日本を含め世界の建築が白く、四角く、ガラス張りになってしまったことの事由のひとつにフランスの建築家、ル・コルビュジェという人の存在があります。この人のことを現在でも建築の設計をする人たちは、アイドルとして尊敬もし、また完全に影響下にあるということで、ロックにおけるビートルズのような感じ、性格には20世紀を代表する文化の立役者のひとりとして、認知されています。

この人は、絵画でいうところのパブロ・ピカソ、経済学でいうところのケインズ、コンピューターでいうところのフォン・ノイマンに匹敵するくらいの影響力、戦前から戦後にかけて、世界中を席巻した近代建築運動の立役者としても建築デザイン業界では有名です。

この人は、元々建築士ではない。時計のデザイナー、そこからオーギュスト・ペレー、ペーター・ベーレンスという先生の元で修行して建築家になった。

本名は、シャルル・エドゥアール・ジャンヌレ・グリという人ですが、あるときから「カラス君」という意味のル・コルビュジェを自称するようになりました。
フランス語でカラスとはcorbeauですが、このコルボウではなくカラスちゃんとかカラス君といったニュアンスを自称していたことは当時のアーチスト的な独特のしゃれっ気なんでしょうね

建築エコノミストのブログ


で、このル・コルビュジェさんですが、現代建築に影響を与える提案を数多くおこなっている人なんです。
近代建築の五原則というものがあります。
ピロティ → 高床になって浮き上がって地面が使える状態、現在では駐車スペースになったりしています。
屋上庭園 → 屋根をなくして、陸屋根にして屋上を使えるようにしようというもの
自由な平面 → 構造計算によってプランから固定壁をなくして、間仕切りを構造とは無関係に設定する。
水平連続窓 → 壁を構造部材からはずしてしまえば、窓が柱に左右されなく設けることができるの。
自由な立面 → レンガ壁に替わってコンクリートの柱と梁で壁面のどこでも窓が取れるようにする。

建築エコノミストのブログ


当時は、建設工法がいまだレンガや石の積み上げ工法が一般的であったので、上記の工法は非常に画期的でもあり、ギリシャ、ローマから続く西洋の積み上げ型の壁工法に制約された歴史的様式を用いなくてもかまわない。ということで、美術の世界での抽象絵画の勃興と期を同じくして当時のアバンギャルドな評価から戦後は打って変わって、このル・コルビュジェさんのやり方が一般解として世界中に広まったのです。

で、そこまではいいとして、この近代建築の手法が日本で広まった最大の要因は、やはり戦後の復興と関係していると思います。それまでの伝統文化と西洋の様式との間でいかに建物の姿を考えるか、で苦悩していた戦後の建築デザインのあり方から

それを用いなくてもOK、複雑な部材の組み合わせや装飾的な部材の準備をしなくてもOK、むしろそういった建築様式に対する教養がない、構造と機能にのっとるだけでこの近代建築の5原則に合致しているのだから褒められていいはずだ、装飾などの職人の手も必要ないので予算もかからなくて合理的だ、シンプルイズベストだ、と白い四角な縦線横線の建築がモダンなんだ、との大義名分と大号令が戦後の日本の建築界の主流になったのでした。

結果としてどうなったのか、、、日本中どこにいってもなんか同じような箱物が乱立、建築の美的教育を受けなくても、センスがなくても、この近代建築の5原則を守っていればいい!という短絡的な公式や法則が大好きな理数系エンジニアによる建築設計が大手を振ってまかり通ってしまいましたね

文化としての建築よりも分析結果としての建物、雰囲気としてのしつらえよりも機能としての間取り、地域素材伝統工芸よりも一般解としての普遍的素材による構成。といった物理数学的な計量的価値観だけの建築群が乱立してしまい、全国どこへ行ってもなんだかわからない箱モノができあがってしまう元をつくったのですよ

この自称カラス君とその盲目的追従者たちがね。カラス君は最初のころこそアバンギャルドとしてこの5原則にのっとって建築デザインを構成していましたが、後年は地域性を意識した現代建築のありようを模索していました。しかし、彼の信奉者たちは教条派なのでわかりやすい形式を求めたんですね