ベンゾジアゼピン離脱症状

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2月27日の読売新聞(朝刊・P.19 くらし面)の「からだの質問箱」にこんな質問があった。

「抗不安薬「リーゼ」やめられない」

 45歳、女性。昨年、不眠と食欲不振があり、内科を受診。そこでリーゼを処方されたが、4ヵ月たってもやめられず、頭痛がしたり、思考に集中できなかったりする状態が続き、悩んでいる、というものだ。

 回答者は杏林大学の田島治氏。

「リーゼは、心身の不安や緊張を和らげる薬です。……「デパス」とともに内科でよく用いられる薬です。いずれも効果がすぐ出ますが、持続はしません。どちらも比較的安全性は高いですが……しかし、この二つの薬を含むベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、数か月以上飲み続けると、医師の処方量が適切であっても軽い依存が起こることがあります。

 急激に量を減らしたり、やめたりすると、2~3日してから、服用前にあった不安や不眠の症状が強く出たり、今までなかった頭痛や不安、音や光、味に対する神経の過敏症状が出たりすることもあります。

 これらの離脱症状は通常、1~3週間程度で治まりますが、まれに数か月から1年ぐらいにわたって、筋肉の違和感など、心身の不調を訴える方もいます。

 飲む量を減らす時は、少なくとも1~2週間ごとに1回、半錠ずつ減らしていきます。……」




離脱症状の期間について

 まずは全国紙にこうしたベンゾジアゼピンの問題が取り上げられ、医師によってきちんと離脱症状を認める記事が載るということは、大きな一歩だと思う。これまで離脱症状の存在そのものを認めない医師がほとんどであったのだから。


 しかし、一般紙に掲載される程度に認知されつつあるにもかかわらず、まだまだこの回答に臨床が追い付いていない医師が多いのではないだろうか。

 離脱症状を「病気の再燃」、あるいは「その人のもともとの症状」として、患者の訴えに耳を傾けない医師……。

あるいは、「離脱症状はあっても2週間、それ以上は……」という考え方をする医師のなんと多いことだろう。

田島氏は1年ぐらいの「離脱症状」を認めているが――これはある意味で画期的なことかもしれない。ぜひ離脱を認めない医師もこの見解を肝に銘じてほしい。

しかし実際には、1年以上、長期にわたって苦しんでいる人もいる。むしろ、2週間で、すっきり離脱症状が治まったという人の方が少ないのではないだろうか。症状が落ち着くまでに1年半から3年はかかっているという人のほうが普通の現象かもしれないのだ。

 しかし、医師はそのことを決して認めないだろう。2週間、あるいはせいぜい3週間。それ以上の離脱症状については、そんなはずはないと頭から否定をし、結局は他の病気にされるか、面倒な患者として切り捨てられるか、それが現実である。



ベンゾジアゼピンが抱える問題

ベンゾジアゼピンは安全であるという観点から、医師にとっては非常に使い勝手のいい薬剤である。処方されるとき、事前の注意をうけるどころか、「この薬は安全だから」と医師に言われて、安心して飲んだという人も多いのではないだろうか。

もちろんベンゾジアゼピンも、他の薬同様、症状を抑えるだけの薬である。不眠、不安感……そうした病気をベンゾジアゼピンで「治す」ことはできない。

治すことができないにもかかわらず、その場しのぎの薬としていとも簡単に処方され、いとも簡単に依存を引きおこしてしまう。

田島氏も書いているように、たとえ「医師の処方量が適切であっても……」依存は起こる。つまり、常用量でも依存を引き起こし、同じ量を飲み続けながら離脱症状を経験することになるのである。

たしかに安全であり、ベンゾジアゼピンのODで死ぬことは相当難しいと言えるが、その入口の優しさに比べ、依存形成のため、出口はまさに地獄と化す。

それが医師にはわかっていない。か、あるいはわかっていても、便利な薬を手放したくないがため、目をつぶっているである。

世界基準では、ベンゾジアゼピンの処方は、2~4週間を目処になされるべきとなっているが、それが日本ではいまだ「常識」となっていないのは、医師のこうした心理も大いに働いているのではないだろうか(そしてそれが製薬会社に利用されている)。

したがって、回答の中で、「数か月以上飲み続けると、医師の処方量が適切であっても……」という箇所は、本来なら、数か月以上処方すること自体、「不適切」なのである。しかも、数か月どころか数年にわたる漫然処方が数多く見られるのが現実だ。

自ら長期処方をしておきながら、離脱症状が2週間以上続くと、「病気の再燃」「もともとの症状」と言われては、患者としてはたまったものではない。



耐性の形成

 ベンゾは非常に耐性のつきやすい薬剤だが、薬の耐性ができるということは、つまりどういうことなのか? 同じ状態を維持するために、さらに多くの量の薬、強い薬が必要になるということだ。そして、そこでまたしても依存が形成され、離脱症状が起き、もっと強い薬を必要とするようになる。

ベンゾジアゼピンを飲むということは、「病気」を治すことなく、結局、薬をバージョンアップさせながらそれを繰り返すことでしかないのである。

 質問者が服用しているのは「リーゼ(クロチアゼパム)」だが、これは中期作用型で、等価換算は10㎎と力価は低い。

 しかし、そこが入口となる可能性は大いにある。前述の通り、リーゼをやめられず飲み続けていると、効き目が感じられなくなり、さらに力価の高い薬を必要とするようになるだろう。

 抗不安薬なら、レキソタン(ブロマゼパム、セルシン5mgに対する等価換算2.5㎎)、デパス(エチゾラム、1.5㎎)、ワイパックス(ロラゼパム、1.2㎎)、ソラナックス(アルプラゾラム、0.8㎎)――そういう方向へ流れていく。

 さらには、眠剤のロヒプノール(フルニトラゼパム、1㎎)、ハルシオン(トリアゾラム、0.25㎎)へ。(等価換算の数字が小さい方が力価が高いことになる)。

ここまで来ると、離脱症状はかなり深刻な問題となる。



減薬・断薬スケジュール

回答にあげられている減薬方法は(紙面の関係もあるのだろうが)かなり大ざっぱと言わざるを得ない。そのこともあり、減薬もひどく簡単なことのように受け取られるかもしれないが、実際には、もっと厳格で、細かい方法をとるのが一般的である。


たとえば、ベンゾジアゼピンの中でも力価が低く、血中半減期の長いセルシンに、服用している薬を置換して、大まかにいえば、2週間に1㎎ずつ減薬していく方法を提唱している、..アシュトン医師による「アシュトンマニュアル」がある。

ベンゾジアゼピンの等価換算表はネットで調べることができるし、ベンゾジアゼピンの離脱を支援している団体、グリーンフォレストのホームページにも載っているので参考にしてほしい。

http://heartland.geocities.jp/bz_drug_inform/contents/touka.html




離脱症状の本当に姿

減薬の方法と同様、質問では、薬がリーゼであること、服用期間が4ヵ月であることから、一般の人がこの記事を読むと、離脱症状などたいしたことがないような印象を受けるかもしれない。いや、医師でさえ、その程度の認識しか持たない人が多いはずだ。

しかし、現実はそんなものではない。前述のとおり、出口、つまり、離脱症状はまさに「地獄」の苦しみとなる。

たとえば、ソラナックス5年服用で、断薬後に、激しい眼の痛みや手足の痺れが起き、白内障や飛蚊症を発症したり、さらには眼圧の上昇、睡眠障害、入眠時の痙攣、激しい歯ぎしりを経験している(断薬1年以上たったいまも)人がいる。

また、コンスタンを10年服用し、断薬後に目の激痛を覚え、眼圧上昇のため結局0.1あった視力が0.03まで落ちて、失明寸前までいった人。

メイラックス、ロヒプノールを9か月服用して、離脱の苦しさに自殺未遂した人もいる。


減薬中の離脱の苦しみは経験した者でなければわからないとよく言われる。したがって、私も本当のところはわからないが、こうして寄せられたいくつかのメールや、他のブログの書き込みなどを読んでみれば、多少の想像はつく。まさに阿鼻叫喚の世界なのだ。


私は頭がおかしくなったんだと思います。

息をするだけで精一杯。

日々、瞬間瞬間がまさに地獄です。

完全に廃人状態。

こうして文字を打っている今も、発作的にパソコンをぶち壊しそうになる。

苦しさに歯を食いしばっていたら、歯が割れたこともあります。

破壊衝動。だから、家に刃物は置かないようにしている。

5分ともたない頻尿。尿意に加えて、尿道口がむずむずして、耐え難い苦しみ。

寒いのに全身に大量の汗をかく。

口の中が痛い。目が痛い。身体中のあちこちが悲鳴をあげている。

わたしは発狂してしまいそうです。

気が狂って、頭がバンって爆発してしまいそうなんです。

減薬してもう100日以上。肉を16kg削る地獄の苦しみを毎日繰り返して、まだこの状態です。いよいよ限界かもしれません。

悶々とただひたすら耐えるだけの日々。

闇のような過酷なトンネル。




離脱者は孤立する

この質問に対する回答の最後の文章はこうだ。

「(徐々に減薬して、薬をやめて)それでも、不眠や食欲不振が解消されず、かつ思考に集中できない状態に陥ってしまうというのなら、この薬の副作用とは考えにくく、うつ病の症状が出ている恐れもあります。その場合は、精神科の専門医の診察を受けてください。



 結局、離脱症状が長引くと、うつ病(あるいは他の精神疾患)にされてしまうのだ。そして、精神科を受診せよとは。

これではなんにもならない。精神科になど行ったら、元のもくあみ。抗うつ薬と一緒にまたしてもベンゾジアゼピンを処方されるのがおちである。

確かに、禁断症状は薬を飲めば、その時は楽になるかもしれないが、それでは断薬はいつまでたってもできない。ここで精神科を受診すれば、まさに負のスパイラルに飲み込まれることになる。

したがって、断薬をするしかなくなるのだが、離脱症状に苦しむ者は、今度は、それがどれほどの苦しみであろうとも、医療の恩恵を受けることができないのだ。

離脱を認めない医師の前では「病気の再燃」あるいは「元々持っていた病気」として、薬物治療の対象となるのである。離脱を認めない前提である限り、医療に救いを求めても、「離脱の治療」はあり得ないのだ。

だから、減薬を決意した人は「アシュトンマニュアル」や、ネットで情報を集めて試行錯誤しながら実践し、その間の離脱症状にはひたすら耐えるしかないのである。極限の苦痛にじっと身をおきながら、薬が体から抜けるのを、時間のたつのを、ただ祈るしかないのだ。

精神医療が蒔いた種から生え出た毒々しいあだ花を、精神医療は自らの手で刈り取ることができない。

離脱に苦しむ人たちは、行き場を失うのである。



離脱症状は、生命にかかわる問題なのだ。

何年も、いやそれどころか10年以上も、ベンゾジアゼピンを、さらにはもっと強い薬を処方され続け、ついにはどの薬も効かなくなり、処方限界量で打つ手もなく、離脱を起こす。そこまでいけば、あとは致死的な薬にまで手を出すか、さもなくば、離脱できるかその前に体がもたなくなるか、精神が切れてしまうか……。

そういう命をかけた離脱症状と闘っている人たちがいるのである。

だから、医師は自らが処方する薬がもたらす離脱についてもっと真摯に勉強しなくてはいけない。離脱は確実に存在する。それもかなりの長期にわたって、深刻なダメージを人に及ぼす。それは「病気の再燃」などでは決してない。向精神薬というものが、飲むのをやめたあとも、ここまで人間を破壊するものであるということを、医師は心に刻むべきだ。













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