稲村ヶ崎駅 を発った列車は、より一層緑の深い車窓を映し出す。
その景色は、今まで海辺を走ってきたとは思えないほどの変貌ぶりである。
しばらく進むと、進行方向左側に江ノ電の車庫が見えてくる。
側線が何本も張り巡らされ、そこには次の出番に備え、休息を取っている車両たちが見られる。
車庫を過ぎるとすぐ、次の駅に停車した。
「極楽寺(ごくらくじ)駅」
単式ホーム1面1線を有する有人駅。
ホームはずいぶん長く作られている印象だ。
腰越 のホームの、倍の長さはあるのではなかろうか?
今まで海のイメージの強い駅が多かったが、ここはまるで山あいにひっそりとたたずむ感じの駅である。
波の音と対照的な、小鳥のさえずりが聞こえてきそうである。
有人の改札を抜け、駅舎を臨んでみる。
緑の中に建つ、歴史のありそうな木造の駅舎を見ると心が和まされる。
駅舎のそばに作られた、昔ながらの丸型郵便ポストがさらに好印象を与える。
この駅は、鎌倉高校前駅 とともに「関東の駅百選」に選定されている。
駅のそばには、駅名にもなっている極楽寺がある。
時間に余裕があるのでそちらまで出向いてみようと思う。
駅前の、線路と並走する道路を鎌倉方面に歩いてゆく。
突き当りを左に曲がれば、そこは線路を跨ぐ陸橋になっている。
その陸橋の上から線路を鎌倉方面に見ると、何とそこにはトンネルが存在する。
これが江ノ電唯一のトンネル、「極楽寺トンネル」である。
しばらく陸橋の上で待っていると、藤沢行きの列車がトンネルの中からにゅうっと姿を現してきた。
陸橋を渡りきり、さらに左に進むとそこが極楽寺である。
境内での撮影は禁止されているので、寺の写真はこれだけである。
参拝を済ませ、急いで駅に戻る。
今までの駅を訪れた後でこの極楽寺駅を訪れると、まるでイタリア料理のフルコースを頂き、食後のデザートにゴマ団子が出てきたような錯覚に陥りそうだが、それはそれで心地の良い違和感を味わえる。
鎌倉行きの列車に乗り込んで、次の駅を目指す。
いつのまにか、残す駅はあと4個になっていた。