彫刻家ケイト・トムソンさん・再放送 第2回 ~石を彫り始めたきっかけと作品の中のスペースについて | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

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生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

 

みなさま こんにちは。

彫刻工房くさか 日下育子です。

 

今日は素敵な作家をご紹介いたします。

イギリス人の女性彫刻家 ケイト・トムソンさんです。

ケイト・トムソンさん
片桐 宏典さん
お二人とも彫刻家であり、ご夫妻でもいらっしゃいます。


以下、2014年9月の再放送でお届けします。
前々回の日下育子からのリレーで、片桐 宏典さんに引き続き、ご登場頂きます。
     
片桐 宏典さん

第1回   、第1回続き  、第2回目  、第3回  、第4回  、第5回   、第6回  、第7回 

第8回  、第9回  、第9回リンク    、第10回  、第10回リンク  

 

彫刻家 ケイト・トムソンさん 

第1回 ~6歳で彫刻家になると決まりました!~ 
第1回続き 略歴のご紹介

 

第2回目の今日は、ケイト・トムソンさんが石を素材に制作を始められたきっかけについて
お聞かせ頂きました。 大学卒業後に彫刻をパブリックに出した方がいいという想いから
堅牢な石を選ばれたということです。

 

またケイト・トムソンさんの造形の中に、空間が多くあるということについても
お話をお聞かせいただきました。

 

ケイト・トムソンさんのカタログ「リレイティブ・パーセプションズ」の言葉も引用して
掲載させて頂きます。

 

どうぞ、お楽しみいただけましたら嬉しいです。

 

***********************************

 


relative_p1_01

「リレイティヴ・パースペクティヴ#1」
イタリア・カラーラ大理石
45x40x50cmH
2002
第20回現代日本彫刻展模型入選作品
個人所蔵





 


迷宮

「迷宮」
黒御影石
46x49x32.5cmH
1999





 


どんな夢がかなうのか

「どんな夢がかなうのか」
黒御影石
30x34x19cmH
1999




 


1994-celticPiece1

「ケルティック・キィ/ケルティック・シリーズ・1」
インド産黒御影石
60cmH
1994
戸田久所蔵

 

 


 


celticPiece2

「ケルティック・シリーズ・2」
インド産黒御影石
高さ各60cm
1994
荏田市所蔵




 


celticPiece3

「ケルティック・シリーズ・3」
インド産黒御影石
60cmH
1994
朝日生命盛岡ビル所蔵

 

 

 

 

 


記憶の河

「記憶の河」
スコットランド産砂岩
240x250x55cmH

カレッジランズ国際彫刻シンポジウム

スコットランド・ グラスゴー市
オルガナイザー  ケイト・トムソンさん 

1988
ミラー・ホームズ・アーバン所蔵

 

 

 

 

 


1988-Torch

「炎」
スコットランド産白御影石
180cmH
ブリティッシュ・ガス公社所蔵
1987





 



1983_Los

「ロス」
セラミック

120cmH
メイフィールド教会所蔵
1983

 



 


日下
ケイトさんが石を彫るようになったのはいつ頃からだったのでしょうか。


ケイト・トムソンさん
私は大学終わったあと、すぐにコミュニティー・アーティスト(※)をしていました。

 

 ※コミュニティー・アーティスト
  ⇒ 参考 
コミュニティー・アート
 

 

まだその時は、粘土のモデリングが制作のメインでした。
4年間のコミニティー・アーティストの間、みんなに教えるだけじゃなくて
やはり彫刻はパブリックスペースにあった方がいいと思いました。

 

セラミックは丈夫だけど、イギリスの気候で外に出すと、
毎年、水が入って凍り、段々駄目になってしまうのです。

 

大学時代に制作したものはみな屋外に展示していましたが、
長いもので15年間しか持たず、みんなボロボロになりました。

 


日下
もったいないですね~。

 


ケイト・トムソンさん
私は彫刻をパブリックスペースに出したかった。
彫刻をみんなの遊び場と考えて、みんなが会う場所を作りたかったんですけれど
やっぱりセラミックより、石の方がいいんじゃないかと思いました。
それにイギリスではバンダリズム(破壊行為)の問題が結構あります。

 

 

片桐 宏典さん
すぐ壊す。すごいですよ。

 

 

日下
ああ~、そうなんですか!?(驚き)

 


ケイト・トムソンさん
そう。それに御影石だったら、あまり面倒も要らないし、
丈夫だからみんな登ったり座ったり、使うことも出来ると思った。

それで石を彫り始めました。


最初は御影石でした。普通は、みんな柔らかい石から硬い石に行くんですけど、
私は、硬い石から始めて、段々柔らかい石に行きました。
それも結構、考えが広がるので良いことでした。

 

御影石のあとの大理石は本当に簡単だから、
それで何でも作ることが出来るようになりました。

 


片桐 宏典さん
イギリスでは、みんな普通、逆なんだけどね。日本は特に御影石を中心にやるでしょ。
イギリスの人は大理石か砂岩とかしかやらない、
だからどうしてもかたちもフニャフニャってなってくるんだよね。
角をもたないし。だから、ケイトにとっては良かったんじゃない。

 


日下
そうですか。最初からパブリックを意識して石を選ばれたんですね。

 

ところで、私のイメージですが、90年代から2000年以降のケイト・トムソンさんの作品では、
かたちの中に空間があったり、奥行きや距離感があったりする印象がとても強いですが、
そういう点で何かこだわっていらっしゃることはおありでしょうか?

 

 

ケイト・トムソンさん
最初、私自身は意識してなかったのですが
15年くらい前の盛岡クリスタル画廊での展覧会で
佐藤一枝さん ※が
「ケイトの作品は、全部中にスペースが入ってますね。」
と言いました。

 


日下
ええ。


 

ケイト・トムソンさん
私は、いつもそういう感じで作品を創っていましたが
自分では、中のスペースがあるとはあんまり意識して作っていない。
それで、一枝さんがそう言ったのがきっかけで、自分でも何故でしょう?と考えました。

 

振り返ってみると、小さい時から、洞窟のような場所が大好きだった。
だから自分でもモノを作るとき、何かに入っていくような
そういう雰囲気が創りたかったと思います。

 


日下
ああ~、そうですか~。

 

 

ケイト・トムソンさん

んなスペースは、大きい作品なら人間も入るけど、
小さい作品もイマジネーションだけで入るから、
手のひらにのるような作品でも脳の遊び場です。

 

 

日下
ああ~!脳の遊び場なんですね!!


 

ケイト・トムソンさん
やっぱり中に入って、いろいろ遊んで、
それだけじゃなくて二つとか三つのエレメントのリレーションシップ。

 


片桐 宏典さん
関係だね。


 

ケイト・トムソンさん
二つとか三つのエレメントの関係のおかげでスペースが創れるということかな。
多分、半分ぐらい演劇ですね。

 


日下
演劇といいますと?


 


ケイト・トムソンさん
彼(片桐 宏典さん)はいつも写真撮るときとか、展覧会の時とか
「正面はどっちですか?」と聞きます。
でも私は「正面はありません。全部正面だから、360度歩きなさい。」という感じです。

 

写真撮るとき一つのポジションを正面にするというのは、
絵になりやすいけど、でも私はいつもどこが正面かは全然考えません。
360度ぐるっとまわって見るということはナラティブ、演劇を見ているみたいになって
それでぜーんぶ歩いて見るといろいろなストーリーとか関係が生まれてきます。
それが、作品のファッシネーション(魅惑)です。それが大好きです。

 


片桐 宏典さん
そう物語ね。彫刻をまわって見るのが物語。


 

ケイト・トムソンさん
そう。
外側を360度まわって歩くだけじゃなくて、中に入るとか下に入って、上に登ったり。
それでやっぱりいろいろ観るのは面白いかな。

 


日下
わぁ~!すごく面白いですね~。(感動!)

 

 

ケイト・トムソンさん

でも、作るのは大変かな。
一つだけのパースペクティブ(遠近法的構図)しかないと
「ああ~、これは駄目ですね~」とすごく気になります。

 

「もう出来たんじゃない?」と彼が言って、
「でもここから見るとおかしいじゃない?」と私が言い返しても、
「誰もそこから見ませんよ」と言われてしまう。(笑)
ちょっとキチガイですね。

 


日下
すごい!徹底してますね~。


 

ケイト・トムソンさん
話が戻りますが、一枝さんが、私の作品の中に「スペースがある」と言った時、
同時に「やっぱり、イギリス人だから。」とも言いました。
私は「え?」と・・・。

 

あっ、そうか、やっぱりヘンリー・ムーアバーバラ・ヘップワ―ス の流れが
あるからですね~、と思いました。

 

それで、私の作品はイギリスっぽいかもしれない。
イギリスの風景の影響もあるかもしれない。

バーバラ・ヘップワ―スも女性の彫刻家ですが、
多分、女性たちはいろいろ面倒を見る役割が多いですから、
何かを守るため、安全な場所のイメージを作っているかも知れません。

 

また、違う面から見るとバーバラ・ヘップワ―スの作品にはスペースへの入口があります。
ムーアの作品にはそんな入口はありません。スペースがあるだけ。

 

 
日下
はは~。そうですか~。
私はそこを意識して見たことは無かったので、とっても新鮮なお話です。

 

 


ケイト・トムソンさん
やっぱり、女性たちの作品を見ると何かセンスが違いますね。

 


日下
そうですか。とっても面白いですね。
興味深いお話をありがとうございます。

 

 

ケイト・トムソンさん カタログ
『 Relative Perseptions リレイティブ・パーセプションズ 』 P16 パブリック・アート より

「石という素材が公共空間のための彫刻にとって、強度や耐久力という点で特に優れていることは
明白だ。石はまた、制作する上でも実に魅力的な素材である。その形態の力漲るような豊かさ、
静謐な孤独のうちに秘められた幾千年を経た成熟、そしてまた荘重さを湛えた新たな表現を
見出すために、山から石を切り出してきて力任せに彫っていくという行為の激しさは実に感情的な
矛盾に満ちていて、それはどこか個人や社会が進化する姿によく似ている。」


同じくP12より
「社会は今、同じく転換点に立っている。変化という迷宮の暗闇の中で手探りしているのだ。
人々が出会い、個人的、社会的さらには国際関係について考えさせるパブリック・アート(彫刻)とは
最良の選択肢を特定し、どんなふうに先に進むべきかを考えさせてくれる、光明のオアシスだ。」

 

 

 


海への旅

「海への旅」

宮城県産玄武岩
140cmH

1988


 

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★ 編集後記

 

私が片桐 宏典さん、ケイト トムソンさんに初めてお会いしたのは、
私が大学の副手1年目の冬に、お二人の住む岩手県岩手町にある㈲浮島彫刻スタジオを
訪問した時でした。 大自然の中の広いスタジオは、私がテレビで見たことのある
イギリスの広大な平原を想わせるイメージで、日本ではない所のように感じられて
不思議な感じがしたのを覚えています。

 

その時、ケイトさんは、お一人目の娘さんを出産された頃で、
赤ちゃんを抱きながら、彫刻のお話をお聴かせ下さったのを印象的に覚えています。

 

外国から国際結婚で日本に来られて、しかもプロフェッショナルに仕事もされ、
お子さんも出産されて、とてもエネルギッシュな方だと思いました。

 

今回の、彫刻をパブリックに出すために石を選ばれたというお話は、

とても目的意識のある明快なもので、
ただ好きだからというのではないところが、私には何かとてもケイトさんらしく感じられました。

 

また、彫刻は360度全てが正面と仰っていますが、ケイトさんの作品は、さまざまな角度から見て
実際に面白いですし、正面性に縛られないところに何かとても精神の自由さが感じられて
とっても素晴らしいなぁと感じました。

 

次回は、そのあたりの詳しいことを制作テーマの「リレイティブ・パーセプションズ(相対知覚)」の
お話でおうかがいしたいと思います。

 

どうぞお楽しみに。


 

 

浮島彫刻スタジオ ケイト・トムソンさんと片桐 宏典さん

岩手県岩手郡岩手町浮島
 


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◆片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんのホームページ
 
浮島彫刻スタジオ 


 

 ケイト・トムソンさんのエッセイ集 (英語です。)
 

スターリング大学(イギリス)での展示
 

 ケイト・トムソンさんの紹介ページ


 スターリング大学 Corridor of Dreams  (「夢の回廊」 インタビュー動画)

 (全23分中、お二人と作品が映るのは11:30~15:30頃です。)

 

スターリング大学アートコレクション 
ケイト・トムソンさんのインタビュー  (約2分)

スターリング大学のFacebook ⇒Art Collection at the University of Stirling

 

                    ⇒ケイト・トムソンさん、片桐 宏典さんの作品

 

◆現在、 開催中の展覧会です。
 「As Ithers See Us」
【期間】2014年3月11日(金)~9月末日まで
【時間】11:00~21:00
【料金】有料
【場所】Pobert Burns Birthplace Museum, Murdoch's Lone, Alloway, Ayr KA7 4PQ, UK
tel 0844 493 2601 email
burns@nts.org.uk
http://www.burnsmuseum.org.uk/


 

 

日本・石の野外彫刻―ストーンアート写真集
  藤田観龍 著(写真)  本の泉社

 

 ケイト・トムソンさんの作品写真、片桐 宏典さんの作品写真と手記が掲載されています。


 

ケイト・トムソンさん 第1回続き 略歴のご紹介


 

 

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★☆ アーカイブス ☆★


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学び場美術館登場作家リストⅡ
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