久しぶりになりますが、今回はベンゾジアゼピン系薬剤による離脱症状について考えてみたいと思います。

 HN・風さん(46歳)という女性から電話をいただきました。

 じつは、風さんは、以前、読売新聞の「からだの質問箱」に「抗不安薬、リーゼがやめられない」と題して投稿され、それについて私がこのブログでとりあげたところ、

http://ameblo.jp/momo-kako/entry-10817465683.html

ご本人から連絡をいただき、このブログ内において皆さんに減薬の相談をされています。

http://ameblo.jp/momo-kako/entry-10985876350.html

 ちょうど1年前のことですが、その後もお電話で話したことがありました。その時点ではまだ離脱症状の辛さに薬を手放すことができず、風さんは「やめたい、でもやめられない」という、ベンゾ経験者ならほとんどの人が体験する状況に陥っていました。

 そして、今回、たまたまお電話をいただき、その後の様子をうかがうことになったというわけです。


断薬のつもりで入院したが、不安神経症と診断される

 風さんは昨年の10月半ば、断薬を目指してある国立の病院に入院をしたそうです。

 離脱症状の辛さから、なかなか薬をやめることができないと相談に行ったとき、医師の対応がすこぶる良く、「わかりました、やめる方向で一緒に頑張ってやっていきましょう!」そんな感じだったので、決意したといいます。

 入院したのは、アルコール依存症の人や麻薬中毒の人など、かなり重症の人たちが多くいる閉鎖病棟。それでも風さんはここで何とか薬をやめようと、医師の「頑張りましょう」という協力姿勢もあって、心強く感じていたと言います。

 しかし、入院して3日後くらいのこと。医師は風さんに

「あなた、やっぱり、薬やめられないよ。不安神経症です。不安が強いからやめない方がいい。飲み続けなくてはいけない」

 と言ったというのです。

 入院によってリーゼはホリゾン(セルシン・一般名ジアゼパム)という長時間作用型の薬に置換されていました。リーゼ0.5㎎を日に3回(頑張って2回) → ホリゾン2㎎を日に3回の服用です。そのとき、リーゼからホリゾンへの置換はスムースだったと言います。

 それにしても、入院時リーゼ1.5㎎ですでに離脱症状がでていて、不安感が強く、それで相談に行ったにもかかわらず、結局、その離脱症状を病状ととらえられ、不安神経症とは……。

3日間様子を見て、そういう診断を下したのでしょうが、やはり、最初に理解を示したはずのこの医師でも離脱症状をきちんと診ることはできなかったということでしょう。実は、このパターンは多いようです。離脱症状で受診し、医師もそうだと認めたものの、治療が始まってみると、離脱症状ではなく、精神疾患の診断が下る……(結局、薬をやめるどころか、下手をすれば薬が増えることも大いにあり得ます。)

 ホリゾンを日に6㎎、風さんは飲み続けました。リーゼは離脱症状がきついというイメージでしたが、ホリゾンを飲んだときは、

「ボーっとしたり、悲しくなったり、不安になったり」

 退院して家の帰るのが不安でたまらず、ただホリゾンを6㎎飲み続けるだけの入院生活を結局1か月半も続けることになりました。

 退院後も同じように飲み続けましたが、不安感はどんどん強くなっていき、何を見ても怖い、ゾワゾワするような感じ。常用量依存もすでに起きていて、薬が切れる頃にはめまい、うつっぽい、死にたい(楽に死ねる方法ばかり考えていたと言います)、そんな状態に陥ってしまいました。

「薬のせいだとすぐに思いました。本当に、薬をやめないとまずいことになるって……」

そこで、退院後、いくつかの医療機関を受診して、いろいろ減薬について相談をしましたが、どこも

「やめたかったら、やめればいい。自分の都合でやりくりして、自分で減らしてみてください」

 そんな対応ばかりだったと言います。


ベンゾジアゼピン撲滅をうたうクリニック

「やめたいのに、やめられない」……そうしたジレンマを抱え、なおかつ体調もどんどん悪くなっていった風さんは、ネットでさまざま検索するうちに、まさに自分の考えにぴったりのクリニックを見つけました。

「HPには、ベンゾジアゼピンは依存性の高い薬なので、ベンゾジアゼピンを撲滅したいとか、本当にいいことが書いてあって、これほどベンゾのことがわかっている医師もいるんだと思って感動したくらいです」

 風さんに教えてもらったクリニックのHPを見ると、院長の言葉として、こんなことが書いてあります。

精神医学に多少也とも関わる者として私が憂慮するのはこれだけ離脱症候群や依存症が問題である事が世界的に明白であるのに、日本の精神科医、心療内科医、内科医、脳外科医、整形外科医の大部分の医師たちがこの大問題を「問題」として認識すらしていない、と言う空恐ろしい現実にあります。自分がスタートさせた一粒のベンゾジアゼピンがその後のその患者の運命を大きく狂わせる可能性すら考えずに「気軽」にスタートしている、のが問題なのです。」

 こんな文章を読めば、ベンゾ(離脱症状)によって辛く苦しい思いをしている人ならば、頼りたくなるのは当然です。

 現に、このクリニックは、この「ベンゾジアゼピン撲滅」をうたうようになってから遠方からの患者も増えていると、院長自ら書いています。

「ベンゾジアゼピンは「覚せい剤、麻薬」と同等に扱いましょう。」(HPより)

 風さんがこのクリニックを受診したのは、この7月の下旬のことです。

「自分なりに減薬を始めていて、ホリゾンを半分から4分の1くらいの量に減らしているときでした。それで、離脱で苦しくて……でも、この先生ならわかってくれるだろうと思って、家からちょっと距離のあるところでしたが、思い切って受診したんです」

 30分ほどの診察ののち、風さんに新たな診断が下されました。なんと「大うつ病」。

「えーって思いました。うつっぽいとか、不安とか、私はベンゾの離脱症状だと思っていたのに、大うつ病と、あの医師は断言したんです。それで処方された薬は……」

 サインバルタ――SNRI(抗うつ薬)

 スルピリド(ドグマチールなど)――統合失調症 うつ病 及び胃潰瘍 十二指腸潰瘍 の治療薬。

 メイラックス――ベンゾジアゼピン系精神安定剤


「一粒のベンゾジアゼピンがその後のその患者の運命を大きく狂わせる可能性……」と書いてあるのに、あっさりベンゾを処方するという見境のなさ。

風さんが「先生、ベンゾは出さないと書いてますよね?」と問うと、

「いや、あなたは病気だから。あなたは大うつ病です。薬を飲まないと絶対に悪くなります。薬を飲んで、病気を治しましょう!」

 あまりに自信たっぷりに断言するので、もしかしたら、自分は先生の言う通り大うつ病かもしれないと風さんはふと思い、家族もそうかもしれないと言い出したので、処方された薬を飲むことにしたそうです。

 スルピリドを5日間ほど。

「そうしたら、手足にまったく力が入らなくなって、パーキンソン病のような状態になってしまいました。それで怖くなって5日でやめたら、そうした症状もぴたっと治まったんです。サインバルタも1週間ほど飲んでみましたが、かえってうつっぽくなるようでした」

この経験から、風さんは心の底から精神薬の怖さを思い知ったと言います。そして、ついに、それまで飲んでいたホリゾンの断薬に踏み切ることにしたのです。

「もう、薬は一切嫌です。絶対に飲みません」

 現在、断薬して20日ほど経過しています。まだ離脱症状があり(息が苦しい、眠れない、めまい、頭痛など)苦しい状態と言いますが、それでも、前のように「死にたい」という思いは起こらなくなりました。少しずつですが、外出も可能になっていると言います。

 不眠と食欲不振から内科を受診し、そこで抗不安薬のリーゼを処方されて約2年。その間、七転八倒しながらも、ようやく風さんは精神薬から自由の身になることができました。

 HPに書いてあることと現実のあまりの乖離、たった30分の診察で大うつ病と診断を下し、抗うつ薬と抗精神病薬とベンゾジアゼピンをいともあっさり処方する医師。

 怪我の功名かもしれませんが、その経験が風さんをベンゾの依存から立ち直らせる結果となりました。


 

一粒の向精神薬が……

風さんが経験したことは、多くの教訓(現実)を含んでいます。

 内科で安易に処方されるベンゾジアゼピンの問題。

 依存症になってしまったら、そこから抜け出すのに、医療はほとんど力を持たないこと。

 「ベンゾの離脱症状」は現在は一つの流行のようになっているため、それをうたってクリニックに患者を呼び込もうとする動き。

 しかし、現実はまったく離脱症状への理解がない医師。それどころか見当違いの大誤診をした結果、患者をさらなる薬害に導いてしまう可能性すら秘めている。

 結局、当事者の覚悟、決断、我慢、根性によって、減薬、断薬するしかないということ。

 当事者が勉強をして減薬していかねばならないというのは、ベンゾに限ったことではなく、他の向精神薬についてもいえることです。

医師は薬を減らすことができない、減らし方を知らない、そういう勉強していない、患者からも学ぼうとしない……結果、とんでもない減薬をして、患者を生命の危険にさらし、それだけでなく、その処置もまともにできない。

 これまで私がいろいろ聞いてきた体験談では、ざっとこんな現実が浮かんできます。もちろん、例外はあります。

一粒の向精神薬がその後の患者の運命を大きく狂わせる可能……。

臨床現場に関わる医師はこの言葉を、前出の医師のように患者の受けねらいのためだけに使うのではなく、実際の処方において、もう少し真摯に、心に置くべきではないかと思います。

薬害を目の当たりにしてよく医師が口にするのは、「それはもともとのあなたの症状(病気)です」という言葉ですが、そうではなくて「一粒の薬によって狂わせてしまった」ということを認める勇気と誠実さと、その事実を見抜く曇りのない目と幅広い知識を持ち合わせること、それがない限り、精神医療の改善は不可能のように思います。