彫刻家 菅原 睦さん 第5回  ~アートとは豊かさを与えてくれるものです~ | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」



みな様、こんにちは。
彫刻工房くさか 日下育子です。

        
今日は素敵な作家をご紹介いたします。
彫刻家 菅原 睦さんです。

菅原 睦さん

前回、平井 孝典さんの紹介でご登場頂きます。

平井 孝典さん
第1回 、第2回第3回第4回第5回第6回第7回

菅原 睦さん
第1回  ~最初の木彫で「表現」ということが釈然としました  ~
第2回
  ~中国での仕事の体験と素材の変遷について~
第3回  ~震災後に「水」がテーマになりました。 ~
第4回  ~ 水のテーマを二つの素材で制作して  ~


第5回で最終回の今日は、菅原 睦さんの制作についての思いや教員として伝えたいこと、
「あなたにとってアートとは?」についてお聴かせ頂きました。 

どうぞお楽しみ頂けましたら幸いです。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *




「水面(みなも)」 
鉄  180×160×100(㎝) 60kg(台座部含む)
制作年 2012年





「水面(みなも)環」 
鉄  45×45×20(㎝) 3kg(本体のみ)
制作年2013年




「滴り(したたり)浸」 
花崗岩、砂岩、錫合金 50×16×16(㎝) 2kg
制作年 2014年




「滴り(したたり)」
安山岩、錫合金  60×20×20(㎝) 15kg
制作年2014年




「滴り(したたり)」
安山岩、錫合金 70×30×25(㎝)25kg 
制作年 2015年





日下
菅原 睦さんは、テーマや作品提示の仕方で社会との接点を意識することはあります
でしょうか。

菅原 睦さん
自分自身の作っている形が自然の中にある形態から着想を得ているので、誰かに対して
訴えかけるようなメッセージ性や問題を提起するような性質はあまり作品には求めてい
ないように思います。どちらかというと、身の周りを改めて見直したり、自然のもの、
自然の摂理に気づいたり思いを寄せるようなテーマでこれからも制作していくのでは
ないかと思います。

社会との接点を考えた場合には、能動的な活動とは言い難い部分もあるように思います
が、制作の目的として単純に形を楽しんでもらうことが重要のように感じます。 


日下
前回までのお話で、菅原さんは震災以降に水の作品を制作されるようになったそう
ですが、それ以前はどんなことをテーマにされていたのでしょうか。


菅原 睦さん
学生が終わった後に、それこそテーマ自体が見出せない時期が長く続いていました。
形態だけで作品を作ったり、そこから枝分かれしていくような作品作ったりしてい
ました。


日下
構成とも言えるような作品でしょうか。


菅原 睦さん
そうです。構成ですね。単純に形として新しいことや面白いと思える形を探してい
ました。例によって過去の作家の勉強をしながら、ニッチなことを考えていたように
思います。


日下
震災は、菅原さんにとって大変な体験だったと思いますが、表現の上でも変化点に
なったようですね。


菅原 睦さん
そうですね。直接的ではないのかもしれませんが、何か一つの契機にはなったと思っ
ています。


日下
発表のあり方などで社会との接点などを意識することはおありですか。


菅原 睦さん
制作件数が少ないので、所属している盛岡彫刻シンポジウムでの企画展や年に1回、
国画展に一般として出させて頂くことはあるんですが、最近、これまでは誰かに見て
もらうことに対して乱暴だったとすごく考えさせられるようになっています。

あとは、発表で終わりではなくて、どこかに設置してもらうことや、多くの人に見て
もらえて、誰かに良いなぁと思ってもらえる環境を、まだ全然具体的ではないですが、
作家側でも、もっと柔軟に考えて提案していかなきゃいけないんじゃないかとは思う
ようになっています。

せっかく作った作品が常に倉庫か野ざらしではもったいない。


日下
見てもらうことに対して乱暴だった、というのは、具体的にはどんな意味でしょうか。


菅原 睦さん
作ること、発表すること、に対して鑑賞されるものだということをあまり意識して
こなかったなと思います。

例えばタイトルを「水面」ってつけているけれど、やっぱり見た人に何かしら水に
まつわる記憶を思い出してもらえるような表現がしたいな、っていうのは最近すごく
思います。

自分が感じたことを見る側にきちんと届けることを大切にしたいし、そうなると、
タイトルも重要ですよね。今回作品に副題をつけたいと思ったのもそうだと思います。
全部を説明したいわけではないですが、何かを受け取ってもらえる間口が広がる作品
にしたいとは思います。


日下
そうですか。


菅原 睦さん
それに、経済的なことを考えたとき、やっぱり個人や企業に買って頂ける状況って
いうのは本当に幸せだと思いますし、多くの方がそうなればいいなと思います。
でも、なかなか日本という場所で、個人が自宅に作品を展示をしたいという依頼は
ないですよね。

彫刻は平面ではないですし、設置にはある程度制限があるじゃないですか。
そこを作家側がきちんと設置を出来るような状態を考えておいたり、商業施設や公共
施設なんかに彫刻が、今もあるとは思うんですが、大型のものではなくて本当にすぐ
にポンッと置けるようなサイズでも、そういった作品がもっと増えていくといいのか
なあということは今、漠然とですが考えてます。

それを作家側が置かせてください、じゃあ仕方ないから置かせてやろう、という感じ
でやるのもちょっと寂しいなあと思います。

なので、私は仕事が教師なんですが、生徒には作品を見る目と言うか、鑑賞する目や
感性を育てることを大切にしています。そして、それが自分たちの芸術家としての
活動に反映されていくんだろうって感じています。


日下
素晴らしいですね。ちなみに現在、菅原 睦さんの作品がどこかで見られるところは
ありますでしょうか。


菅原 睦さん
制作しているアトリエの近くに野外設置としてちょっとだけ作品を置かせてもらって
いますが買って頂いたとか、商用施設など公共の場所でというのは残念ながらあり
ません。

私だけじゃなくて、色々な作家さんがそうだと思います、自分たちでもアトリエに
作品がたまって、それにほこりがついたり錆びたり管理するのに大変なだけっていう
のはちょっと寂しいな、とはすごく思うようになってきています。


日下
そうですよね。(共感)。
少し話はそれますが、盛岡シンポジウムは団体で、共同アトリエを持っていらして、
菅原さんもそこで作られているということでしょうか。


菅原 睦さん
そうですね、団体名と捉えて頂いて構わないと思うんですが。
恩師の藁谷先生が一番最初に始めたんですが、大学の作業場やアトリエを中心に、
毎年公開制作をしたり、あとは盛岡で企画展や野外彫刻展を盛岡市内でよくやらせて
頂いています。

あとは盛岡の中央通、市庁舎なんかがある通りに作品設置なんかをしていました。
今はもう、新規に作品を置くことはあんまりないんですが。


日下
そうですか。


菅原 睦さん
土地は所有者の方がちゃんといらして、お借りしている状態なんですが。
研究室の卒業生、社会人で私が一番年が下なんですが、岩手で活躍、活動されている
作家の方たちが、休みの日であったりとか自分の時間で制作をするっていう感じです。
私も夏休みなんかで少し時間が取れる時には、ある程度そちらで荒彫りしたりしてい
ます。


日下
そうですか。今は学校で少し片隅で彫られているというお話でしたが(第4回


菅原 睦さん
そうですね。石で粉じんとかが酷いので、なるべく生徒たちから離れたところで彫ら
せてもらっていますが、授業に彫りかけの石を持って行ったり、出来上がった石を見
せて制作過程を教えたり。その時にはやっぱり生徒は驚いてくれますね。

あとは、他の先生方でも彫刻をどういうふうに作るのかはご存じない方が大半なので、
関心を持って頂けるようにはしています。最終的には購入してもらうことが野望です。


日下
そうですか。私も子供の時から、地元の展覧会で後に恩師となる方の作品を、当時は
名前も作り方も知らずに拝見はしていました。

でも菅原さんの生徒さんは、若いうちからそういう制作過程を見られて、すごくイマ
ジネーションが広がるだろうなと思います。知った上で見ればより面白いでしょうから
とってもいいなと思います。


菅原 睦さん
だから、それも鑑賞の一つの発見になるのかなと思います。

制作の授業の中で、私が作品の一部に使っているピューター(※)なんかも鋳造する
んですが、その過程を知って、例えば修学旅行の前であれば奈良の大仏はどうやって
できたのかを言うと、修学旅行に行った先で制作の跡を探してみたり、どういう技法
でやったのかに思いをはせる一つのきっかけになるかなと思います。


日下
そういう制作と鑑賞のつながりのある観点でご指導されていて素晴らしいですね。
菅原さんに習っている生徒さんは良いですね。


菅原 睦さん
ありがとうございます。
そういうふうに感じてくれていればいいなあとは思っています。


日下
最後の質問になりますが、「あなたにとってアートとは?」いかがでしょうか。


菅原 睦さん
作品で生計を立てるという意味で、彫刻家になろうっていうことに今あまり興味が
ないというか、生活の中の一部として作ることに重きをおいているので、あまり
ビシッと格好良い言葉で鋭いことも申し上げられないんですが。

何か淡々とやれればいいなあと思っていますし、特別なものとして扱うのではなく、
あんまり興味がない人にもこれから好きになってもらったり、身近なものにしていき
たいなぁっていうのは、最近すごく感じています。

卒業して働きながら作ってくる中で、本当に美術が好きなのか悩んだ時期もあるん
ですが、何とか続けていきたいと感じることが多く、自分にとって多くの部分で
豊かさを与えてくれるものなのだと感じています。

もしこれから作ることをやめても見ることは楽しんでいくだろうと思いますし、もし
彫刻の分野をやめたとしても何か違うことを探していくのかなと思っています。
できれば、自分だけではなくて、それを周囲の人たちと共有できれば一番いいなあと
思っています。


日下
菅原 睦さん、今回は素敵なお話をたくさんお聞かせ頂いて
ありがとうございました。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
編集後記

今回、平井 孝典さんのご紹介で菅原 睦さんに初めてお話をお伺いしました。
菅原 睦さんは岩手大学の特設美術科で彫刻を学ばれました。菅原さんは岩手県水沢市の
ご出身です。
卒業後は美術講師をなさりながら、週末などに赴任地から盛岡の共同アトリエに通って制作
を続けてこられたそうです。 制作にかけられる時間等から、素材は石から鉄へと変えて
こられたとのこと。
昨年、岩手県久慈市に赴任されてからは、盛岡の共同アトリエに通うことができなくなり、
車に積める程度の大きさの石で制作を継続されているそうです。
菅原 睦さんは落ち着いて穏やかにお話をされる方ですが、何かたくましい南部男という
感じで根気良く彫刻に取り組んでいらっしゃる印象を受けました。


最終回の今日は、菅原さんが教員として、生徒さんには制作とともに鑑賞の目を育て
て行かれたいというお話がありました。教育の現場だけでなく、私も美術のあり方と
して、作家が制作することが、社会にとってどのような役割があるのか関連づけて伝え
ていくのは大切なことだと考えます。
菅原 睦さんは、ご自身の立場でそれをごく自然に実践されていて、とっても貴重で
素晴らしいと感じました。

また「あなたにとってアートとは?」の問いには、制作が生活の一部というお話を
お聴かせ頂きました。
菅原さんの気負うことなく淡々と制作をされていて、そして人々と共有していきたい
と語る姿は、とても自然で、印象的に感じました。

菅原 睦さん、今回は素晴らしいお話をたくさんお聞かせ頂きまして、ありがとう
ございました。

来週からしばらくは、これまでの作家インタビューの中からお勧めのものを再放送
としてお届けしてまいります。

どうぞお楽しみに。


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◆ 菅原 睦さんが掲載されているWEBページ
第87回 国画会


◆ 菅原 睦さん 経歴
1981 岩手県生まれ
 2001 盛岡彫刻シンポジウム参加 以後毎年参加
 2003 国画会彫刻部 初入選
 2005 岩手大学大学院修了 同年 中国新疆ウイグル自治区で日本語講師に就く
 2006 岩手県で公立学校の美術講師に就く 至現在
 2013 国画会彫刻部 「B社奨励賞」 受賞


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