序章  その1  その2   その3   その4 その5


その6 その7 その8 その9(完結)





火葬場の手続きが15時まで。

その前には区役所に死産届の提出もある。

ゆうすけとゆみちゃんは急いで出発した。



病室には母と私。

確か、母が一人目を亡くした時のことを聞いた気がする。私は5ヶ月目での流産だったけど、母は10ヶ月。戸籍にも残っているし、お墓も仏壇もある。今の私よりずっとつらい状況だったと思う。母はそのときどんな気持ちだったのか。

そして私が生まれた時のことも、詳しく聞いた。



2390gと小さく生まれた直後、血液型不適合だった私は、黄疸が強くでて、連れて行かれたらしい。先に一人亡くしていた母は、またダメなんじゃないかと気が動転して、泣きながら赤ちゃんは無事なのかと父に聞いたと言っていた。

その時、前回のことが頭をぐるぐる回って、すごく不安だったって。

だから、イメージは少しでも少ない方がいいんだ。って。

忘れたと思っても、忘れてない。忘れられるわけがない。

だから、頭に残さないほうがいい。後で絶対に辛くなる。

私は改めて、見なくて良かったんだって思った。





お昼ご飯が運ばれてきた。

鶏そぼろと鮭フレークのご飯、春雨の明太子和えなど。

母と二人で食べた。

こんな時でも食べれてしまう自分がちょっと悲しかった。赤ちゃんは死んでしまったのに、私だけはこうやってご飯を食べて、休んで、いろんな人に助けられて。どんどん元気になっていくんだな。って思ってしまった。でも、すぐそばには母がいてくれて。病院の食事とは思えないね~とぱくついてる。ちょっと!!食べすぎ!なくなるじゃん。なんて取り合いしながらも、楽しく食事ができた。





14時近くにゆうすけとゆみちゃんが帰ってきた。

区役所に死産届を出してきて、これから火葬場へ向かうらしい。

最後にお別れをするかどうかを聞かれてた。

見ないことにすると言ったのに、どうしてそんなこと聞かれるんだろうと思った。

すでに箱に入っている赤ちゃんに、手を合わせてお別れをするかどうか。ということらしい。今回は、迷いは一切なかった。見るつもりはない。最後のお別れもしないなんて、非情と思われるだろうかって思ったけど、箱を前にして、赤ちゃんの姿を見ないでいられる気がしなかった。絶対に決心が揺らぐと思った。

ゆみちゃんが近くのお花屋さんで、花を買って、赤ちゃんのまわりに花を入れてもらったらしい。ゆみちゃんのそういう心遣いがすごく嬉しかった。





ゆうすけとゆみちゃんが出発した。

位牌も残らない。あの子とはもう二度と会うことはない。

これでよかったんだろうか。胸の中はもやもやして、連れて行かないで欲しいって気持ちが大きくなる。・・・でも、そんなことは通るはずもない。完全に終わったという気がした。