築の窓の表情は、
単純なのに、なんだか品があっておしゃれに見えますよね。
それは窓を桟で細かく割っているからなのです。

そういった意味では、中野家の窓を設計した人はなかなかデザイン巧者だと思います。このように格子状に窓を意図的に割っていってデザインできる建築家というのは日本ではなかなかいなんですよ。

唯一思い当たる日本の現代建築家は藤井博巳さんです。

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藤井博巳さんは1933年生まれ、グリッド=格子による空間や形態の規律性によって、恣意的でない形態的秩序によって建築空間を表現しようとした人です。幾何学的なモデルによる結晶構造のような構成美が、日本の伝統的な表現の現代化の成功例として、70~80年代には海外でも圧倒的な評価を受けていた建築家です。
イタリアの建築家ジュゼッペ・テラーニとか、アメリカの現代建築家ピーター・アイゼンマン等とも比較参照されるほどの、哲学的な建築家のひとりです。

Giuseppe Terragni ジュゼッペ・テラーニとは
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Peter Eisenman ピーター・アイゼンマンとは
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しかし、あずにゃん家はそんな藤井博巳さんに家のデザインを依頼したのでしょうか、
それはそれで建築通も度を越して、超マニアックな選択ですね。

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また、玄関のシーンを見る限り柱型が大きく出っ張っていますのでこれ明らかにRC造。建物の外観を見ることもないので中野家はマンションか、リスニングルームやスタジオ付きの
低層の集合住宅である可能性が高いです。