ひきつづき「けいおん!」登場の平沢家についてですが、
デザイン的にもいくつか解せない部分があるのも事実です。


特に、平面検討のときに問題視していた突き出し型の玄関部分です。
ここは平面だけでなく、断面的にも問題というか奇妙な処理があります。

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それは、この上吊り型の庇の存在なんです。
なぜ、この庇が必要なのか?
この庇は必要ないと思われるのです。

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断面を検討すると明らかなのですが、
平面検討時にわかった耐力壁確保のためのコーナー壁をうまく使い、
洞穴状の玄関ポーチが確保されているため、雨の日でも玄関扉の前は濡れないんですね。

では、なんで庇がついているんでしょうかねえ。

この玄関部分がこの建物の顔となるファサード部分なので、
そこだけちょっと立面にしてみました。
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細長方形の中心に窓を納めて左右対称にシンメトリーなデザインになっています。
このシンメトリーという処理は、古代エジプト、ギリシャをはじめ建築の様式美のひとつです。
ルネッサンス期には「シンメトリーは美の規範」とまで言われておりました。
この平沢家の立面図を眺めていて、何か見たことがあるぞと、この感じ、
と思っていたんですが、
安藤忠雄さんの「住吉の長屋」という有名な建築作品に似ているなと気付いたんです。
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シンメトリーの処理は現代建築デザインにおいてはコンクリート打ち放しで有名な安藤忠雄さんが多用されています。
平沢家の入り口はこれをリスペクトしているのかもしれませんね。
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「住吉の長屋」のように庇を取ってみたのがこの絵ですが、
ぱっと見、庇がないからといってどうってことない感じなんですが、

実は、この壁面はほぼ真南面なんです。
であるなら、庇があるとないで一番違ってくるのが、庇が作り出す影の表情です。
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こうして影を描いてみると、庇のある無しの効果がわかりますね。
影によって季節感や時間の経過など含め建物の表情が出る。
アニメならではの設計、さすが京アニです。

もう一点この玄関伸び部分で不思議な処理というか、
変なデザインとは、屋根の先端部分、そして2階の小さな庇です。

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これって瓦なんですかね。庇が3階と2階にちょこっと出ています。
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この細い細い部分に瓦が葺けるのだろうか、、、
と考えてみたところ、、葺けません。

まず、最上階では勾配がゆる過ぎるのです。
本瓦葺きの場合勾配は4/10くらいないと防水上ダメなんですよ。
そして、2階の小庇では軒の出が短過ぎる。

であるなら、一体この瓦に見える屋根表現はなんなのか、、、
屋根=瓦?というなんとなくの常識感覚による結果としての非常識。

いいえ、違うでしょう。
「けいおん!」の魅力のひとつが、ヴォーリズ設計の学校空間もさることながら、
主人公たちの使うリアルな楽器表現です。
だから、この平沢家の瓦表現にもリアリティがなきゃだめなんですよ。

勾配がゆるくても可能な瓦的表現。
それはいかにすれば可能なのか、、

その解決方法とは、非鉄金属加工が地場産業の富山県を本社とする
株式会社セキノ興産
そこから出ているちょっとキッチュな屋根素材
セキノ長尺金属瓦かわら455(和風調)です。
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これなら可能!ゆるゆる屋根や小さな庇における瓦表現。
ということで、平沢家の顔である細長ファサードは、
いわゆる和モダンと言われる消極的なシンプル形状ではなく
はたまた、単純な白い箱型デザインでもない。

安藤忠雄リスペクトによるミニマルシンメトリーモダンに、
和風瓦屋根をそのままトッピングした新たな建築表現形式、

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和柄Tシャツみたいなコンセプトなのではないでしょうか


続く

けいおん!平沢家における建築的考察 1

けいおん!平沢家における建築的考察 3